偶然

火消茶腕

文字の大きさ
上 下
1 / 1

偶然

しおりを挟む



「ごめん、やっぱりやめよう」
 彼は私を突き放した。
 
 私はは驚いたが、すぐに気を取り直し、彼にすがった。
「どうして?なぜ?私の事好きだって、そう言ってくれたじゃない。あれは嘘だったの?」

 思わず泣きそうになる。そんな私の顔を見て、彼は顔を背けた。
「いや、嘘じゃない。嘘じゃないんだけど……、駄目なんだ。君と付き合うわけにはいかないんだ。ごめん」

 彼は深々と頭を下げた。
 私は言った。
「それは、あなたの過去のことが原因?今まで付き合った人がみんな死んでしまったって聞いたけど、そのせいなの?」

 私の言葉に彼は驚いて顔を上げた。
「一体、誰にそれを?」
「セキ君から聞いたの。あなたの親友の」

 彼は黙ってしまった。
「じゃあ、本当のことなんだ。あなたが今まで付き合った女の人、4人とも全員が死んでしまったって」
 
 私がつぶやくように言うと、彼は言った。
「いや、正確には少し違うんだ。彼女たちは僕と付き合ってた間に死んだんじゃなくて、僕と別れた後に死んだんだ。4人全員。みんな、別れて一年間の間に、事故や病気で……」

「自殺した娘は一人もいない。大体、いつも僕が愛想つかされる格好で別れているから、そんなに僕ん事を引きずったわけでもないし、僕だって別れた直後は悲しかったけど、恨んだことなんて一度もない。けれど……」

 それを聞き、私はニッコリ笑って言った。
「なあんだ、それなら別れなければいいんでしょ?私があなたのこと嫌いになるなんて考えられない。あなたもそうなんだよね?だったら大丈夫。何も心配いらないわよ」

 相手の手を取り微笑んでみたけれど、彼は私を見ずに言った。
「前に付き合った子もそう言ってきて、付き合ったんだけど、結局、やっぱり……」

「大丈夫だって。私はその子とは違うわ。だから、付き合いましょうよ、ねっ?」
 私は彼の手をギュッと握った。

 よし、もう少しで落ちそう。
 過去のことなんてただの偶然。気にすることなんてないのに。
 私だって、付き合った男、3人ほど、付き合っている最中に死んじゃたけど、そういう偶然はよくあることなんだと思う。考えすぎだよ。

「お願い。ねっ?」
 私の潤んだ瞳を見て、彼は根負けしてうなずいた。

終わり
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

意味がわかると怖い話

かなた
ホラー
美奈子は毎日、日記を書くのが日課でした。彼女は日記に自分の日々の出来事や感じたことを詳細に書き留めていました。ある日、美奈子が日記を読み返していると、自分が書いた覚えのない記述を見つけます…

ホラー大喜利

才門宝句
ホラー
【問】 「出るんだよ」とふるえる声で友人は電話してきた。「何が出るんだ」と返すも、「早く、早く来てくれ!」と気が動転している友人。仕方なく友人のアパートへと向かい、鍵の開いたドアを押し開ける。……と、そこで見たものとは?

ちょこっと怖い話・短編集(毎話1000文字前後)──オリジナル

山本みんみ
ホラー
少しゾワっとする話、1話1000文字前後の短編集です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

あのクローゼットはどこに繋がっていたのか?

あろえみかん
ホラー
あらすじ:昼下がりのマンション管理会社に同じ空き部屋起因の騒音と水漏れに関して電話が入る。駅近の人気物件で1年も空き部屋、同日に2件の連絡。気持ち悪さを覚えた安倍は現地へと向かった。同日に他県で発見された白骨体、騒音、水漏れ、空き部屋。そして木の葉の香りがじっとりとクローゼット裏から溢れ出す。 *表紙はCanvaにて作成しました。

平成最後の夏

神崎文尾
ホラー
なんで、なんで、あの子がここにいるの。 だって、あの子はあのときに。 死んだはずなのに。 平和な村は平成最後の夏に幽霊騒ぎに巻き込まれる。 神崎文尾が送るラストサマーホラー。ここに開幕。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

幻の宿

詩方夢那
ホラー
インターネット上にはその情報が見つからない秘境の宿・桃源楼。 その日、若者達はその宿に向かい、不可解な体験をした。 同じ日、テレビから流されていたのは、若い女性が行方不明になったという事件の報道。 土砂降りの夜に埋もれた悲劇とは……。 不思議な夢を見て、それに着想を得て執筆しました。 平成三十年八月執筆、令和元年六月改稿。 複数箇所掲載しております。 表紙画像はマルマンB5スケッチブック・三菱880級・トンボ色辞典にて制作。スキャン後の加工はMSペイントとファイアアルパカ使用。書体はHG正楷書体PRO。無断転載・使用はご遠慮ください。

処理中です...