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帰郷 農業者編
ケース2 ある農村の男達
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「お父さん?」
俺はその声に自分の耳を疑った。
なぜならそれは1か月前に、家の食事も満足に買えない我が家の懐事情から、自ら農奴となって買われていった俺の娘の声だったからだ。
俺達は同じ村や他の村からも集まってきた、俺と同じように首が回らなくなったヤツラばかりで集まって野盗の真似事をさせられようとしていたやつらばかりだ。
皆、あの悪魔に言われるがまま、こうして街道を通りがかる旅人を待ち構えていたのだ。
そして俺と同じ村に居た、俺と同じ境遇の――つまりは自分達の娘が農奴として買われていった――ヤツラもその女の子達を見て、俺と同じように動きが止まっていた。やはり俺の聞き間違いや幻覚を見ているわけじゃない。
「アサ、なのか?」
「お、おい! お前の知り合いか?」
俺が娘――アサに問いかけた言葉は、近くの村から来た(俺にはその村が何処にあるのか分からなかったが)という別の村の男に質問という形で返された。
俺は生返事で返す。
「あ? ああ、俺の娘だ」
「……それじゃあ説得出来ないか? 俺達だって、出来るなら相手に怪我なんかさせたくないぞ」
「そうだ! お前の娘なら、言って聞かせろよ!」
俺は突然の出来事にまだ上手く動かない頭で『ああ、確かに』と考えた。
「――こんなところで、何をしているのお父さん?」
アサが再度聞いてきた。その声はどこか硬い雰囲気が感じられる。
今この場には俺以外の男達が居るし、さらに言えばアサも知らない別の村の男達も複数立っている。アサが緊張するのも仕方ないかもしれない。
「あ、ああ。……悪いんだがアサ、その荷車を置いていってくれないか?」
俺は自分でもぎこちないと思えるような笑みを浮かべながら、なるべくアサに緊張を与えないように頼んだ。
だがアサは荷車から離れようとはせず、その荷台から何かを取り出すと再度俺達の方を向いてきた。
あれはなんだ? 木の棒?
俺の頼みとは別の動きを見せるアサに、別の村の男達から怒気が感じられる。
しかしそんな怒気を何も感じていないのか、アサ以外の女の子達も荷車から次々に木の棒を取り出し始めた。
武器と思える物を取り出していく女の子達に、とうとう別の村の男達から怒声が飛び始めた。
「おい! 聞いてんのか!?」
「怪我したくなけりゃ、荷車置いてけって言ってんだ!」
「口で言って分からなければ、体で分からせてやろうか!?」
「お、おい。乱暴は止めてくれよ」
男達の余りにもな言葉に、思わず割って入ろうとしてしまう。
だがそんな俺に男達から睨みつけるような視線と、そして発せられた言葉にハッとしてしまった。
「うるせぇよ! 俺達は盗賊行為に手を付けちまったんだぞ!? その相手が身内だったからって、今更止められる分けねぇだろうがッ!!」
そ、そうだった! 俺達は既に「金と荷物を置いていけ!」と言ってしまっている。
既に相手に対して要求を突き付けている時点で、俺達はその一歩を進めてしまったんだ!
そんな事を今更自覚した俺の耳に、どこか緊張感の無い若い男の声が聞こえてきた。
「う~ん? 自分達で盗賊行為と言っている以上、あなたたちは追い剥ぎ目的で僕らの前に現れたということで間違いない?」
そのセリフはまるで自分がその対象ではなく、第三者の傍観者のような立ち位置を感じさせる口ぶりだ。
アサに気を取られて忘れていたが、確かに最初の時点で荷車の後ろに若い男が立っていたのは見えていた。
……あれ? 若い男の手に持っているのは、布、か?
なんでこの状況で布を手に持ってるんだ? い、いや、持ってるだけじゃなくて布を縫ってないか!?
なんなんだコイツは?!
俺の動揺をよそに、別のヤツが怒鳴り散らす。
「そうだよ! だからとっとと、その荷車と持ってる金を全ておいてけ! ついでに舐めたテメーは着ているものも脱いで置いていきやがれ!」
その言葉につられてゲラゲラと男達の笑い声が上がる。
やばい! みんな覚悟を決めちまったのか!?
初めて人を襲うという決意をしたばかりで気が急いていた時に、この若者の、のらりくらりとした対応に怒りの感情が乗って勢いがついてしまったのだ!
「うん? まあ当然断りますよ?」
しかし若者はあっさりとこちらの要求を否定してきた。
そうなれば当然――
「ふざけやがって……。そんなにおちょくってくるなら、ボコボコにしてやるよ!」
俺が止める間もなく、男達は手にしたクワや斧などを振り上げて若者やアサ達に襲い掛かった。
俺は次の瞬間、アサ達が血まみれで怪我をしている姿を想像してしまった。
「アサ!」
だが次の瞬間、実際に俺が目にしたのは手に持った木の棒を巧みに使ってクワや斧などを受け流し、逆に男達を打ち据えるアサ達の姿だった。
「……え?」
俺はその声に自分の耳を疑った。
なぜならそれは1か月前に、家の食事も満足に買えない我が家の懐事情から、自ら農奴となって買われていった俺の娘の声だったからだ。
俺達は同じ村や他の村からも集まってきた、俺と同じように首が回らなくなったヤツラばかりで集まって野盗の真似事をさせられようとしていたやつらばかりだ。
皆、あの悪魔に言われるがまま、こうして街道を通りがかる旅人を待ち構えていたのだ。
そして俺と同じ村に居た、俺と同じ境遇の――つまりは自分達の娘が農奴として買われていった――ヤツラもその女の子達を見て、俺と同じように動きが止まっていた。やはり俺の聞き間違いや幻覚を見ているわけじゃない。
「アサ、なのか?」
「お、おい! お前の知り合いか?」
俺が娘――アサに問いかけた言葉は、近くの村から来た(俺にはその村が何処にあるのか分からなかったが)という別の村の男に質問という形で返された。
俺は生返事で返す。
「あ? ああ、俺の娘だ」
「……それじゃあ説得出来ないか? 俺達だって、出来るなら相手に怪我なんかさせたくないぞ」
「そうだ! お前の娘なら、言って聞かせろよ!」
俺は突然の出来事にまだ上手く動かない頭で『ああ、確かに』と考えた。
「――こんなところで、何をしているのお父さん?」
アサが再度聞いてきた。その声はどこか硬い雰囲気が感じられる。
今この場には俺以外の男達が居るし、さらに言えばアサも知らない別の村の男達も複数立っている。アサが緊張するのも仕方ないかもしれない。
「あ、ああ。……悪いんだがアサ、その荷車を置いていってくれないか?」
俺は自分でもぎこちないと思えるような笑みを浮かべながら、なるべくアサに緊張を与えないように頼んだ。
だがアサは荷車から離れようとはせず、その荷台から何かを取り出すと再度俺達の方を向いてきた。
あれはなんだ? 木の棒?
俺の頼みとは別の動きを見せるアサに、別の村の男達から怒気が感じられる。
しかしそんな怒気を何も感じていないのか、アサ以外の女の子達も荷車から次々に木の棒を取り出し始めた。
武器と思える物を取り出していく女の子達に、とうとう別の村の男達から怒声が飛び始めた。
「おい! 聞いてんのか!?」
「怪我したくなけりゃ、荷車置いてけって言ってんだ!」
「口で言って分からなければ、体で分からせてやろうか!?」
「お、おい。乱暴は止めてくれよ」
男達の余りにもな言葉に、思わず割って入ろうとしてしまう。
だがそんな俺に男達から睨みつけるような視線と、そして発せられた言葉にハッとしてしまった。
「うるせぇよ! 俺達は盗賊行為に手を付けちまったんだぞ!? その相手が身内だったからって、今更止められる分けねぇだろうがッ!!」
そ、そうだった! 俺達は既に「金と荷物を置いていけ!」と言ってしまっている。
既に相手に対して要求を突き付けている時点で、俺達はその一歩を進めてしまったんだ!
そんな事を今更自覚した俺の耳に、どこか緊張感の無い若い男の声が聞こえてきた。
「う~ん? 自分達で盗賊行為と言っている以上、あなたたちは追い剥ぎ目的で僕らの前に現れたということで間違いない?」
そのセリフはまるで自分がその対象ではなく、第三者の傍観者のような立ち位置を感じさせる口ぶりだ。
アサに気を取られて忘れていたが、確かに最初の時点で荷車の後ろに若い男が立っていたのは見えていた。
……あれ? 若い男の手に持っているのは、布、か?
なんでこの状況で布を手に持ってるんだ? い、いや、持ってるだけじゃなくて布を縫ってないか!?
なんなんだコイツは?!
俺の動揺をよそに、別のヤツが怒鳴り散らす。
「そうだよ! だからとっとと、その荷車と持ってる金を全ておいてけ! ついでに舐めたテメーは着ているものも脱いで置いていきやがれ!」
その言葉につられてゲラゲラと男達の笑い声が上がる。
やばい! みんな覚悟を決めちまったのか!?
初めて人を襲うという決意をしたばかりで気が急いていた時に、この若者の、のらりくらりとした対応に怒りの感情が乗って勢いがついてしまったのだ!
「うん? まあ当然断りますよ?」
しかし若者はあっさりとこちらの要求を否定してきた。
そうなれば当然――
「ふざけやがって……。そんなにおちょくってくるなら、ボコボコにしてやるよ!」
俺が止める間もなく、男達は手にしたクワや斧などを振り上げて若者やアサ達に襲い掛かった。
俺は次の瞬間、アサ達が血まみれで怪我をしている姿を想像してしまった。
「アサ!」
だが次の瞬間、実際に俺が目にしたのは手に持った木の棒を巧みに使ってクワや斧などを受け流し、逆に男達を打ち据えるアサ達の姿だった。
「……え?」
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