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もう一つの恨み

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「ゆうげでございます。」

夕飯の時間になって、俺が台所に向かおうと立ち上がったとき、ヨンの声が聞こえた。

「あ、ど……どうぞ。」
すごい……上の人たちはこうやって食事も運ばれてくるのか……。

俺が感心していると燕はまたギロりと睨んだ。

「食事が運ばれてきたら、まず汁物に匙を入れてよくかき混ぜてください。」

へぇ……すごくいい匂い...。
俺の腹の虫が一つぐうとなった。

「食べる作法って決まってるのか?」
「いえ。ただ……」

燕は汁物から匙をゆっくり取り出した。
その匙は真っ黒になった。

「毒が入ったものはこのように変色します。」
「なッ……毒!?」

俺は思わず近づけていた顔を離した。
「故に、こうなった時はひっくり返してでも食事自体を下げさせてください。」


それってなんか...
「……もったいないな。」
「死に急ぎたいならどうぞお召し上がりください。」

「ッ!!」
俺は慌てて頭をブンブンと振った。

「……ご心配には及びません。謝那シャイナ様の分はきちんとここにあります。」

燕はそういいながら自分の横に置いてあった汁物を俺の膳に置いた。

「……それって燕の分じゃ「もういただきました。」……そう……か。」

俺は改めて匙を汁物につけて確認してから、食事を始めた。



「あともうひとつ。」
食事が終わる頃になって燕はまた口を開いた。
「……何?」
「これからこの家で"見るものは見ていない。"、"聞くものは聞いていない。"を貫いてください。」

「は?」
「それが例え……耐えかねる状況でも。」


「……それってどう言う「いいですね。」……はい。」

その燕の冷たい表情の中に隠された、何者にも変わらない憎悪の心を……

この時の俺はまだ知る由もなかった。
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