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誘拐計画(仮)②
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咄嗟に呼んだ影子ちゃんの名前に、影子ちゃんは目を見開いた。
私もおんなじ顔をしていたと思う。
影子ちゃんは必死にリサちゃんを守ろうとしている、きっと影子ちゃんはリサちゃんの救世主なんじゃないのか……私の心の内はひとつの覚悟が生まれてきた。
「影子ちゃん、落ち着いて。私が引き出してしまったのがいけなかったわ。」
「いえ、取り乱してしまうなんて情けない。」
「いいのよ、何もこんな苦しい胸の内を話すために来たってわけではないんでしょう?」
「はい。私はあなたにお礼をしたくて伺ったんです。」
「お礼……。」
そこで私の頭に一人の存在が浮かんだ。
「では、息子を救ってほしいの。あなたの義理の弟にあたるわ、名前を宗太。あの子はよく学校の話をしてくれる子だったんだけど、最近……元気がないというか、いつも無理をして笑っているように見えるの。」
私は今までただの杞憂だと見て見ぬふりをしてしまっていた。
それでも、私が入院を始めるとそれは顕著に表れていた。
宗太は私の病室に来ても眠りについてしまうことが多く、何より部活もないのに疲弊している表情が気にかかっていた。
「一日時間をください。明日のこの時間にもう一度伺います。」
影子ちゃんはそんな情けない私の話を聞いても嘲笑うこともなく、唇を引き締めてくれた。
そして次の日、時間通りに影子ちゃんが姿を現した。
しかし今日は影子ちゃんの後ろに一人の男性が付いてきていた。
「彼は?」
「宗太君を救うために協力を仰いだ友人です。」
「初めまして。」
男性は"ヒロフミ"と名乗り、仕事は探偵だと言った。
「麻実さん、あなたの息子さん……宗太君を誘拐します。」
「誘拐?」
「期間は麻実さんが退院するまで、もちろん衣食住は保証します。誘拐と言っても名ばかりですが、その期間で必ず宗太君の心身を取り戻します。」
「分かったわ。ではあなたには“身代金”を渡すわ。」
私が渡したのは、リサちゃんと影子ちゃんが18の時に急に断られて以来ずっと貯めてきた援助金だった。封筒の表には『リサちゃん行き』と書かれたままだ。
「これは頂けないと前にも伝えたはずです。」
「言葉の通り“宗太の身代金”よ。あなたの好きに使ってちょうだい。」
影子ちゃんは私の言葉に渋々と言いたそうにその封筒を受け取った。
「それと、誘拐に関して一つだけ条件を付けてもいいかしら。」
「はい。」
「あなたも宗太も、決して殺しはしてはいけないこと。これだけ約束してちょうだい。」
「お約束します。」
影子ちゃんはしっかりとうなずくと、探偵の男性と一緒に病室をあとにした。
・・・・・・
「……あとは、みんなの知っているとおりよ。」
「」
誘拐にこんな経緯があったなんて……。
僕はすぐには言葉が出てこないまま口を噤んでいた。
すると、透が口を開いた。
「では、宗太君が誘拐されている間もやり取りを?」
「えぇ、家から着替えも持ってきてくれたり……本物の娘みたいに顔を出してくれたのよ。」
「……僕はいけなかったのに……なんかずるいよ。」
「やっと出た言葉がそれかよ。」
「だって……。まるで僕だけ知らなかったんだ。」
母さんは僕の肩に手を置いて息を吐いた。
「ごめんね、影子さんに止められてたのよ。『今は混乱させたくありません。』ってね。」
「誘拐のほうが十分混乱するよ。」
「フフフっ、確かにそうね。」
吹き出すように笑い出した母さんに僕は唇を突き立てた。
「それじゃ、影子さんたちがどこにいるか知ってる……ってこと?」
「確証は持てないんだけどね。」
「どういうこと?」
「行き先は行ってくれなかったから。でも、あの子ならきっと……母親の勘。」
母さんの笑顔に僕は言葉の続きを促した。
「場所は、ゆりひめ寮という養護施設よ。」
「は?!」
すると、悠一が椅子が倒れることも気にせず立ち上がった。
「悠一?」
「俺の……俺の妹がそこにいる。」
「「「「はぁ?!」」」」
「ちょっと待って!!妹さんって、こないだ話してた……?」
「あぁ、3か月に一回は顔を出してる……ん?!」
「影子さんがいなくなったのがそのころではないですか?」
「もしかすると、すれ違ったとか?」
「「まっじかよ!!」」
「あぁ!!くそ!!」
憲司の一言に僕たちは驚愕の声を上げ、悠一は悔しそうに頭を抱えた。
「宗太。」
「うん。僕、影子さんたちに会いに行きたい。」
僕が視線を向けると、母さんは微笑んでうなずいた。
そして一枚の地図を手渡した。
「悠一君がいるから心配はないだろうけど、念のために渡しておくわ。」
「母さん。」
「宗太、お姉さんを連れて帰ってきて。宗太にしか頼めないの。」
「うん!」
僕は大きくうなずいた。
窓の外は夕焼けで赤く染まっていて、施設に向かうのは明日に持ち越しにすることになった。
私もおんなじ顔をしていたと思う。
影子ちゃんは必死にリサちゃんを守ろうとしている、きっと影子ちゃんはリサちゃんの救世主なんじゃないのか……私の心の内はひとつの覚悟が生まれてきた。
「影子ちゃん、落ち着いて。私が引き出してしまったのがいけなかったわ。」
「いえ、取り乱してしまうなんて情けない。」
「いいのよ、何もこんな苦しい胸の内を話すために来たってわけではないんでしょう?」
「はい。私はあなたにお礼をしたくて伺ったんです。」
「お礼……。」
そこで私の頭に一人の存在が浮かんだ。
「では、息子を救ってほしいの。あなたの義理の弟にあたるわ、名前を宗太。あの子はよく学校の話をしてくれる子だったんだけど、最近……元気がないというか、いつも無理をして笑っているように見えるの。」
私は今までただの杞憂だと見て見ぬふりをしてしまっていた。
それでも、私が入院を始めるとそれは顕著に表れていた。
宗太は私の病室に来ても眠りについてしまうことが多く、何より部活もないのに疲弊している表情が気にかかっていた。
「一日時間をください。明日のこの時間にもう一度伺います。」
影子ちゃんはそんな情けない私の話を聞いても嘲笑うこともなく、唇を引き締めてくれた。
そして次の日、時間通りに影子ちゃんが姿を現した。
しかし今日は影子ちゃんの後ろに一人の男性が付いてきていた。
「彼は?」
「宗太君を救うために協力を仰いだ友人です。」
「初めまして。」
男性は"ヒロフミ"と名乗り、仕事は探偵だと言った。
「麻実さん、あなたの息子さん……宗太君を誘拐します。」
「誘拐?」
「期間は麻実さんが退院するまで、もちろん衣食住は保証します。誘拐と言っても名ばかりですが、その期間で必ず宗太君の心身を取り戻します。」
「分かったわ。ではあなたには“身代金”を渡すわ。」
私が渡したのは、リサちゃんと影子ちゃんが18の時に急に断られて以来ずっと貯めてきた援助金だった。封筒の表には『リサちゃん行き』と書かれたままだ。
「これは頂けないと前にも伝えたはずです。」
「言葉の通り“宗太の身代金”よ。あなたの好きに使ってちょうだい。」
影子ちゃんは私の言葉に渋々と言いたそうにその封筒を受け取った。
「それと、誘拐に関して一つだけ条件を付けてもいいかしら。」
「はい。」
「あなたも宗太も、決して殺しはしてはいけないこと。これだけ約束してちょうだい。」
「お約束します。」
影子ちゃんはしっかりとうなずくと、探偵の男性と一緒に病室をあとにした。
・・・・・・
「……あとは、みんなの知っているとおりよ。」
「」
誘拐にこんな経緯があったなんて……。
僕はすぐには言葉が出てこないまま口を噤んでいた。
すると、透が口を開いた。
「では、宗太君が誘拐されている間もやり取りを?」
「えぇ、家から着替えも持ってきてくれたり……本物の娘みたいに顔を出してくれたのよ。」
「……僕はいけなかったのに……なんかずるいよ。」
「やっと出た言葉がそれかよ。」
「だって……。まるで僕だけ知らなかったんだ。」
母さんは僕の肩に手を置いて息を吐いた。
「ごめんね、影子さんに止められてたのよ。『今は混乱させたくありません。』ってね。」
「誘拐のほうが十分混乱するよ。」
「フフフっ、確かにそうね。」
吹き出すように笑い出した母さんに僕は唇を突き立てた。
「それじゃ、影子さんたちがどこにいるか知ってる……ってこと?」
「確証は持てないんだけどね。」
「どういうこと?」
「行き先は行ってくれなかったから。でも、あの子ならきっと……母親の勘。」
母さんの笑顔に僕は言葉の続きを促した。
「場所は、ゆりひめ寮という養護施設よ。」
「は?!」
すると、悠一が椅子が倒れることも気にせず立ち上がった。
「悠一?」
「俺の……俺の妹がそこにいる。」
「「「「はぁ?!」」」」
「ちょっと待って!!妹さんって、こないだ話してた……?」
「あぁ、3か月に一回は顔を出してる……ん?!」
「影子さんがいなくなったのがそのころではないですか?」
「もしかすると、すれ違ったとか?」
「「まっじかよ!!」」
「あぁ!!くそ!!」
憲司の一言に僕たちは驚愕の声を上げ、悠一は悔しそうに頭を抱えた。
「宗太。」
「うん。僕、影子さんたちに会いに行きたい。」
僕が視線を向けると、母さんは微笑んでうなずいた。
そして一枚の地図を手渡した。
「悠一君がいるから心配はないだろうけど、念のために渡しておくわ。」
「母さん。」
「宗太、お姉さんを連れて帰ってきて。宗太にしか頼めないの。」
「うん!」
僕は大きくうなずいた。
窓の外は夕焼けで赤く染まっていて、施設に向かうのは明日に持ち越しにすることになった。
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