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堕ちる

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「セリーナ」

 私の名前を呼ぶディオン様の声が聞こえる。
ディオン様の声は支配者のように、他を圧倒して平伏してしまいそうなる低く響く声だ。

「ディ……オンさま」

 お風呂に入って解毒剤を飲ませて貰ったけれど、お腹の奥に何かが渦巻いているみたいに、身体が疼いて仕方がない。

「セリーナ、どうして欲しい?」

 男女の営みについて無知だった私だけれど、働き出してから、色々な人の話しを聞いてディオン様としている事がそうだという事は分かっていた。
 
 ディオン様から与えられる快楽に酔いしれて
全てを捧げたくなった事が何度かあった。
 でも、ディオン様は公爵様で私は平民、石化病が治れば私は用済みだ。

 世間に疎い私でもディオン様の恋人になれるなんて
夢にも思っていない……だけど。

「ディオンさま、抱きしめて……」

「……おいで」

 初めて会った時の様に、裸で抱き合う。
ディオンは私の髪を撫でると、キスをしてきた
息つく暇がないほどに深く舌が絡み合う。
 お腹の辺りにディオンの熱い猛りを感じる、

ーーディオン様が欲しい……。

 そう口にしてしまえれば、どんなにいいだろう。

 ディオン・グロンブナーは悪魔の様に美しく残酷な男、そう呼ばれている。
 
 誰よりも強く、逆らう者は容赦しない。
女達がどれだけ愛を捧げても同じ女とは二度と寝ない
 愛を知らない男。

「セリーナ……」

 恐ろしい程の色気を含んだ優しい声色。
勘違いしてはだめ、でも……。

「ディオンさ、ま、だめっ…!んんぅ……!!」

 美しい顔を私の足の間に埋めて、花芯に吸い付いて
指でぐちぐちと蜜壺をかき回す。
 何度も達しているけどその度にまた熱が溜まっていく。

「セリーナ……」

ーーだめ。

「君をこの苦しみから解放したい……」

ーー全てを許せばきっと飽きられてしまうわ。

「君が嫌がることはしたくない」

ーーだめ、だめ……。

「……君の口から聞きたいセリーナ」

 涙が溢れて止まらない、ディオン様の言葉が悪魔の囁きのように甘美で抗えない。

「ディオンさま……あなたがほしい」

 言ってしまった、私の言葉を聞いたディオン様は
私の手を取り手の甲にキスをしてこの世のものとは思えない美しい顔で微笑んだ。

「俺もずっと君が欲しかった」

 堕ちていく、そう思った。

 ディオン様は、私の膝裏をもち足を開かせると
蜜口に熱い猛りを押し当ててきた、そしてゆっくりと
私の中に入ってくる。

「あぁっ…!でぃ、おんさま……やあぁっ!」

 初めては痛いと聞いていたけど、媚薬のせいか
痛みはなく、全てが快楽に飲み込まれていく。

「セリーナ……」

 余裕の無い声で呼ばれて、ディオン様に求められて
愛されている錯覚に陥いる。

 最初はゆっくり動かしていたけれど、ディオン様も限界が近いのか次第に激しく腰を打ちつけられ
 我慢出来ずに声が漏れる。 

「ディオンさ、ま……はげしいの…あぁっ」 

 身体が軋む程に抱きしめられて、私達は一緒に達した。


 色々なことがありすぎて、ディオン様と初めて身体を重ねた翌日から寝込んでしまった。
 
 柔らかなベッドで、栄養のある食事を取ったのは何年振りだろうか。数日寝込んだ後、すっかり元気になるとディオン様は私付きのメイドだとルーナとメリッサを紹介してくれた。

 ルーナは黒髪のボブヘアーの可愛らしい顔つきの小柄で落ち着いた性格の女の子で、メリッサは金髪の綺麗な顔立ちで長身でスタイルのよい元気な女の子。

「さぁ、お着替えしますよぉ」

「待ちなさいメリッサ!湯浴みが先ですわ」

「あっ、そっか」

 2人にお風呂に入れられ、マッサージを受けたあと
ドレスルームとメイクルームが一緒になった広い部屋で着せ替え人形の様に2人にあーでもないこーでも無いと言いながら着替えとメイクを施された。

「出来ましたぁ!」

「お美しいですわ、セリーナ様」

「ありがとう2人共、こんなに素敵なドレスを着たのは初めてだわ」

 2人が選んでくれたドレスは、朝なので露出を抑えたトップス部分が白いレースになり、胸元から淡いブルーのベアトップになったふんわりとしたドレスだった。

「旦那様が、お待ちですので早くお部屋に向かいましょう」

「セリーナ様の姿を見たら旦那様びっくりしますよぉ」

 グロンブナー公爵家は、昔一度だけ両親と行った事がある王宮よりも遥かに大きかった。
 窓の外には美しく整えられた庭が見え、ロングギャラリーと呼ばれる国宝級の美術品が並ぶ廊下を抜けると、朝食を取る為だけのお部屋についた。

「旦那様、セリーナ様がいらっしゃいました」

「入れ」

 ルーナが声をかけると、ディオン様の声が聞こえて
部屋の中に入る。

「おはようございますディオン様」

 私の姿を見たディオン様は一瞬固まった後、席を立ってテーブルにエスコートしてくれた。

「綺麗だ、セリーナ」

 耳元で囁かれて、顔が紅潮して恥ずかしくなってしまう。

「あ、ありがとうございます……ディオン様」

 顔を合わすのが少し心配だったけど、変わらず接してくれた。ディオン様はお忙しい方で、家を開ける
事が多く、お屋敷の中は自由にどこでも行ってもいいと言われたので、図書室に入り浸っていた。

「あぁ、読みたかった本がこんなにいっぱい!」

 グロンブナー公爵家の図書室は、王立図書館にも
負けない程の蔵書で、本好きだった私は興奮して本を読みあさった。

 図書室の大きなソファーに座り本に夢中になっていると、突然本を誰かに取り上げられた。

「え?」

「セリーナ、何度も呼んだのに聞こえないのか?」

「ディオン様!ごめんなさい気づかなくて」

 シュンとする私の横にディオン様は座り、取り上げた本を見た。

「白魔法の歴史?」

「はい、ディオン様の治療のヒントが何か無いかと調べていました。こちらのお屋敷に来てからお世話になる事ばかりだから何かお役に立てる事はないかと思って……」

「セリーナは充分、役に立ってくれているじゃ無いか」

 グロンブナー公爵家に来てから私達は毎晩、獣のように愛しあっていた。その事を思い出して恥ずかしくなり俯いた。

「でも、その……」

「役に立つか、そうだな」

 ふむ、と微笑ったディオン様は私をソファーに押し倒す。

「ディオン様?んんっ!」

 私の両手を片手で拘束したディオン様は、キスをしながら器用に片手でブラウスを脱がしてコルセットを剥ぎ取り、乳房の頂きを見せつける様に口に含み吸い付いた。

「こんなところでダメです!ああっ……」

 ディオン様に触れられただけで、下半身に蜜がトロリと零れたのがわかった。
それに気づいたディオン様は私の下着を剥ぎ取り、熱い猛りを中に入れて来た。  

 こんな所でする背徳感で感じ過ぎてしまい、そんな私を見たディオン様もタガが外れた様に激しく求めて来て、結局立ちあがれない程に欲をぶつけられた私は
子供の様にディオン様に抱っこされて図書室を後にした。

 人生で感じた事のないほど幸せな時間だった。
でも、そんな穏やかな時間に終わりを告げる影が忍び寄っていたのをこの時の私は知る由も無かった。

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