30 / 99
2、
修繕⑥
しおりを挟む
自らの分もよそいながらの影子さんの言葉が刺さる。
自分のやっていたことに恥ずかしさがこみあげて影子さんの顔を見れずに俯いた。
「だって……」
「宗太。」
「」
「手を合わせて。」
「……はい。」
いただきますの声はいつも以上に小さくなってしまった。
「宗太、レンゲを持って。」
「影子さん、僕……」
「言い返せないのは、おなかが減ってる証拠。まずは食べる。」
僕はレンゲで大きく掬って口に詰め込んだ。
口いっぱいに広がる出汁のおいしさに安心して、嬉しいはずなのに胸がいっぱいになってくる。
飲み込めない……その理由は自分の中でわかっていて、悔しさが涙になってぼろぼろ零れ落ちる。
「どうした?」
「ん、んぐ……。」
「まず飲み込んでから。」
やっとのことで飲み込んだのに、胸のつかえがとれない。
必死に息をしても、胸を叩いても涙がさっきよりひどく流れてくる。
「涙が出るよね。」
「」
大きくうなずくと、影子さんは机越しに言葉を続けた。
「宗太はどうしたいの?」
「僕は……怖いです。」
「何が?」
「今の状況……。」
「私は今のあんたが一番怖いよ。」
顔を上げると、影子さんはすくっと立ち上がって僕の席の足元に膝をついた。
「あんたが憂いているのは状況なんかじゃない。あんた自身“だけ”なんだよ。」
「僕自身だけ?」
「こないだ悠一君を家に連れてきた時、車ん中でさ……あんたがクラスメイトをあのクッキーから守ったって聞いたよ。」
影子さんが僕の肩を優しくつかんだ。
「私はあの日てっきりあんたが変われたんだと思ってた。一つ乗り越えたんだって。悠一君だってそう思ったからあんたを庇って今に至るんじゃないの?」
「影子さん……。」
「なのに今のあんたは何なの?またビビッて、見て見ぬふりして。」
ここで、影子さんの手がギリッと爪を立てた。
「痛いです。」
「痛くなければ困るよ!いい?いじめられる人より、いじめる奴の方がずっとだっさいし、バカだし、人でなしなんだよ!!」
影子さんの語気は強く、目には僕と同じくらいに涙が溢れていた。
「あの日私はあんたにクッキーと一緒に自己注射薬も渡した。使い方も教えた。それはあんたが実行して、見て見ぬふりをしても誰かがカバンの中の注射器に気が付くと思ったから。案の定悠一君は気が付いてたしね。それだけ私もあんたへの期待は低かった。それでもあんたは実行に移さないどころかクッキーを奪い取って踏みつぶした。私はあんたのその一つの勇気にかけてたんだよ!!」
「それは!……人殺しになりたくなかったから……。」
きっとその一言を言えば、また正論で罵られる。そう思ったけど、僕はその一言を止めることは出来ずに、目を閉じた。
「それがあんたの本心なの?」
「……はい。」
すると、影子さんの手の力はすっと緩んだ。
「それでいい。」
目を開けると、すぐに影子さんに勢いよく肩をゆすられた。
「それでいいんだよ~宗太~!!」
「え……え……。」
影子さんは僕の体を止めると、自らの顔を服の袖で拭うとすぐに、エプロンのポケットに入っていたタオルで僕の涙を拭った。
「ならあんたの勇気をもう一度見せつけなさい。」
「でも僕は……。」
「今度の土曜日は学校開放日でしょ。確か給食の時間からよね。その時には私顔出すから。思いっきりぶちかましてみなさい!!」
「へ……?!?!」
自分のやっていたことに恥ずかしさがこみあげて影子さんの顔を見れずに俯いた。
「だって……」
「宗太。」
「」
「手を合わせて。」
「……はい。」
いただきますの声はいつも以上に小さくなってしまった。
「宗太、レンゲを持って。」
「影子さん、僕……」
「言い返せないのは、おなかが減ってる証拠。まずは食べる。」
僕はレンゲで大きく掬って口に詰め込んだ。
口いっぱいに広がる出汁のおいしさに安心して、嬉しいはずなのに胸がいっぱいになってくる。
飲み込めない……その理由は自分の中でわかっていて、悔しさが涙になってぼろぼろ零れ落ちる。
「どうした?」
「ん、んぐ……。」
「まず飲み込んでから。」
やっとのことで飲み込んだのに、胸のつかえがとれない。
必死に息をしても、胸を叩いても涙がさっきよりひどく流れてくる。
「涙が出るよね。」
「」
大きくうなずくと、影子さんは机越しに言葉を続けた。
「宗太はどうしたいの?」
「僕は……怖いです。」
「何が?」
「今の状況……。」
「私は今のあんたが一番怖いよ。」
顔を上げると、影子さんはすくっと立ち上がって僕の席の足元に膝をついた。
「あんたが憂いているのは状況なんかじゃない。あんた自身“だけ”なんだよ。」
「僕自身だけ?」
「こないだ悠一君を家に連れてきた時、車ん中でさ……あんたがクラスメイトをあのクッキーから守ったって聞いたよ。」
影子さんが僕の肩を優しくつかんだ。
「私はあの日てっきりあんたが変われたんだと思ってた。一つ乗り越えたんだって。悠一君だってそう思ったからあんたを庇って今に至るんじゃないの?」
「影子さん……。」
「なのに今のあんたは何なの?またビビッて、見て見ぬふりして。」
ここで、影子さんの手がギリッと爪を立てた。
「痛いです。」
「痛くなければ困るよ!いい?いじめられる人より、いじめる奴の方がずっとだっさいし、バカだし、人でなしなんだよ!!」
影子さんの語気は強く、目には僕と同じくらいに涙が溢れていた。
「あの日私はあんたにクッキーと一緒に自己注射薬も渡した。使い方も教えた。それはあんたが実行して、見て見ぬふりをしても誰かがカバンの中の注射器に気が付くと思ったから。案の定悠一君は気が付いてたしね。それだけ私もあんたへの期待は低かった。それでもあんたは実行に移さないどころかクッキーを奪い取って踏みつぶした。私はあんたのその一つの勇気にかけてたんだよ!!」
「それは!……人殺しになりたくなかったから……。」
きっとその一言を言えば、また正論で罵られる。そう思ったけど、僕はその一言を止めることは出来ずに、目を閉じた。
「それがあんたの本心なの?」
「……はい。」
すると、影子さんの手の力はすっと緩んだ。
「それでいい。」
目を開けると、すぐに影子さんに勢いよく肩をゆすられた。
「それでいいんだよ~宗太~!!」
「え……え……。」
影子さんは僕の体を止めると、自らの顔を服の袖で拭うとすぐに、エプロンのポケットに入っていたタオルで僕の涙を拭った。
「ならあんたの勇気をもう一度見せつけなさい。」
「でも僕は……。」
「今度の土曜日は学校開放日でしょ。確か給食の時間からよね。その時には私顔出すから。思いっきりぶちかましてみなさい!!」
「へ……?!?!」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
愚か者の話をしよう
鈴宮(すずみや)
恋愛
シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。
そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。
けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
【全話まとめ】意味が分かると怖い話【解説付き】
松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で楽しめる短めの意味が分かると怖い話をたくさん作って投稿しているよ。
ヒントや補足的な役割として解説も用意しているけど、自分で想像しながら読むのがおすすめだよ。
中にはホラー寄りのものとクイズ寄りのものがあるから、お好みのお話を探してね。
呪配
真霜ナオ
ホラー
ある晩。いつものように夕食のデリバリーを利用した比嘉慧斗は、初めての誤配を経験する。
デリバリー専用アプリは、続けてある通知を送り付けてきた。
『比嘉慧斗様、死をお届けに向かっています』
その日から不可解な出来事に見舞われ始める慧斗は、高野來という美しい青年と衝撃的な出会い方をする。
不思議な力を持った來と共に死の呪いを解く方法を探す慧斗だが、周囲では連続怪死事件も起こっていて……?
「第7回ホラー・ミステリー小説大賞」オカルト賞を受賞しました!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる