オストメニア大戦

居眠り

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第3話 王国軍首脳参謀本部

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 アンカーとベストロニカが出されたコーヒーを飲み始めているのを見て今頃自分の分が無いことに気づいたドレトクはお仕置きの本当の意味を知って甚だ落胆した。

「わしのコーヒーは無いのか…」

ボソッと言ったが他3人は全員聞こえており「気づくのが遅いなぁ」と共通の感想を思った。
仕方なく立ち上がって自分で淹れ始めつつ、ドレトクは考察の続きを始めた。

「正直言って今回の挑発にカーリスが乗ってくるとは思えん。わしも開戦反対派だしな。それに実際開戦して利があるのは…」

「大貴族連中と国王陛下でしょう?」

淹れ終わったコーヒーを行儀悪くその場で立ち飲みしながらドレトクは頷いた。

「そうだな。だがこれは王国軍首脳参謀本部の策だろう。特にあの7人の献策と察することが出来る」

「まぁ彼らのほとんどは開戦反対派ですしね」

王国軍首脳参謀本部とは軍務大臣直轄の組織であり、作戦立案等を行う。
陸軍、海軍本部長は権力を国王と軍務大臣に握られている為、役目は実戦指揮の長というわけだ。
その王国軍首脳参謀本部の中で特に「6人の大参謀(ビスドルゴ・ノ・ゼフルス)」と呼ばれる6名の能力は群を抜いている。
そのうち5人が開戦に反対しているらしい。
どうやら明後日の挑発行動を最後に国王や大貴族共の願いは潰えるようだ。
ざまぁみやがれ。
俺だって戦争はあんまり好きじゃないし目的が外では無く内にあるし…ともう一口コーヒーを飲もうとした時、いつの間にやら座り直していたドレトクがスッと書類を出してきた。

「…これは」

「2ヶ月後の哨戒、訓練任務要項だ」

「嘘でしょ…?いやだって出撃前にこの一連の挑発行動は4回までって言ってただろ叔父上!」

「王太子殿下のご要望だ」

「「!?」」

ご飯を食べ終えたラートを膝に乗せて黙って話を聞いていたベストロニカも息を呑んだ。
2人の衝撃を受けた様子を見てハーレがドクトラに代わって説明する。

「前回の舞踏会の折、つまり貴方達がいない1ヶ月前にね。王太子殿下が国王陛下の前で宣言したのよ。『僕は立派な国王になる為に父王陛下の許可のもと、軍人の道に進む』ってね。それで陛下が海軍出身ということもあって海軍に入隊されたのよ」

「ハーレ中佐、まさか配属先は…」

「えぇそうよ少佐。第2艦隊に特別参謀将校として、エスメール殿下が大佐となって配属されるわ」

「ということは模擬戦にも参加されるのですか!?」

思わずアンカーは席を立って叫ぶ。
ドクトラは落ち着けと言わんばかりにちょいちょいと手を振って座らせる。

「そうだ、アンカー。模擬戦にも参加なされる」

「危険です!アレはペイント弾とはいえほぼ毎回重傷者が多数出るヤツですよ!?ほぼ実戦です!宮廷育ちのボンボン王太子が居ても足手まといになるだけです!!」

「アンカー!」

ドクトラが低くドスの効いた声でアンカーを叱る。
王太子を馬鹿にしたことを怒ったわけではない。
今の発言が他の誰かに聞かれていたら確実に不敬罪で処刑されるからだ。
それを危惧したのだ。

「…すみません、叔父上」

「いや、言いたい気持ちも分かる。わしだって大反対だ。模擬戦の結果次第で昇進が決まると言っても過言ではない。君の野望も十分承知している。だがよくよく考えてみろ」

「何をです?」

「王太子、エスメール殿下を懐柔してみろ。君がこの王国を滅ぼすよりよっぽど楽に奴隷制を廃止出来るぞ」

「!!」

「どうだ、そう考えるとメリットがないわけではないだろう?」

「確かに…しかし話や噂を聞く限り殿下はガチガチの貴族主義らしいですが上手くいきますかね?」

「それは君の腕次第だが、1つだけ確実に言えるのは彼が奴隷制信奉者では無いということだよ」

「なら付け入る隙はありますね」

「出立は1ヶ月後。5月5日だ。顔合わせとして1日に一度対面してもらうがその時にいろいろ探っておくんだね」

途中の険しい態度から一転、いつもの叔父の調子に一息ついたアンカーだったが愛猫のラートは一息どころじゃない!といった風に鼻息を荒くしてドクトラの膝の上に乗る。

「ラート?どうしたんだい?」

「「あー…」」

「え?どこか当たっちゃった!?」

ハーレは自分が作ったご飯がラートに合わなかったのではと動揺したがそんなことは無い。
叔母上、こいつ何でも食います。
じゃなくてこの仕草、食後…。
合点がいったアンカーは同じくラートの行動の意味を理解したベストロニカと顔を見合わせ、ドクトラの方を見る。

「な、なんだい?」

「ラートは、モフれと言ってきているのです。叔父上」

「是非、どうぞ」


〈海軍本部待合室〉
叔父夫婦にモフモフされまくったラートはベストロニカの腕の中で満足気に寝ている。
良かったなお前。正直羨ましい。
あの後モフモフしながら多少の追加報告と世間話をしていたら1時間半も時間が過ぎていた。
まだまだ来客がいたようでドクトラは急いで2人と1匹を半ば追い出した。
悪い悪い!と言っていたがまぁあの感じは叔父上らしいやと思う。
下ネタ発言は嫌いだが。

「さて、少佐。今日の仕事は全て片付いた。家まで送るよ」

「本当ですか?司令。ではお言葉に甘えて…」

「ご歓談中、失礼します」

急に2人の話の間に割って入ってきたのは50歳から60歳に見える男性。
服装は一目で分かる。
執事だ。
そしてアンカーには見覚えのある顔だった。

「ナースルさん。わざわざ海軍本部までどうしたんだ?」

「アンカー様、お久しゅうございます。半年ぶりでしょうか」

彼の名はサード・ナースル。
裕福平民の出であり、代々ライン家の執事を務めてきた家系の者だ。
そしてライン家現当主シュヴァリエ・ド・ラインの筆頭執事ラード・ギルマに次ぐ執事次長を任されている。

「なにかあったのか?」

「いえ、アンカー様がご帰還されたと聞いたアンデル様が急ぎ迎え上げよと仰いまして」

「あいつ、兄をわざわざ迎える準備を始めたのか!いやぁそれは嬉しいな。すぐ戻ろう。少佐、すまないが聞いた通り私用が出来た。送れなくてすまない。ではまた後日」

「えぇ…気をつけてお帰りください」

「本当に申し訳ない…」

そう言ってアンカーはラートを受け取り、足早に海軍本部を後にした。
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