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森を散歩するように歩く(ダンだけ)
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翌日、ダンは簡易かまどで作っていた朝食の様子を確認していた。
手持ちの食材に森で見かけた数種類の草を加えたスープだ。火が通ったことを確認して、お椀に少しだけよそって味見をする。
「うん、ピリッとしていい具合だ」
そうこうしているとメンバーが次々に起き出してきた。
「どうぞ~、朝ご飯ですよ~」
起きてまだ寝ぼけているメンバーに次々にスープをよそった椀を渡していく。
「うう、ダンさん~」
「我らにも欲しいのだ~」
そんな声がダンの背後から聞こえてきた。その声にウェンディ等がギョッとした顔で見ている。
「おや? 食い意地が張った人が居ましたね。昨日の反省は済みましたか?」
「「反省は十分しています~」」
首から『私は食い気に負けました』と書かれた板を下げて、木の枝から吊り下げられたミノムシのような恰好のリルとロウキがそこに居た。
「ど、どうしたんですか2人とも?」
「いえね? 見張りだというのに美味しそうな匂いに釣られちゃった人が居まして。とりあえず匂いだけ嗅がせとこうかなぁと」
ちなみにダンも付き合って起きている。
ダンの順番から交代せずに、朝まで起きっぱなしで2人は木から吊られっぱなしだった。
一応、うっ血などしないような結び方で身体が縛られている。元は拷問術の類だとダンに教えた人物が言っていたが。
「うう、微妙に足が着きそうで着かないのが落ち着かない~」
「肩、肩が凝ってきた! そろそろ許してくださいダン殿~」
メンバー全員が起きたのを確認したダンは2人も地面に下ろして身体の拘束を解いた。
そして匂いだけ嗅がせていたスープを2人にも差し出す。
「ふぅぅぅ、一息ついた~」と言っている2人も含めて全員の顔を見渡す。
「? どうかしましたかダンさん?」
「いえ、皆さんの顔色を確認していただけですよ。……さて、今日も歩くとしましょうか」
ダンもよそったスープをグイっと飲むと、手早く野営の片付けをして立ち上がった。
「よ、っとと」
「何してんだよマロン。っと」
「そういうファーニこそ。地面が硬かったから身体が固まっちゃったかなぁ?」
勢いよく立ち上がったマロンがよろめき、ファーニも立ち上がってひっくり返りそうになる。
他のメンバーも肩や腰を回しながら立ち上がった。
「それじゃあ、行きましょう!」
サクサクとダンが進んで行く。
森の中をサクサクと。
「はぁ……、なんか、息が吸いづらいなぁ」
「ん~、なんか視界も揺れる?」
ライがぼやき、クローディアも目元を指で揉んでいた。
「どうしました~?」とダンが振り返って聞いてきた。
そんなダンの周りは切り倒された魔物がチラホラ見受けられる。相変わらずの通常運行だ。
「私も、少し頭痛があるような?」
「昨日から鼻が利きません」
「うん~? 身体がまだ硬い?」
若干一名は自業自得であるが、その他のメンバーも体調の不良を訴えてくる。
「そりゃあ皆さんの体調が悪いからでは?」
ダンがキョトンとした顔で聞いてきた。
「――『体調が悪い』? え? 断言ですか?」
ダンの言葉に違和感を感じたリンが聞き返した。なにか変だと内心が告げる。
「そりゃあ、毒草スープを飲んだんだから体調は悪いでしょ?」
一瞬、静寂が辺りを包んだ。
「「「は!?」」」
全員が驚いている顔にダンが「はて?」と疑問符を浮かべた顔をして考えこむ。そしてすぐに顔を上げて手を叩いた。
「説明忘れてました」
「「「そういう話じゃない!」」」
「いや~、昨日野営した場所の近くで見知った植物が生えてましてね? 僕も体に耐性をつける時に使ったモノなので、実際効果はありますよ?」
「だからって、いきなり毒を飲まさせないでください!」
抗議の声はウェンディ。なんとか吐き出そうとするファーニ。
「大丈夫ですよ? 微毒ってやつですから。皆さんはある程度戦闘能力は高くなりましたが、まだ各耐性が出来てませんでした。実際、昨日は『幻惑』されてしまった人も出てしまいましたからね」
ダンに視線を向けられて、若干名が顔を逸らした。
「毒関係の耐性ができれば、この先不用意なことがあっても無事で済む確率が上がりますし。ちなみにその状態で闘気を制御すれば、症状の緩和はしますよ?」
言われて闘気の循環をすると体の倦怠感が軽くなったライ。ふと今朝の光景を思い返す。
「せめて説明してからにしてもらえませんか?……あれ? ダンさんもガッツリ飲んでませんでした?」
「そりゃ、皆さんだけ飲ませるのはフェアじゃないでしょう? 僕のは煮詰めたヤツでしたけどね」
そう言うダンは屈伸運動をしてみせる。その動きに普段との違いは見受けられない。
「いや、化け物と比べないでくださいよ」
「……何か、今すごく失礼な発言をされた気がするんですが?」
伸びてきた枝を両手で掴み、バキリと音をたてて圧し折るダン。『ギャアアアア』とトレントが悲鳴を上げた。
「と、とにかくコレも訓練だということですか?」
「訓練?……おお、そうですね。これも訓練ですね」
「……思いつきですか?」
「……ソンナワケナイジャナイデスカ。とりあえず分量的には昼を過ぎる頃までは毒が抜けないと思いますので、その状態で昨日以上のペースで進みましょう!」
若干カタコトながらもダンが手を振り上げて進んで行く。まるで地元住民が勝手知ったる裏山を歩くような足取りだ。
「そういえば向かう方向は合ってるんですか?」
迷いの森は道も通っていない場所だ。一直線に進めばベタルだとダンは言ったが、その『一直線』に進めているのかの判断が付かないのだ。
「ん~、大丈夫だと思いますが……。一回見てみますか」
「見てみるって――」
「どうするつもり?」と言葉を続ける前にダンが目の前から消えた。正確には水平方向からは居なくなった。頭上よりも高く、森の木々よりも高い位置にダンがジャンプしたのだ。
空中でキョロキョロと周りを確認したダンが自由落下してくる。
スタっとかなりの高さから落ちてきたにも関わらず、着地の音は非常に静かであった。
「間違いなく、コッチですね」
「方位磁石とかないの?」
スッと腕を伸ばして告げるダンにキョーコが問いかける。それを聞いたダンは腰のポーチから方位磁石を取り出して皆に見せた。クルクルと回り続ける磁石。
「この森は効果が出ないんですよね~」
「完全に樹海じゃないの!」
皆を安心させるために時々飛び上がって方向を確認するダン。それについていく一同。
色々と言いたいことはあるが、ここまで森の奥深くに入ってしまったためにダンの案内なくして無事に森を抜けられないことを悟って、苦言もソコソコにしっかりと隊列を作って進む。
『『『とはいえ、森を抜けたら文句は言わせてもらいますが』』』
と、ダンが歩みを止めた。
「確認ですか?」
「いえ、魔物みたいですね」
そして木々の間から熊型の魔物が姿を現した。
「フォレストベアーか!」
「あ。ファーニさん! ちょっとま――」
剣を抜いて走り出したファーニに声を掛けるが、火の加速まで使った加速に声が追いつけなかった。
ダンは止められなかったファーニよりも、現れた熊型の魔物に注意を向ける。
若干焦点の合っていない目。そして頭に生えた花。
ファーニの剣も加速して熊の頭に吸い込まれていく――
ガシン!
「んな!?」
突如熊の頭が裂けてファーニの剣を銜えこんだ。
「剣を諦めて一旦引け!」
ダンの指示にファーニが銜えられた剣を手放して戻ってくる。
「あれ寄生型ですね。熊の皮を被った植物ですか」
「冷静に観察してる場合じゃない! どうするダンさん?」
片手とはいえ剣を取られたファーニは、慌ててダンへと指示を仰いだ。
「どうって? 倒しますよ。でもまあ、最初は皆さんで頑張ってみませんか? 不味そうだったら割り込ませてもらいます」
サラッと「討伐してみろ」と言われるファーニ。少し考えてダンに質問してみた。
「ダンさんならどこを狙う?」
「僕ですか?……頭の花とか?」
問われたダンが少し考えて答えた。それを聞いたファーニが残った剣を持って突撃していく。
「それか裂けた部分の奥――あれ?」
ファーニが熊の頭に生えた花を切り落としていた。
『グアアアアアアアアア!』
花を切り飛ばされた瞬間、熊の身体が大きく痙攣したかと思うと全身からツタのようなものが飛び出してきた。
「なるほど。傷つけられたのは分かるんですね」
「冷静に分析してる場合じゃない! マロン! イリア! ゴリアテでアイツを押さえるわよ!」
マロンがマジックバッグからゴリアテを出すと、飛びつくようにイリアとキョーコがゴリアテに乗り込んだ。武装を持たずにゴリアテの腕が暴れる熊の身体を押さえようとする。
『ツタが内部に侵入してきた!』
『ゴリアテの力は伊達じゃあない!』
ブチブチ、ミシミシとツタとゴリアテの力比べが始まった。
「今の内に攻撃だ!」
『ゴリアテには当てないでよ!?』
槍持ちのマロンを筆頭にライとリンとポーラが熊の胴体に槍を突きたてる。しかし急所ではなかったのか、突き刺さった槍に這うようにツタが持ち手へと伸びてきた。
「ぶっ飛びなさい!」
ウェンディが棒の一番端を持って、全力の下からフルスイングを熊の胴体にぶち当てる。
伸びていたツタの動きが止まり、熊の胴体が地面から若干浮き上がった。
「いったれ! 火の刃!」
ファーニが剣に炎を纏わせて熊の胴体、その腹の部分を切り裂いた。
纏った炎に燃やされる熊。正確には内部に詰まっていたツタが燃えていた。
「お~、なかなかやりますね皆さん」
「へ、どんなもんだ――あれ?」
ガッツポーズを取ろうとしたファーニがその場に倒れた。ウェンディやマロン、ライ、リン、ポーラも地面に膝をつく。
『ちょ、上に圧し掛からないでくださいキョーコ!』
『ダメ、ちょっちダルイ』
ゴリアテの中からも声が聞こえてくる。
「動ける人は手を貸してあげてください。たぶん毒の事を忘れて闘気の制御を怠ったんでしょうから」
ダンに言われて、「あ、ああ~、そういえば」と呻くメンバー。
「ちょうどいいですから、ダウンした人はゴリアテに乗っけてください。纏めて持ち上げます。『戦乙女の加護』解放」
全身に闘気を纏ったダンがゴリアテの下に潜り込むと、「よいしょ!」と声掛けをしてゴリアテを持ち上げた。
「それじゃあ先に進みますけど、周辺警戒と魔物の対処は残った皆さんにお願いしますね? あ、毒の事も忘れずにいてくださいよ」
まるでついでの事のような口ぶりのダンに、もはや何も言うまいと残ったメンバーがダンの周囲を囲むようにして森の奥へと歩みを進めていった。
手持ちの食材に森で見かけた数種類の草を加えたスープだ。火が通ったことを確認して、お椀に少しだけよそって味見をする。
「うん、ピリッとしていい具合だ」
そうこうしているとメンバーが次々に起き出してきた。
「どうぞ~、朝ご飯ですよ~」
起きてまだ寝ぼけているメンバーに次々にスープをよそった椀を渡していく。
「うう、ダンさん~」
「我らにも欲しいのだ~」
そんな声がダンの背後から聞こえてきた。その声にウェンディ等がギョッとした顔で見ている。
「おや? 食い意地が張った人が居ましたね。昨日の反省は済みましたか?」
「「反省は十分しています~」」
首から『私は食い気に負けました』と書かれた板を下げて、木の枝から吊り下げられたミノムシのような恰好のリルとロウキがそこに居た。
「ど、どうしたんですか2人とも?」
「いえね? 見張りだというのに美味しそうな匂いに釣られちゃった人が居まして。とりあえず匂いだけ嗅がせとこうかなぁと」
ちなみにダンも付き合って起きている。
ダンの順番から交代せずに、朝まで起きっぱなしで2人は木から吊られっぱなしだった。
一応、うっ血などしないような結び方で身体が縛られている。元は拷問術の類だとダンに教えた人物が言っていたが。
「うう、微妙に足が着きそうで着かないのが落ち着かない~」
「肩、肩が凝ってきた! そろそろ許してくださいダン殿~」
メンバー全員が起きたのを確認したダンは2人も地面に下ろして身体の拘束を解いた。
そして匂いだけ嗅がせていたスープを2人にも差し出す。
「ふぅぅぅ、一息ついた~」と言っている2人も含めて全員の顔を見渡す。
「? どうかしましたかダンさん?」
「いえ、皆さんの顔色を確認していただけですよ。……さて、今日も歩くとしましょうか」
ダンもよそったスープをグイっと飲むと、手早く野営の片付けをして立ち上がった。
「よ、っとと」
「何してんだよマロン。っと」
「そういうファーニこそ。地面が硬かったから身体が固まっちゃったかなぁ?」
勢いよく立ち上がったマロンがよろめき、ファーニも立ち上がってひっくり返りそうになる。
他のメンバーも肩や腰を回しながら立ち上がった。
「それじゃあ、行きましょう!」
サクサクとダンが進んで行く。
森の中をサクサクと。
「はぁ……、なんか、息が吸いづらいなぁ」
「ん~、なんか視界も揺れる?」
ライがぼやき、クローディアも目元を指で揉んでいた。
「どうしました~?」とダンが振り返って聞いてきた。
そんなダンの周りは切り倒された魔物がチラホラ見受けられる。相変わらずの通常運行だ。
「私も、少し頭痛があるような?」
「昨日から鼻が利きません」
「うん~? 身体がまだ硬い?」
若干一名は自業自得であるが、その他のメンバーも体調の不良を訴えてくる。
「そりゃあ皆さんの体調が悪いからでは?」
ダンがキョトンとした顔で聞いてきた。
「――『体調が悪い』? え? 断言ですか?」
ダンの言葉に違和感を感じたリンが聞き返した。なにか変だと内心が告げる。
「そりゃあ、毒草スープを飲んだんだから体調は悪いでしょ?」
一瞬、静寂が辺りを包んだ。
「「「は!?」」」
全員が驚いている顔にダンが「はて?」と疑問符を浮かべた顔をして考えこむ。そしてすぐに顔を上げて手を叩いた。
「説明忘れてました」
「「「そういう話じゃない!」」」
「いや~、昨日野営した場所の近くで見知った植物が生えてましてね? 僕も体に耐性をつける時に使ったモノなので、実際効果はありますよ?」
「だからって、いきなり毒を飲まさせないでください!」
抗議の声はウェンディ。なんとか吐き出そうとするファーニ。
「大丈夫ですよ? 微毒ってやつですから。皆さんはある程度戦闘能力は高くなりましたが、まだ各耐性が出来てませんでした。実際、昨日は『幻惑』されてしまった人も出てしまいましたからね」
ダンに視線を向けられて、若干名が顔を逸らした。
「毒関係の耐性ができれば、この先不用意なことがあっても無事で済む確率が上がりますし。ちなみにその状態で闘気を制御すれば、症状の緩和はしますよ?」
言われて闘気の循環をすると体の倦怠感が軽くなったライ。ふと今朝の光景を思い返す。
「せめて説明してからにしてもらえませんか?……あれ? ダンさんもガッツリ飲んでませんでした?」
「そりゃ、皆さんだけ飲ませるのはフェアじゃないでしょう? 僕のは煮詰めたヤツでしたけどね」
そう言うダンは屈伸運動をしてみせる。その動きに普段との違いは見受けられない。
「いや、化け物と比べないでくださいよ」
「……何か、今すごく失礼な発言をされた気がするんですが?」
伸びてきた枝を両手で掴み、バキリと音をたてて圧し折るダン。『ギャアアアア』とトレントが悲鳴を上げた。
「と、とにかくコレも訓練だということですか?」
「訓練?……おお、そうですね。これも訓練ですね」
「……思いつきですか?」
「……ソンナワケナイジャナイデスカ。とりあえず分量的には昼を過ぎる頃までは毒が抜けないと思いますので、その状態で昨日以上のペースで進みましょう!」
若干カタコトながらもダンが手を振り上げて進んで行く。まるで地元住民が勝手知ったる裏山を歩くような足取りだ。
「そういえば向かう方向は合ってるんですか?」
迷いの森は道も通っていない場所だ。一直線に進めばベタルだとダンは言ったが、その『一直線』に進めているのかの判断が付かないのだ。
「ん~、大丈夫だと思いますが……。一回見てみますか」
「見てみるって――」
「どうするつもり?」と言葉を続ける前にダンが目の前から消えた。正確には水平方向からは居なくなった。頭上よりも高く、森の木々よりも高い位置にダンがジャンプしたのだ。
空中でキョロキョロと周りを確認したダンが自由落下してくる。
スタっとかなりの高さから落ちてきたにも関わらず、着地の音は非常に静かであった。
「間違いなく、コッチですね」
「方位磁石とかないの?」
スッと腕を伸ばして告げるダンにキョーコが問いかける。それを聞いたダンは腰のポーチから方位磁石を取り出して皆に見せた。クルクルと回り続ける磁石。
「この森は効果が出ないんですよね~」
「完全に樹海じゃないの!」
皆を安心させるために時々飛び上がって方向を確認するダン。それについていく一同。
色々と言いたいことはあるが、ここまで森の奥深くに入ってしまったためにダンの案内なくして無事に森を抜けられないことを悟って、苦言もソコソコにしっかりと隊列を作って進む。
『『『とはいえ、森を抜けたら文句は言わせてもらいますが』』』
と、ダンが歩みを止めた。
「確認ですか?」
「いえ、魔物みたいですね」
そして木々の間から熊型の魔物が姿を現した。
「フォレストベアーか!」
「あ。ファーニさん! ちょっとま――」
剣を抜いて走り出したファーニに声を掛けるが、火の加速まで使った加速に声が追いつけなかった。
ダンは止められなかったファーニよりも、現れた熊型の魔物に注意を向ける。
若干焦点の合っていない目。そして頭に生えた花。
ファーニの剣も加速して熊の頭に吸い込まれていく――
ガシン!
「んな!?」
突如熊の頭が裂けてファーニの剣を銜えこんだ。
「剣を諦めて一旦引け!」
ダンの指示にファーニが銜えられた剣を手放して戻ってくる。
「あれ寄生型ですね。熊の皮を被った植物ですか」
「冷静に観察してる場合じゃない! どうするダンさん?」
片手とはいえ剣を取られたファーニは、慌ててダンへと指示を仰いだ。
「どうって? 倒しますよ。でもまあ、最初は皆さんで頑張ってみませんか? 不味そうだったら割り込ませてもらいます」
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「ダンさんならどこを狙う?」
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問われたダンが少し考えて答えた。それを聞いたファーニが残った剣を持って突撃していく。
「それか裂けた部分の奥――あれ?」
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『グアアアアアアアアア!』
花を切り飛ばされた瞬間、熊の身体が大きく痙攣したかと思うと全身からツタのようなものが飛び出してきた。
「なるほど。傷つけられたのは分かるんですね」
「冷静に分析してる場合じゃない! マロン! イリア! ゴリアテでアイツを押さえるわよ!」
マロンがマジックバッグからゴリアテを出すと、飛びつくようにイリアとキョーコがゴリアテに乗り込んだ。武装を持たずにゴリアテの腕が暴れる熊の身体を押さえようとする。
『ツタが内部に侵入してきた!』
『ゴリアテの力は伊達じゃあない!』
ブチブチ、ミシミシとツタとゴリアテの力比べが始まった。
「今の内に攻撃だ!」
『ゴリアテには当てないでよ!?』
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「ぶっ飛びなさい!」
ウェンディが棒の一番端を持って、全力の下からフルスイングを熊の胴体にぶち当てる。
伸びていたツタの動きが止まり、熊の胴体が地面から若干浮き上がった。
「いったれ! 火の刃!」
ファーニが剣に炎を纏わせて熊の胴体、その腹の部分を切り裂いた。
纏った炎に燃やされる熊。正確には内部に詰まっていたツタが燃えていた。
「お~、なかなかやりますね皆さん」
「へ、どんなもんだ――あれ?」
ガッツポーズを取ろうとしたファーニがその場に倒れた。ウェンディやマロン、ライ、リン、ポーラも地面に膝をつく。
『ちょ、上に圧し掛からないでくださいキョーコ!』
『ダメ、ちょっちダルイ』
ゴリアテの中からも声が聞こえてくる。
「動ける人は手を貸してあげてください。たぶん毒の事を忘れて闘気の制御を怠ったんでしょうから」
ダンに言われて、「あ、ああ~、そういえば」と呻くメンバー。
「ちょうどいいですから、ダウンした人はゴリアテに乗っけてください。纏めて持ち上げます。『戦乙女の加護』解放」
全身に闘気を纏ったダンがゴリアテの下に潜り込むと、「よいしょ!」と声掛けをしてゴリアテを持ち上げた。
「それじゃあ先に進みますけど、周辺警戒と魔物の対処は残った皆さんにお願いしますね? あ、毒の事も忘れずにいてくださいよ」
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鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
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