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しおりを挟むフォーディス伯爵の罰は、爵位の剥奪。剥奪に伴い貴族としての籍も奪う。そして、抉眼。所謂、目玉を抉り取る刑罰。今回は左目を取る。
フォーディス伯爵の犯した罪は教会への不法侵入から始まり、愛し子を侮辱した事。それらを鑑みれば軽い罰といえるらしい。
本来ならば、死罪になっていてもおかしくない。
フォーディス伯爵は何も考えていなかったようだが、教会へ勝手に入り散策する暴挙はそれだけでも許し難い案件である。
独立した権威を持ちうる教会という組織を軽く見ているだけでなく、その権力と権威を侵している。教会は特別な組織。神に仕え、神に存在を認められ、神と意思疎通できる力を持つ。
大陸中に存在し、国と見て差し支えない力を有するのだ。そこへ手続きを踏まずに入り込む。
それらを踏まえ、今回与えられた刑罰はこうなった。
愛し子に関わる刑罰は残酷な場合がかなり多い。神に愛されている故に、神も生半可なものでは赦さず、天罰や災害に見舞った過去がある。ただでさえ困難であるのに、愛し子が二人関わってくると罰を与えるは更に難しい。双方納得いく罰というのは不可能な為、死なない程度である程度重罰を与えることになった。
フォーディス伯爵が愛し子の親であるというのも、判断を下す難しい材料となった。
だが、生ぬるい罰は許さないと教会も打診しており、罪に見合ったものが選択された。
「というわけで、フォーディス伯爵は、然るべき罰が与えられることになりました」
香月、ヴィレム、シュリクロンを集めフロウティアはフォーディス伯爵について下された刑について説明を終え、締めくくる。
「ふーん、生ぬるい気もするけど」
ヴィレムは納得していないような表情を浮かべ、口を尖らせる。しかし、それ以上は何も言わず、香月の膝で丸まった。
「......父は、今、皇城でしょうか」
フォーディス伯爵の話を聞いていたシュリクロンが口を開き、父親の居場所をたずねる。その声は微かに震えている。
「えぇ、そうよ。話をするなら、今のうちにしといたほうがいいかもしれないわね。死にはしないけど、苦しむことになるでしょうから、まともに会話できなくなるでしょう。それに、これからの事も話してきなさい」
フロウティアの言葉にシュリクロンの顔が歪む。
「......父の元へ行って参ります......席を外しても宜しいでしょうか......」
シュリクロンは香月、フロウティアを見つめ許可が下りるのを待つ。フロウティアは頷き、香月も同じく頷いた。
シュリクロンは二人におじきをして、その場から離れる。
香月も刑罰の話を具体的に聞いてて気分が優れない。生々しい話に、気持ち悪くなる。
フロウティアは香月の顔が若干青ざめているのを目に留め、肩を竦める。だから言っただろうという雰囲気を醸しながらも、フロウティアは口には出さなかった。
「カツキ様、紅茶を飲んで温まってください。お茶菓子も用意しておりますから、甘いものを口にして、落ち着いてくださいね」
「うん、ありがとう......」
香月はフロウティアにすすめられるまま紅茶を飲み、お茶菓子を口に運ぶ。いつもより苦く感じるのは、感情によるものからきているのか。
「......この様な顔をさせたくないので、カツキ様には耳を塞いで頂きたかったのですけれど......」
フロウティアは苦笑を浮かべ、自らも紅茶に口をつける。
こうやって香月が沈むのを見越していたからこそ、フロウティアは香月の耳に入れないようにしようと提案してくれた。
でもそれを断ったのは香月だ。香月も刑罰について聞いて気分が悪くなったが、後悔はしていない。したくない。
きっと、後から知る方が衝撃も大きい。
「でも、後悔はしてない。関わってるのに知らないと、シュリクロンにも合わせる顔ないしね」
それは間違いなく香月の本音だ。
「そうですか......カツキ様がそう仰るならば、これ以上は何も申しません」
香月の言葉を聞き、フロウティアは口を閉じる。
「うん、ありがとう、フロウティア」
「いいえ、私こそ申し訳ありません」
フロウティアの謝罪に香月は戸惑う。
「何が?」
理由を問おうと香月はフロウティアにたずねる。
「フォーディス伯爵の侵入を許してしまったことです」
フロウティアはフォーディス伯爵との出会いを謝る。しかし、それはフロウティアのせいではない。フロウティアに責任は無いはずだ。
「それはフロウティアが謝ることじゃないでしょう?」
香月はフロウティアに非は無いと思う。だが、フロウティアはそうではないみたいだ。
フロウティアは酷く後悔している様子だった。
「フロウティア?」
「いいえ、ありがとうございます、カツキ様。では、暗い話はここまでにして楽しい話をしましょうか」
フロウティアは香月に感謝を述べたあと、つとめて明るく振る舞い、話を切り替える。
「楽しい話?」
「教会にいてこんな事が起こってしまったので、少し早急ではありますがカツキ様、色んな国へ観光に行きませんか?」
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