上 下
53 / 76
第四章

第53話 魔族の来襲②

しおりを挟む
「ジュノーム様、どこへっっ!?」
「あの軍勢を何とかしなくては」


 ツインネがある屋上に確かワイバーンが待機していた筈。あれに騎乗するのは前世以来だから、コントロールには自信がないけど、そうも言ってはいられない。
 自分が案内しようとしている逆方向を走る僕に、イプティーは吃驚して声を上げる。
 
「な、何を仰せになるのです!? ジュノーム様がオルティス様も凌ぐ魔法使いであることは心得ております。しかし、お一人でなんとか出来る事態ではありません!!」
「いや……僕なら出来る!」
「……!?」

 本当のところ自信は五分五分だけど、ここで言い切らないとイプティーは納得しないだろう。
    冒険者としての経験、日頃の修練の成果もあって今の僕は人間が持てる最高レベルの魔力を有している。
   いや、おそらく上級の魔族でも到底保有することが不可能なレベルまでいっていると思う。
   イプティーの言う通り、魔法に関してはオルティスの実力を越えている。
 人間の身体ではあるけれど、ミレムの加護と等しい恩恵を受けた僕の身体は経験をつむほど体力と魔力が成長し、かつての魔王軍四将をしのぐ力は得ている。
 しかし魔王だった頃の全盛期にはまだ及ばない。
 
 僕が今やろうとしているのは瞬間移動魔法の巨大な魔法陣をつくり、魔族の軍勢たちを魔界へ送り返すこと。
 
   今の僕の力でどれくらいの魔族達を瞬間移動させることが可能かは分からない。
 だけどできる限り勢力を削がなければ。

 屋上に出ると、ワイバーンがそこには待機していた。衛兵が空から様子を見る必要がある時や、空からの魔物の侵入を迎え撃つ時に、このワイバーンに乗るのだ。
 久しぶりだけど、前世の経験と知識が生かされているお陰か、何の抵抗もなくスムーズに騎乗することができた。
 すると僕の後ろにイプティーが乗ってきた。
 彼は後ろから僕の腰に手を回し、ぴったりと抱きついてくる。

「い、イプティー……!?」
「前に言ったでしょう? 僕の目の前で勝手に消えることは許しません」
「だけどこの先は危険だ」
「危険だからついて行くのです! 貴方一人で行かせるわけにはいきません」
「僕がこれから何をするか分かって言っているのか?」
「分かりませんけど、あれだけの魔族達を相手にするのであれば、相当な魔力を使うことになることぐらいは分かります! 僕は自分の魔力を人に受け渡す能力があります。少しは力になれる筈です」
「……っっ!」

 知らなかった。魔力を人に受け渡す能力というものがあるのか。
 僕はもっぱら奪う方が専門だったからね。相手の魔力を吸収するのは得意だったけど。
   妖精族の魔力は、人間の十数倍はあると言われている。その妖精族の中でも上位の実力を持つイプティーが側にいてくれるのは助かる。
 彼を巻き込みたくない気持ちはあるが、王都の壊滅を確実に防ぐ為にも彼の力は必要だ。
 
「イプティー、すまない」
「僕は置いていかれるほうが嫌です」

 きっぱりと答えるイプティーに僕はわずかに笑った。
 そしてワイバーンの手綱を引き、魔族の軍勢たちが迫っている方向を目指す。

 僕は小さく唇を動かした。
 瞬間転移魔法の呪文を唱え始めたのだ。
 瞬間転移の魔法陣を描く呪文は長くはないが、魔法陣が大きいほど何度も唱えなければならない。
 空は黒い雲に覆われている。あの雲に巨大な魔法陣を描くことができれば魔物の軍勢を、元の場所に送り返すことが可能になる。
 その時背中がほのかに温かくなる。呪文を唱える度に消費する魔力を補うように、イプティが自分の魔力を分け与えてくれているのだ。
    この魔法は多量の魔力を消費するけど、呪文を途切らせる訳にはいかないので、途中で魔力回復の薬は飲めない。
    イプティーが魔力を補ってくれるのは大いに助かった。
 僕は心の中で感謝の言葉を述べながら呪文を唱え続ける。
 ワイバーンも僕が集中しているのが分かっているのか、邪魔をしないよう安定した飛行を続けてくれる。
 必要な呪文を唱えた僕はその場に停止するよう手綱を引いた。
 魔物の軍勢はしだいに僕の方へ押し寄せてくる。しかしあと数十歩の所の距離で、魔物達の軍勢はぴたりと侵攻を止める。
 軍勢の中から、黒い甲冑に覆われたドラゴンに騎乗した魔族の青年が現れる。


 僕は息を飲んだ。
 またもや知っている顔……彼も生まれ変わっていたのか。
 黒身のワイバーンに騎乗した魔族の男。
 白髪とは対照的に眼は真っ黒だ。人間の白目の部分が黒目になっており瞳の色もダークグレイでほとんど黒。目の部分がまるで闇の空洞に繋がっているように見える。
 そして牛のような二本の洞角が頭に生えていて、これも白い髪によく生えるくらいに真っ黒だ。

「シキ……っっ!」
「お久しぶりです。魔王様。まさか貴方の方から会いに来てくださるとは」

 シキ=ヒルドス

 かつての僕の配下の中でも最も残酷だった男だ。
 そしてオルティスの怒りを買い、殺された男。
 彼は僕の顔を認めると、不気味な笑みを浮かべた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

【魔導具師マリオンの誤解】 ~陰謀で幼馴染みの王子に追放されたけど美味しいごはんともふもふに夢中なので必死で探されても知らんぷりします

真義あさひ
BL
だいたいタイトル通りの前世からの因縁カプもの、剣聖王子×可憐な錬金魔導具師の幼馴染みライトBL。 攻の王子はとりあえず頑張れと応援してやってください……w ◇◇◇ 「マリオン・ブルー。貴様のような能無しはこの誉れある研究学園には必要ない! 本日をもって退学処分を言い渡す!」 マリオンはいくつもコンクールで受賞している優秀な魔導具師だ。業績を見込まれて幼馴染みの他国の王子に研究学園の講師として招かれたのだが……なぜか生徒に間違われ、自分を呼び寄せたはずの王子からは嫌がらせのオンパレード。 ついに退学の追放処分まで言い渡されて意味がわからない。 (だから僕は学生じゃないよ、講師! 追放するなら退学じゃなくて解雇でしょ!?) マリオンにとって王子は初恋の人だ。幼い頃みたく仲良くしたいのに王子はマリオンの話を聞いてくれない。 王子から大切なものを踏みつけられ、傷つけられて折れた心を抱え泣きながら逃げ出すことになる。 だがそれはすべて誤解だった。王子は偽物で、本物は事情があって学園には通っていなかったのだ。 事態を知った王子は必死でマリオンを探し始めたが、マリオンは戻るつもりはなかった。 もふもふドラゴンの友達と一緒だし、潜伏先では綺麗なお姉さんたちに匿われて毎日ごはんもおいしい。 だがマリオンは知らない。 「これぐらいで諦められるなら、俺は転生してまで追いかけてないんだよ!」 王子と自分は前世からずーっと同じような追いかけっこを繰り返していたのだ。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

商店街のお茶屋さん~運命の番にスルーされたので、心機一転都会の下町で店を経営する!~

柚ノ木 碧/柚木 彗
BL
タイトル変えました。(旧題:とある商店街のお茶屋さん) あの時、地元の神社にて俺が初めてヒートを起こした『運命』の相手。 その『運命』の相手は、左手に輝く指輪を嵌めていて。幸せそうに、大事そうに、可愛らしい人の肩を抱いて歩いていた。 『運命の番』は俺だったのに。 俺の番相手は別の人の手を取って、幸せそうに微笑んでいたんだ ◇◆◇◆◇ のんびりと日々人物鑑賞をする主人公の物語です。 BL設定をしていますが、中々BLにはなりにくいです。そんなぼんやりした主人公の日常の物語。 なお、世界観はオメガバース設定を使用しております。 本作は『ある日突然Ωになってしまったけど、僕の人生はハッピーエンドになれるでしょうか』の登場人物が多数登場しておりますが、ifでも何でも無く、同じ世界の別のお話です。 ※ 誤字脱字は普段から在籍しております。スルースキルを脳内に配置して読んで頂けると幸いです。 一応R15設定にしましたが、後程R18へ変更するかも知れません。 ・タグ一部変更しました ・主人公の実家編始まりました。実家編では嵯峨憲真主体になります。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

BLが蔓延る異世界に転生したので大人しく僕もボーイズラブを楽しみます~愛されチートボーイは冒険者に溺愛される~

はるはう
BL
『童貞のまま死ぬかも』 気が付くと異世界へと転生してしまった大学生、奏人(かなと)。 目を開けるとそこは、男だらけのBL世界だった。 巨根の友人から夜這い未遂の年上医師まで、僕は今日もみんなと元気にS〇Xでこの世の窮地を救います! 果たして奏人は、この世界でなりたかったヒーローになれるのか? ※エロありの話には★マークがついています

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...