10 / 13
選択後 壱
蛇(オロチ)①
しおりを挟む
「私は……蛇さんを選ぶ。」
「……後悔はなさいませんか?」
「え?」
「……いえ……。」
たまちゃんの不安そうな再確認が、私の不安を煽った。すると私の表情を見たのか、たまちゃんがもう一度口を開いた。
「……蛇様は、気難しいお方なので。」
そう言う事か……、元々機嫌悪そうだったけど……。
「……うん、気をつけるね。」
私は蛇さんの名前の入った婚姻届にサインをして筆を置いた。
すると、婚姻届けはさらさらと砂のように崩れて消えてしまった。
「それでは、蛇様のお部屋にご案内いたします。」
「うん、お願いします。」
部屋を出ると、広々とした廊下が続いていて一体どこまで続くのかと考えてしまう。
たまちゃんの先導についていくと、一番奥の一室の前でたまちゃんの足が止まった。
「ここが、蛇様のお部屋でございます。」
「そう。」
私が頷くと、たまちゃんの軽快なノックが廊下に響いた。
しかし返事がなく、扉も微かに開いていた。
「留守?」
「またそのようですね、”また”!」
「……また?」
私が訪ねると、たまちゃんは尻尾と頭の毛を逆立ててこちらを振り向いた。
「そうです!ま!た!蛇様は一人の時は自室にこもることが多いですが、時々もう一つの部屋におられることもあって……。」
「もう一つ?なら「その部屋に行こうとか思っちゃいけません!!」ッえ?」
「悠智様が来る前にも同じことがあって、はじめのうちはわからないままその部屋を開けようとしたんです。その時に蛇様の方から扉をお開けになって、その時の鬼の形相と言ったら!!」
「へ、へぇ……。」
「とにかく!!絶対にもう一つの部屋を教えられませんし、知ったとしてもその部屋の中に入ろうなんて考えちゃいけませんよ!」
「う、うん……分かった……そうするね。」
その話をするたまちゃんの形相ほどではないんじゃないかな……とは言わないでおこうと決めた。
やっぱり猫だから怒るとあぁいう顔するよね……。
私は、そのあとたまちゃんに案内されて先に部屋に入った。
蛇さんの部屋は、一辺に収められた本棚と、窓の近くにベッドと手元を照らすランプがあるのみ。
これだけ何もないと逆に掃除はしやすそうだけど。
部屋に唯一ある窓は、とても大きいけどエンドウなのか藤なのか蔓のようなものがびっしり貼り付いていて光を入れられる状態でもなかった。
それにしてもこれじゃジメッとしすぎていて息もできない。
私は恐る恐る窓を開いた。
窓は私が全体重をかけるとぎぃと音を立ててやっとのことで微かに開いた。
それ以上開けようにも蔓が手に巻き付いてきたからあきらめた。
蔓自体もちょっと引っ張っただけでとげが浮き出てうねり動いて抵抗するなんて……ここは本当に何もかもが不思議な事ばっかりだ。
思い返してもきっと完全に異世界に来たってわけではないんだと思う。獣街に来る方法も大きめのワゴン車だったし。
すると、ふと開いている窓の隙間から冷たい空気が入ってきた。
今まで開けても無風だった……誰か来たんだ。
私はチラッと目だけを動かした。
「動くな。」
「ッ……!」
その澄んだ冷たすぎる声はさっき私を蔑む目で見ていた蛇さんのものだ。
私は、恐怖に体が固まる感覚がした。
「なぜ人間が私の部屋にいる?」
「たまちゃん……、メイドさんに先に入っているようにと言われました。」
「」
蛇さんはわざとらしく舌打ちとため息を吐いた。
「目を閉じて3歩後ろのベッドに腰を掛けろ。」
「……?」
「聞こえなかったのか?従え。」
その冷たい声は私のすぐ耳元で発せられているものだった。
おかしい……さっき聞いた声は扉の方から聞こえていた。
そんなに大きく踏み出していれば足音が聞こえるはず……それに後ろに誰かが立っている感覚もなかった。
私は不審すぎる状況に身を任せるほかなく、言われたとおりにベッドに腰を掛けた。
するとすぐに私の手をザラッとした冷たい枝のようなものが掬った。
しかしその枝のようなものはゆっくりと動いて私の感触を確かめるように私の袖を捲った。
その動きで私は今、蛇さんに触れられているのだと気が付いた。
それと同時にあまりに冷たすぎる体温と残った粘液質に息が震えた。
この人は“人”でないんだ。
蛇さんは私の腕を触ると、気が済んだのか離れていった。
「目を開けろ。私は別室で眠る。」
バタンッっとわざとらしい扉を閉める音に、私はびくついて目を開けた。
あたりを見渡すと既に蛇さんの姿はなく、腕には水分一つも残ってはいなかった。
それなのに、触れられたところは恐ろしいほど冷たさが残って、心まで冷え震えあがった。
私は、布団を頭までかぶって体の震えが止まるのを待って眠りについた。
「……後悔はなさいませんか?」
「え?」
「……いえ……。」
たまちゃんの不安そうな再確認が、私の不安を煽った。すると私の表情を見たのか、たまちゃんがもう一度口を開いた。
「……蛇様は、気難しいお方なので。」
そう言う事か……、元々機嫌悪そうだったけど……。
「……うん、気をつけるね。」
私は蛇さんの名前の入った婚姻届にサインをして筆を置いた。
すると、婚姻届けはさらさらと砂のように崩れて消えてしまった。
「それでは、蛇様のお部屋にご案内いたします。」
「うん、お願いします。」
部屋を出ると、広々とした廊下が続いていて一体どこまで続くのかと考えてしまう。
たまちゃんの先導についていくと、一番奥の一室の前でたまちゃんの足が止まった。
「ここが、蛇様のお部屋でございます。」
「そう。」
私が頷くと、たまちゃんの軽快なノックが廊下に響いた。
しかし返事がなく、扉も微かに開いていた。
「留守?」
「またそのようですね、”また”!」
「……また?」
私が訪ねると、たまちゃんは尻尾と頭の毛を逆立ててこちらを振り向いた。
「そうです!ま!た!蛇様は一人の時は自室にこもることが多いですが、時々もう一つの部屋におられることもあって……。」
「もう一つ?なら「その部屋に行こうとか思っちゃいけません!!」ッえ?」
「悠智様が来る前にも同じことがあって、はじめのうちはわからないままその部屋を開けようとしたんです。その時に蛇様の方から扉をお開けになって、その時の鬼の形相と言ったら!!」
「へ、へぇ……。」
「とにかく!!絶対にもう一つの部屋を教えられませんし、知ったとしてもその部屋の中に入ろうなんて考えちゃいけませんよ!」
「う、うん……分かった……そうするね。」
その話をするたまちゃんの形相ほどではないんじゃないかな……とは言わないでおこうと決めた。
やっぱり猫だから怒るとあぁいう顔するよね……。
私は、そのあとたまちゃんに案内されて先に部屋に入った。
蛇さんの部屋は、一辺に収められた本棚と、窓の近くにベッドと手元を照らすランプがあるのみ。
これだけ何もないと逆に掃除はしやすそうだけど。
部屋に唯一ある窓は、とても大きいけどエンドウなのか藤なのか蔓のようなものがびっしり貼り付いていて光を入れられる状態でもなかった。
それにしてもこれじゃジメッとしすぎていて息もできない。
私は恐る恐る窓を開いた。
窓は私が全体重をかけるとぎぃと音を立ててやっとのことで微かに開いた。
それ以上開けようにも蔓が手に巻き付いてきたからあきらめた。
蔓自体もちょっと引っ張っただけでとげが浮き出てうねり動いて抵抗するなんて……ここは本当に何もかもが不思議な事ばっかりだ。
思い返してもきっと完全に異世界に来たってわけではないんだと思う。獣街に来る方法も大きめのワゴン車だったし。
すると、ふと開いている窓の隙間から冷たい空気が入ってきた。
今まで開けても無風だった……誰か来たんだ。
私はチラッと目だけを動かした。
「動くな。」
「ッ……!」
その澄んだ冷たすぎる声はさっき私を蔑む目で見ていた蛇さんのものだ。
私は、恐怖に体が固まる感覚がした。
「なぜ人間が私の部屋にいる?」
「たまちゃん……、メイドさんに先に入っているようにと言われました。」
「」
蛇さんはわざとらしく舌打ちとため息を吐いた。
「目を閉じて3歩後ろのベッドに腰を掛けろ。」
「……?」
「聞こえなかったのか?従え。」
その冷たい声は私のすぐ耳元で発せられているものだった。
おかしい……さっき聞いた声は扉の方から聞こえていた。
そんなに大きく踏み出していれば足音が聞こえるはず……それに後ろに誰かが立っている感覚もなかった。
私は不審すぎる状況に身を任せるほかなく、言われたとおりにベッドに腰を掛けた。
するとすぐに私の手をザラッとした冷たい枝のようなものが掬った。
しかしその枝のようなものはゆっくりと動いて私の感触を確かめるように私の袖を捲った。
その動きで私は今、蛇さんに触れられているのだと気が付いた。
それと同時にあまりに冷たすぎる体温と残った粘液質に息が震えた。
この人は“人”でないんだ。
蛇さんは私の腕を触ると、気が済んだのか離れていった。
「目を開けろ。私は別室で眠る。」
バタンッっとわざとらしい扉を閉める音に、私はびくついて目を開けた。
あたりを見渡すと既に蛇さんの姿はなく、腕には水分一つも残ってはいなかった。
それなのに、触れられたところは恐ろしいほど冷たさが残って、心まで冷え震えあがった。
私は、布団を頭までかぶって体の震えが止まるのを待って眠りについた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる