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第5話 謎の病
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アンカーの帰還祝いの夕食会はシヴァリエに見つかるとまずいとの理由で皆楽しんだ後すぐに片付けに移った。
ものの5分で食器、机などを片付け、あとは本職の厨房の者達に任せてアンカーらは食堂を出た。
時刻は午後19時10分。
「いやぁお腹いっぱいになりましたよ姉さん、アンデル。どうもありがとう」
「いえ、兄上が満足して下さったら僕は嬉しいので。また作ります!」
「そうねアンデル。また一緒に…ゲホッゲホッ!」
突然ヨルバが咳き込み出した。
「姉さん!…アンデル!薬と水を!」
「はい!」
「ごめんなさいね…」
「気にしないで、姉さん」
実はヨルバは重い病を患っている。
しかし病名は分からない。
症状は咳、発熱、だるさ、血痰、嘔吐、吐血。
一見結核に近い症状なでそうかと思うが医者にかかって結核の薬をもらっても治らない。
実はヨルバだけでなく他貴族の女性ばかり同じ様な病に侵されているらしい。
そしてたちの悪い事にこの病は徐々に痩せ細り、死に至る可能性がある。
しかしハーレは発症していないのだ。
そこでアンカーは敬愛する従姉の為に何度も聞き取りをしたのだが解決策は見出せなかった。
基本発症してから10年~20年という長い歳月をかけて症状が悪化し、死ぬ。
ヨルバは17歳の頃から発症し出したと推測され、今年で10年目に突入する。
咳き込む頻度も吐く回数も年々増加の一途だ。
アンカー兄弟はなにも出来ず、ただ従姉が苦しむ姿を見ることしか出来なかった。
「姉様!お薬です」
「慌てずゆっくり飲んで下さい」
「…ありがとう」
ヨルバは受け取った咳止め薬を飲み、そのまま寝室へと送ってくれと言ってきた。
「姉さん、風呂は?」
「…今日は無理ね」
「後でメイドに頼んでおきます」
「助かるわ…ゲホッ」
アンカーはヨルバを横向きに抱き抱え、寝室で寝かせた。
外で待っていたアンデルに目配せし、食後の散歩がてら馬にランプを吊るし、ライン家の敷地内を歩き出した。
2つのランプを深淵を照らしていたが、アンカーにはなんだか不気味に思えた。
「アンデル、姉さんのあの症状。やっぱり悪くなってるか?」
「…はい。一昨日には2回嘔吐されてました。ただ今日は比較的ましでさっきの咳が最初です」
「そうか…それにしても発症から10年経つってのにまだ解決策が出ないのか医者共は。軍医の方がもっと早く答えを出すぞ」
しかしその答えとは「死ぬ」かの1択だった。
それをあえてアンカーは言わなかった。
弟にはまだ早いと思ったからである。
「食事が原因なら俺たち男子も罹ってるはずだ。環境か?他貴族の令嬢も多く罹ってると聞くし…」
「なんとも歯痒い気持ちです…」
「まだ時間はある。なんとかなるさ」
そう言ってアンカーは凹む弟の頭をポンポンと叩いて馬の向きを変えた。
「帰るぞ、アンデル」
「…はい」
4月3日早朝
〈ライン家馬場〉
アンカーは朝早くに起きて馬場にて馬を走らせていた。
軍務に明け暮れる毎日で家に帰れなかったこともあり、従姉の病が思ったりよりも進行していた事に驚き、昨日は中々寝れなかったのである。
「ハァッ!」
馬のスピードを上げる。
あの病をなんとか出来ないかという心の底に溜まっていく不安を振り払う気持ちで走り続ける。
しかし、それはまとわりついたままだった。
「…くそッ!」
小声で言ったつもりだったが早朝の誰もいない静かな馬場に木霊した様に思えた。
手綱を引き、馬を止める。
「…戻るか」
〈ライン家〉
シャワーを浴びてから私服に着替え、食堂へ向かう。
朝早い食堂には料理人しかいないと思われたが1人、座って朝食を食べている者がいた。
朝日の光で見づらいがシルエット的にあいつだろうと察した。
黙って自分の席に座り、その者の方を見て頭を下げる。
下げられた側の席は現当主シヴァリエの席にほど近い。
つまりアンカーより高位の人間という事だ。
「おはようございます、異母兄上」
「…あぁ、お前か」
素っ気なく返された声は聞くだけでも嫌になる。
まるで艦内のネズミのような耳に残る声だった。
彼の名はラヴァリエ・ド・ライン。
アンカーの異母兄である。歳は32歳。アンカーの6つ上で父親似の黒髪に黒目。
そして父にそっくりな不細工で、死んだ目をしている。
目だけだけは父に似ていない。
性格は陰湿で狡猾。奴隷や平民には一切容赦がない生粋の貴族である。
しかし軍人としては優秀な様でこの世に神がいたら天界から引き摺り下ろして「あんな性格悪の奴に才能を与えたのは何故だ」と問い詰めてやりたい。
そして2人の仲は険悪であった。
アンカーは出された朝食をさっさと食べ終わって本でも読もうと思っていたが珍しくあちらから話しかけてきた。
「アンカー、お前こんな朝早く起きるなんて珍しいこともあったもんだなぁ?」
イラッとするなコイツ…。
その声やめろ。舌切り落とすぞ。
それから口を開いたと思えば皮肉かそうか。
朝早く起きちゃ悪いか。
…我慢我慢。
「あぁ、昨日ヨルバ姉さんの病気のことを考えていると少し眠れなくて」
「フン、あんな不細工の心配をしているのか。これだから女は嫌いなんだ。政略結婚で家が繁栄するならばともかく。奴ら病と偽って助けてもらう事を喜んでいるんじゃないか?えぇ?」
「………その様なことはありませんよ。異母兄上」
「ハンッ。どうだか」
マジでコイツ殺してぇ…。
半分同じ血が流れてるとか考えたくもない。
貴様戦艦の砲門に詰めて発射してやろうか。
だがここで諍いを起こすのは得策ではない。
だからアンカーはその後終始黙り続け、先に食べ終わり食堂を出た。
「もっとゆっくり食えんのか」
そんなことが聞こえたが戦場でそんな悠長に食ってたら死ぬぞ貴様。
さて、会いたくもない奴と会ってしまったが仕方ない。今日は何をしようか。
そう考えていると早寝早起きのアンデルが起きてきた。
自分より早く起きているアンカーを見て驚愕し、大慌てで着替えてビシッと前に立つ。
「おはようございます、兄上!」
「おはよう、アンデル。そんなに急ぐことないじゃないか」
「…確かにそうですね」
これには2人して笑った。
「兄上、今日のご予定は?」
「特にない。逆に何しようか考えていたところだ。1つ本を読むことが挙がったが何かあるのかい?」
ニコニコしながらアンデルは言った。
「買い物に行きませんか?」
ものの5分で食器、机などを片付け、あとは本職の厨房の者達に任せてアンカーらは食堂を出た。
時刻は午後19時10分。
「いやぁお腹いっぱいになりましたよ姉さん、アンデル。どうもありがとう」
「いえ、兄上が満足して下さったら僕は嬉しいので。また作ります!」
「そうねアンデル。また一緒に…ゲホッゲホッ!」
突然ヨルバが咳き込み出した。
「姉さん!…アンデル!薬と水を!」
「はい!」
「ごめんなさいね…」
「気にしないで、姉さん」
実はヨルバは重い病を患っている。
しかし病名は分からない。
症状は咳、発熱、だるさ、血痰、嘔吐、吐血。
一見結核に近い症状なでそうかと思うが医者にかかって結核の薬をもらっても治らない。
実はヨルバだけでなく他貴族の女性ばかり同じ様な病に侵されているらしい。
そしてたちの悪い事にこの病は徐々に痩せ細り、死に至る可能性がある。
しかしハーレは発症していないのだ。
そこでアンカーは敬愛する従姉の為に何度も聞き取りをしたのだが解決策は見出せなかった。
基本発症してから10年~20年という長い歳月をかけて症状が悪化し、死ぬ。
ヨルバは17歳の頃から発症し出したと推測され、今年で10年目に突入する。
咳き込む頻度も吐く回数も年々増加の一途だ。
アンカー兄弟はなにも出来ず、ただ従姉が苦しむ姿を見ることしか出来なかった。
「姉様!お薬です」
「慌てずゆっくり飲んで下さい」
「…ありがとう」
ヨルバは受け取った咳止め薬を飲み、そのまま寝室へと送ってくれと言ってきた。
「姉さん、風呂は?」
「…今日は無理ね」
「後でメイドに頼んでおきます」
「助かるわ…ゲホッ」
アンカーはヨルバを横向きに抱き抱え、寝室で寝かせた。
外で待っていたアンデルに目配せし、食後の散歩がてら馬にランプを吊るし、ライン家の敷地内を歩き出した。
2つのランプを深淵を照らしていたが、アンカーにはなんだか不気味に思えた。
「アンデル、姉さんのあの症状。やっぱり悪くなってるか?」
「…はい。一昨日には2回嘔吐されてました。ただ今日は比較的ましでさっきの咳が最初です」
「そうか…それにしても発症から10年経つってのにまだ解決策が出ないのか医者共は。軍医の方がもっと早く答えを出すぞ」
しかしその答えとは「死ぬ」かの1択だった。
それをあえてアンカーは言わなかった。
弟にはまだ早いと思ったからである。
「食事が原因なら俺たち男子も罹ってるはずだ。環境か?他貴族の令嬢も多く罹ってると聞くし…」
「なんとも歯痒い気持ちです…」
「まだ時間はある。なんとかなるさ」
そう言ってアンカーは凹む弟の頭をポンポンと叩いて馬の向きを変えた。
「帰るぞ、アンデル」
「…はい」
4月3日早朝
〈ライン家馬場〉
アンカーは朝早くに起きて馬場にて馬を走らせていた。
軍務に明け暮れる毎日で家に帰れなかったこともあり、従姉の病が思ったりよりも進行していた事に驚き、昨日は中々寝れなかったのである。
「ハァッ!」
馬のスピードを上げる。
あの病をなんとか出来ないかという心の底に溜まっていく不安を振り払う気持ちで走り続ける。
しかし、それはまとわりついたままだった。
「…くそッ!」
小声で言ったつもりだったが早朝の誰もいない静かな馬場に木霊した様に思えた。
手綱を引き、馬を止める。
「…戻るか」
〈ライン家〉
シャワーを浴びてから私服に着替え、食堂へ向かう。
朝早い食堂には料理人しかいないと思われたが1人、座って朝食を食べている者がいた。
朝日の光で見づらいがシルエット的にあいつだろうと察した。
黙って自分の席に座り、その者の方を見て頭を下げる。
下げられた側の席は現当主シヴァリエの席にほど近い。
つまりアンカーより高位の人間という事だ。
「おはようございます、異母兄上」
「…あぁ、お前か」
素っ気なく返された声は聞くだけでも嫌になる。
まるで艦内のネズミのような耳に残る声だった。
彼の名はラヴァリエ・ド・ライン。
アンカーの異母兄である。歳は32歳。アンカーの6つ上で父親似の黒髪に黒目。
そして父にそっくりな不細工で、死んだ目をしている。
目だけだけは父に似ていない。
性格は陰湿で狡猾。奴隷や平民には一切容赦がない生粋の貴族である。
しかし軍人としては優秀な様でこの世に神がいたら天界から引き摺り下ろして「あんな性格悪の奴に才能を与えたのは何故だ」と問い詰めてやりたい。
そして2人の仲は険悪であった。
アンカーは出された朝食をさっさと食べ終わって本でも読もうと思っていたが珍しくあちらから話しかけてきた。
「アンカー、お前こんな朝早く起きるなんて珍しいこともあったもんだなぁ?」
イラッとするなコイツ…。
その声やめろ。舌切り落とすぞ。
それから口を開いたと思えば皮肉かそうか。
朝早く起きちゃ悪いか。
…我慢我慢。
「あぁ、昨日ヨルバ姉さんの病気のことを考えていると少し眠れなくて」
「フン、あんな不細工の心配をしているのか。これだから女は嫌いなんだ。政略結婚で家が繁栄するならばともかく。奴ら病と偽って助けてもらう事を喜んでいるんじゃないか?えぇ?」
「………その様なことはありませんよ。異母兄上」
「ハンッ。どうだか」
マジでコイツ殺してぇ…。
半分同じ血が流れてるとか考えたくもない。
貴様戦艦の砲門に詰めて発射してやろうか。
だがここで諍いを起こすのは得策ではない。
だからアンカーはその後終始黙り続け、先に食べ終わり食堂を出た。
「もっとゆっくり食えんのか」
そんなことが聞こえたが戦場でそんな悠長に食ってたら死ぬぞ貴様。
さて、会いたくもない奴と会ってしまったが仕方ない。今日は何をしようか。
そう考えていると早寝早起きのアンデルが起きてきた。
自分より早く起きているアンカーを見て驚愕し、大慌てで着替えてビシッと前に立つ。
「おはようございます、兄上!」
「おはよう、アンデル。そんなに急ぐことないじゃないか」
「…確かにそうですね」
これには2人して笑った。
「兄上、今日のご予定は?」
「特にない。逆に何しようか考えていたところだ。1つ本を読むことが挙がったが何かあるのかい?」
ニコニコしながらアンデルは言った。
「買い物に行きませんか?」
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