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第四章
第53話 魔族の来襲②
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「ジュノーム様、どこへっっ!?」
「あの軍勢を何とかしなくては」
ツインネがある屋上に確かワイバーンが待機していた筈。あれに騎乗するのは前世以来だから、コントロールには自信がないけど、そうも言ってはいられない。
自分が案内しようとしている逆方向を走る僕に、イプティーは吃驚して声を上げる。
「な、何を仰せになるのです!? ジュノーム様がオルティス様も凌ぐ魔法使いであることは心得ております。しかし、お一人でなんとか出来る事態ではありません!!」
「いや……僕なら出来る!」
「……!?」
本当のところ自信は五分五分だけど、ここで言い切らないとイプティーは納得しないだろう。
冒険者としての経験、日頃の修練の成果もあって今の僕は人間が持てる最高レベルの魔力を有している。
いや、おそらく上級の魔族でも到底保有することが不可能なレベルまでいっていると思う。
イプティーの言う通り、魔法に関してはオルティスの実力を越えている。
人間の身体ではあるけれど、ミレムの加護と等しい恩恵を受けた僕の身体は経験をつむほど体力と魔力が成長し、かつての魔王軍四将をしのぐ力は得ている。
しかし魔王だった頃の全盛期にはまだ及ばない。
僕が今やろうとしているのは瞬間移動魔法の巨大な魔法陣をつくり、魔族の軍勢たちを魔界へ送り返すこと。
今の僕の力でどれくらいの魔族達を瞬間移動させることが可能かは分からない。
だけどできる限り勢力を削がなければ。
屋上に出ると、ワイバーンがそこには待機していた。衛兵が空から様子を見る必要がある時や、空からの魔物の侵入を迎え撃つ時に、このワイバーンに乗るのだ。
久しぶりだけど、前世の経験と知識が生かされているお陰か、何の抵抗もなくスムーズに騎乗することができた。
すると僕の後ろにイプティーが乗ってきた。
彼は後ろから僕の腰に手を回し、ぴったりと抱きついてくる。
「い、イプティー……!?」
「前に言ったでしょう? 僕の目の前で勝手に消えることは許しません」
「だけどこの先は危険だ」
「危険だからついて行くのです! 貴方一人で行かせるわけにはいきません」
「僕がこれから何をするか分かって言っているのか?」
「分かりませんけど、あれだけの魔族達を相手にするのであれば、相当な魔力を使うことになることぐらいは分かります! 僕は自分の魔力を人に受け渡す能力があります。少しは力になれる筈です」
「……っっ!」
知らなかった。魔力を人に受け渡す能力というものがあるのか。
僕はもっぱら奪う方が専門だったからね。相手の魔力を吸収するのは得意だったけど。
妖精族の魔力は、人間の十数倍はあると言われている。その妖精族の中でも上位の実力を持つイプティーが側にいてくれるのは助かる。
彼を巻き込みたくない気持ちはあるが、王都の壊滅を確実に防ぐ為にも彼の力は必要だ。
「イプティー、すまない」
「僕は置いていかれるほうが嫌です」
きっぱりと答えるイプティーに僕はわずかに笑った。
そしてワイバーンの手綱を引き、魔族の軍勢たちが迫っている方向を目指す。
僕は小さく唇を動かした。
瞬間転移魔法の呪文を唱え始めたのだ。
瞬間転移の魔法陣を描く呪文は長くはないが、魔法陣が大きいほど何度も唱えなければならない。
空は黒い雲に覆われている。あの雲に巨大な魔法陣を描くことができれば魔物の軍勢を、元の場所に送り返すことが可能になる。
その時背中がほのかに温かくなる。呪文を唱える度に消費する魔力を補うように、イプティが自分の魔力を分け与えてくれているのだ。
この魔法は多量の魔力を消費するけど、呪文を途切らせる訳にはいかないので、途中で魔力回復の薬は飲めない。
イプティーが魔力を補ってくれるのは大いに助かった。
僕は心の中で感謝の言葉を述べながら呪文を唱え続ける。
ワイバーンも僕が集中しているのが分かっているのか、邪魔をしないよう安定した飛行を続けてくれる。
必要な呪文を唱えた僕はその場に停止するよう手綱を引いた。
魔物の軍勢はしだいに僕の方へ押し寄せてくる。しかしあと数十歩の所の距離で、魔物達の軍勢はぴたりと侵攻を止める。
軍勢の中から、黒い甲冑に覆われたドラゴンに騎乗した魔族の青年が現れる。
僕は息を飲んだ。
またもや知っている顔……彼も生まれ変わっていたのか。
黒身のワイバーンに騎乗した魔族の男。
白髪とは対照的に眼は真っ黒だ。人間の白目の部分が黒目になっており瞳の色もダークグレイでほとんど黒。目の部分がまるで闇の空洞に繋がっているように見える。
そして牛のような二本の洞角が頭に生えていて、これも白い髪によく生えるくらいに真っ黒だ。
「シキ……っっ!」
「お久しぶりです。魔王様。まさか貴方の方から会いに来てくださるとは」
シキ=ヒルドス
かつての僕の配下の中でも最も残酷だった男だ。
そしてオルティスの怒りを買い、殺された男。
彼は僕の顔を認めると、不気味な笑みを浮かべた。
「あの軍勢を何とかしなくては」
ツインネがある屋上に確かワイバーンが待機していた筈。あれに騎乗するのは前世以来だから、コントロールには自信がないけど、そうも言ってはいられない。
自分が案内しようとしている逆方向を走る僕に、イプティーは吃驚して声を上げる。
「な、何を仰せになるのです!? ジュノーム様がオルティス様も凌ぐ魔法使いであることは心得ております。しかし、お一人でなんとか出来る事態ではありません!!」
「いや……僕なら出来る!」
「……!?」
本当のところ自信は五分五分だけど、ここで言い切らないとイプティーは納得しないだろう。
冒険者としての経験、日頃の修練の成果もあって今の僕は人間が持てる最高レベルの魔力を有している。
いや、おそらく上級の魔族でも到底保有することが不可能なレベルまでいっていると思う。
イプティーの言う通り、魔法に関してはオルティスの実力を越えている。
人間の身体ではあるけれど、ミレムの加護と等しい恩恵を受けた僕の身体は経験をつむほど体力と魔力が成長し、かつての魔王軍四将をしのぐ力は得ている。
しかし魔王だった頃の全盛期にはまだ及ばない。
僕が今やろうとしているのは瞬間移動魔法の巨大な魔法陣をつくり、魔族の軍勢たちを魔界へ送り返すこと。
今の僕の力でどれくらいの魔族達を瞬間移動させることが可能かは分からない。
だけどできる限り勢力を削がなければ。
屋上に出ると、ワイバーンがそこには待機していた。衛兵が空から様子を見る必要がある時や、空からの魔物の侵入を迎え撃つ時に、このワイバーンに乗るのだ。
久しぶりだけど、前世の経験と知識が生かされているお陰か、何の抵抗もなくスムーズに騎乗することができた。
すると僕の後ろにイプティーが乗ってきた。
彼は後ろから僕の腰に手を回し、ぴったりと抱きついてくる。
「い、イプティー……!?」
「前に言ったでしょう? 僕の目の前で勝手に消えることは許しません」
「だけどこの先は危険だ」
「危険だからついて行くのです! 貴方一人で行かせるわけにはいきません」
「僕がこれから何をするか分かって言っているのか?」
「分かりませんけど、あれだけの魔族達を相手にするのであれば、相当な魔力を使うことになることぐらいは分かります! 僕は自分の魔力を人に受け渡す能力があります。少しは力になれる筈です」
「……っっ!」
知らなかった。魔力を人に受け渡す能力というものがあるのか。
僕はもっぱら奪う方が専門だったからね。相手の魔力を吸収するのは得意だったけど。
妖精族の魔力は、人間の十数倍はあると言われている。その妖精族の中でも上位の実力を持つイプティーが側にいてくれるのは助かる。
彼を巻き込みたくない気持ちはあるが、王都の壊滅を確実に防ぐ為にも彼の力は必要だ。
「イプティー、すまない」
「僕は置いていかれるほうが嫌です」
きっぱりと答えるイプティーに僕はわずかに笑った。
そしてワイバーンの手綱を引き、魔族の軍勢たちが迫っている方向を目指す。
僕は小さく唇を動かした。
瞬間転移魔法の呪文を唱え始めたのだ。
瞬間転移の魔法陣を描く呪文は長くはないが、魔法陣が大きいほど何度も唱えなければならない。
空は黒い雲に覆われている。あの雲に巨大な魔法陣を描くことができれば魔物の軍勢を、元の場所に送り返すことが可能になる。
その時背中がほのかに温かくなる。呪文を唱える度に消費する魔力を補うように、イプティが自分の魔力を分け与えてくれているのだ。
この魔法は多量の魔力を消費するけど、呪文を途切らせる訳にはいかないので、途中で魔力回復の薬は飲めない。
イプティーが魔力を補ってくれるのは大いに助かった。
僕は心の中で感謝の言葉を述べながら呪文を唱え続ける。
ワイバーンも僕が集中しているのが分かっているのか、邪魔をしないよう安定した飛行を続けてくれる。
必要な呪文を唱えた僕はその場に停止するよう手綱を引いた。
魔物の軍勢はしだいに僕の方へ押し寄せてくる。しかしあと数十歩の所の距離で、魔物達の軍勢はぴたりと侵攻を止める。
軍勢の中から、黒い甲冑に覆われたドラゴンに騎乗した魔族の青年が現れる。
僕は息を飲んだ。
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そして牛のような二本の洞角が頭に生えていて、これも白い髪によく生えるくらいに真っ黒だ。
「シキ……っっ!」
「お久しぶりです。魔王様。まさか貴方の方から会いに来てくださるとは」
シキ=ヒルドス
かつての僕の配下の中でも最も残酷だった男だ。
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