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酔っ払いモモンガ、捕獲される 4

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「このお店から少し先に、小さな本屋さんがあるんですけど……私、そこの常連で。
いつも新刊が出ると仕事帰りに寄り道してて、それでーーー」
「それで?」 

言い逃げは許さないとばかりのまばゆい笑顔。
アラフィフがこの美貌とかもうこの世の奇跡ではあるまいか。

「あのお店も、いつも前を通ってて気になってたんですけど、一人ではなかなか入りにくくて…」
「そうか?普段は立ち入り自由になっていただろ?」
「ううっ。そうなんですけど、なんかこう場違いな感じというか、疎外感が……」

一見さんお断り、的な空気があったとは流石に言えない。

「ふむ、疎外感、ね?それがあって普段はなかなか店に入れなかったが、酒を呑んで気が大きくなってつい、って所か?」
「まさしく……」
「あぁ、項垂れないで。嬢ちゃんは何も悪いことはしていないだろう?」
「でも、貸し切りだったんですよね……?」

朧気に記憶しているが、確かそう言われたはずだし、先に店にいた二人組の男性客もとても驚いた様子だった。

「貸し切りというか、まぁ招待客限定のイベントみたいなもんだな」
「ううっ。大変失礼を……」
「いや?むしろ嬉しかったぞ?可愛いモモンガが自分から飛び込んできてくれたんだからな」
「………モモンガ?」

それは一体、と首を傾げれば、「ほら、着てたろ?被膜みたいなダラッとした上着」と。

「…………ああ!!」

そうだ、たしかに着ていた。

「あれはモモンガじゃなくてムササビ……」

訂正しようとし、いやまて、いま気にすることはそこじゃないと思い直す。

「あ、あの!そのコートなんですけど今どこにありますか⁉ポケットにスマホが入ってたはずで……!」

確か、手ぶらのまま財布代わりのスマホだけポケットに入れて外に出たはず。

「慌てるなって。ちゃんと向こうにかけてあるよ。ポケットの中は確認していないが、気になるなら今持ってきてやるから……」
「何から何まですみません……!」

まだスマホの無事を確認した訳では無いが、少なくともお気に入りのコートはなんとか回収できそうだ。

「あ、あの、ついでに私の服もーー」
「そっちはランドリールー 厶の中だ」
「ラ、ランドリー?」
「つまり洗濯中ってことだな。
下着も新しいのに変えたぞ?服も知り合いの服屋から新しいのを見繕わせたから、趣味に合うものをどれか適当に選んでくれ」
「え?え?え?」
「気づいてなかったのか?悪いが下着は俺の趣味で選ばせてもらったぞ」
「え」

激しく混乱しながら、慌てて身に付けていた下着を覗き込めば、たしかにそれは見覚えのないレース柄で。
言われてみれば、しま○らで上下セット2000円の下着とは比べ物にならないこのフィット感。

「前の下着を買うときちゃんとサイズを測ったか?あっていない下着は姿勢にも影響が出るんだ。次からは俺が一緒に選んでやるから」
「は、え、う???」
「服を着るならこっちだ。そのままの恰好でいるなら、このままベッドでもう一ラウンド決め込んでもかまわないが……」
「ひゃ!?」

悪戯な口調で額にキスされ飛び上がりそうになる。
もはやライフはゼロ、身ぐるみを剥がされたも同然。

そんな柚香にくくと笑いながら「大人しくしてろよ?」と優しく声を掛け、背を向ける榎本。

「あぁそうだ」とふり返ったその最後の一言に、柚香は震え上がった。

「まぁ、その恰好じゃ言うまでもないだろうがーーーー部屋の外には出るなよ?」
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