上 下
2 / 11
畏怖と軽率の出会い

1.

しおりを挟む
これはとある2人の女性のお話。
話の始まりは彼女たちの稀有な出会いに遡る。
ここはとある都会。街では原因不明の死体が何件も発見され、ニュースで取り上げられるほどの大きな反響を呼んでいた。死体には必ず”いわく”が付いているとされ、報道も過激さが増していた。

その事件について依頼を受けた探偵、明智季依、歳は17を回ったところ。
彼女は仕事に責任を持つ実力のある探偵の一人で、大人と肩を並べるほどの気概も際立つ娘だったが、ここ数週間はタイミングが悪すぎた。
彼女の自信喪失期という理由でお仕事をお断りしていたのだった。
「またのご依頼をお持ちしております。」
お客の一人を事務所から出してソファにもたれかかりため息をつく。
この場面から見れば彼女は、どことなく弱弱しい年相応の高校生に逆戻りだった。

17歳、高校生ということは学校もある。季依にとってはそれがまた癪に障るのだった。
午後から通学をした彼女は教室に入ってすぐの非道な行為を一瞥して自らの席に着く。
それもまたいつも通りの出来事だ。

そしてこの非道な行為とは暴力、恐喝、強姦等の犯罪行為だ。
この言葉だと伝わりずらい内容のため、ひとまとめでオブラートに包んだ言葉「いじめ」ということになる。被害者は足立華弥子。転入してきたばかりの女子であった。
季依は華弥子の殴られて変色した顔に目をやった。そして転入当初の人形のような整った顔に圧倒されたことを思い出していた。華弥子は制服を切られ下着が露出していた。
その様を撮るのはクラスの女子の面々のいじめを生きがいとしているグループ。
通常であればあそこまでされれば学校にも来なくなるだろうに、華弥子は無表情を崩さずに淡々と屈辱を受け入れていた。

季依は「やめて」の一言も漏らさない華弥子に、薄気味悪さを感じていた。
すると、華弥子の虚ろな視線が季依とぶつかった。季依はその視線に静かに顔をそらした。

一方、華弥子は季依の時々向けてくる訝し気な視線にかすかな興味を持っていた。
しかし視線を合わせるとそらされてしまうことで少し拍子抜けていた。

放課後、華弥子は保健室で一通りの傷の手当てを済ませてもらった後、家路をゆっくりと歩いていた。
ぼんやりと通学路にさす夕日がオレンジ色に染め上げていて、一日が過ぎていくことに落胆した。
「あぁ、今日もまた……。」
ぽつりと独り言を漏らした時、ふと華弥子の視線が一人の男児に向けられた。
男児のランドセルには折り畳み傘がひょっこり顔を出していた。

その瞬間、視界の右側から猛スピートで走り抜けていく自転車に男児の傘が引っ掛かり、男児は勢いよく引き倒された。突然の出来事に自転車は一度その場に止まったものの、慌てたように走り逃げ出していった。華弥子は自転車の運転手の顔に目をやり、取り急ぎ倒れこんだままの男児に駆け寄った。

「大丈夫?手足の感覚がおかしなところはない?」
「痛いよぉ……うわぁ~ん!!!!」
男児は華弥子に体を起こされ、堰を切ったようにぼろぼろと泣き始めた。
華弥子は男児の頭を撫でて、顔を上げた。自転車の走り抜けていった方角を見るとすでに姿はあるわけもなく、風が吹き抜けていた。
「大丈夫よ。必ず傷は治るわ。」
「本当?」
「えぇ、……これで……愚かな理由ができた。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

グレイマンションの謎

葉羽
ミステリー
東京の郊外にひっそりと佇む古びた洋館「グレイマンション」。その家には、何代にもわたる名家の歴史と共に、数々の怪奇現象が語り継がれてきた。主人公の神藤葉羽(しんどう はね)は、推理小説を愛する高校生。彼は、ある夏の日、幼馴染の望月彩由美(もちづき あゆみ)と共に、その洋館を訪れることになる。 二人は、グレイマンションにまつわる伝説や噂を確かめるために、館内を探索する。しかし、次第に彼らは奇妙な現象や不気味な出来事に巻き込まれていく。失踪した家族の影がちらつく中、葉羽は自らの推理力を駆使して真相に迫る。果たして、彼らはこの洋館の秘密を解き明かすことができるのか?

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

後宮生活困窮中

真魚
ミステリー
一、二年前に「祥雪華」名義でこちらのサイトに投降したものの、完結後に削除した『後宮生活絶賛困窮中 ―めざせ媽祖大祭』のリライト版です。ちなみに前回はジャンル「キャラ文芸」で投稿していました。 このリライト版は、「真魚」名義で「小説家になろう」にもすでに投稿してあります。 以下あらすじ 19世紀江南~ベトナムあたりをイメージした架空の王国「双樹下国」の後宮に、あるとき突然金髪の「法狼機人」の正后ジュヌヴィエーヴが嫁いできます。 一夫一妻制の文化圏からきたジュヌヴィエーヴは一夫多妻制の後宮になじめず、結局、後宮を出て新宮殿に映ってしまいます。 結果、困窮した旧後宮は、年末の祭の費用の捻出のため、経理を担う高位女官である主計判官の趙雪衣と、護衛の女性武官、武芸妓官の蕎月牙を、海辺の交易都市、海都へと派遣します。しかし、その最中に、新宮殿で正后ジュヌヴィエーヴが毒殺されかけ、月牙と雪衣に、身に覚えのない冤罪が着せられてしまいます。 逃亡女官コンビが冤罪を晴らすべく身を隠して奔走します。

通詞侍

不来方久遠
ミステリー
 明治28(1895)年の文明開化が提唱されていた頃だった。  食うために詞は単身、語学留学を目的にイギリスに渡った。  英語を学ぶには現地で生活するのが早道を考え、家財道具を全て売り払っての捨て身の覚悟での渡英であった。

科学部と怪談の反応式

渋川宙
ミステリー
来年新入生が入らないと廃部になってしまう科学部。この危機を救うため、部長の上条桜太を筆頭に科学部が学園七不思議解明に乗り出した。これで成果を上げて新入生にアピールしようというのだが・・・・・・ 変人だらけの科学部に未来はあるのか!?

一輪の廃墟好き 第一部

流川おるたな
ミステリー
 僕の名前は荒木咲一輪(あらきざきいちりん)。    単に好きなのか因縁か、僕には廃墟探索という変わった趣味がある。  年齢25歳と社会的には完全な若造であるけれど、希少な探偵家業を生業としている歴とした個人事業者だ。  こんな風変わりな僕が廃墟を探索したり事件を追ったりするわけだが、何を隠そう犯人の特定率は今のところ百発百中100%なのである。  年齢からして担当した事件の数こそ少ないものの、特定率100%という素晴らしい実績を残せた秘密は僕の持つ特別な能力にあった...

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

処理中です...