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しおりを挟む「さぁ、何から説明をしましょうか?」
フロウティアは香月に何から知りたいのかを聞く。
「わからないことだらけだけど、あの暗い空間は何だったの?」
香月はまず、転移した場所について質問する。あの場所は何だったのだろう。真っ暗でなにも無く、不思議な場所だった。
「あそこは、世界の狭間でございます」
「世界の狭間?」
「そうです。言葉の通り、世界と世界の間にある空間になります。普通、ただの人間が行ける場所ではなく......」
本来なら、香月も人間なのだから行けるわけない。しかし、何故か転移してしまったようだった。原因はわかっていないみたいだ。
「基本的にあの場所で存在が許されるのは神のみなんだけどね。何故かカツキはそこに転移しちゃったみたい。リローズ様も驚いていたよ」
フロウティアに続きヴィレムも説明してくれる。
「神のみ......」
あの空間が神のみに許された場所であるというなら、あの場にいた男もまた神であるのだろうか。それとも香月のようになにか手違いがあり、居たのだろうか。
「じゃあ、あの空間に男の人が居て、その、私が首を絞められたんだけど......神さまってことかな?」
「首を絞められた!?」
「カツキ!?首をよく見せて!」
香月の言葉が終わるや否や、ヴィレムとフロウティアは香月ににじり寄る。各々香月の身体をあらためる。
ヴィレムは軽やかに香月の肩に乗り、首を覗き込む。
フロウティアは触りはしないが、跡や傷がないかを入念に調べる。
幸い香月の体に不調は無く、ヴィレムとフロウティアは定位置に戻った。
「良かった、跡もないみたい。カツキの質問に答えるね。結論から言うと、カツキの言った通り、あの空間に居て、尚且つ無事であったならそいつは神で間違いないと思うよ」
「あの場所は神以外がいるととても身体に負担が掛かるので、普通に過ごしていたなら神で間違いないでしょう」
そして、各々見解を述べてくれる。
「そうなんだ......その人、私のことを誰かと勘違いしてたのかな?やっと逢えたって言ってた」
「それは......」
フロウティアは言い淀む。反対にヴィレムは何かを確信したようにいた。
「ねぇ、カツキ。魔法を使う時に、何度も使うかと問われたのを覚えている?僕たちが使用を躊躇っていたりしたのも、覚えている?」
香月はヴィレムの問いに頷く。魔法を使いたいと訴えれば、微妙な顔をされたのを覚えている。
「あと、リローズ様がカツキの魂が運命に好かれていると言ったでしょう?全てはそこに繋がるんだよ」
「どういう事?」
「言葉のまんまだよ?カツキは運命に好かれている。狙われている。だから、世界の狭間で接触してきたのは、間違いなく運命の神だと思う」
やけに断言する。しかし、否定を許さない強さがあった。
「カツキの魂を求め、器を壊す為にやって来たに違いない」
ヴィレムにそう言われ、香月は彼も同じ言葉を使っていたことを思い出す。
「確かにあの人も地上に縫い止める器を棄てて、って言ってた......」
そして、彼は言っていた。地上に縫い止める器を棄てさせ、連れて行きたいのだと。そう言われて、更に行動に移され香月は死を覚悟したのだ。
「じゃあ、確実に運命の神──ドゥーム様だと思うよ」
ヴィレムは香月の話を聞いて、総合的に判断した神の名前を口にする。
運命の神──ドゥーム。
聞いたこと無い名前。初めて耳にする名前。それなのに、胸が締め付けられたように苦しい。
(どうして?)
恐ろしい経験をしたからか、それとも、その名前に、存在に懐古しているというのか。
えも言われぬ感情を持て余し、香月は黙り込む。
「かの神は、この世界の神ではないから詳しくは知らないけど......リローズ様から名前は聞いたことがあるよ。あと、簡単なことくらいなら分かるよ」
聞く?とでもいうよな眼差しに香月は目線で答える。
「運命の神はずっと探しているみたい。ずっとずっと昔に喪った乙女を」
「じゃあ、あの人が運命の神だとして。私に器を棄てろって言うのは、私がその乙女だとでもいうの!?」
「......断言は出来ないけど。状況的には、そうだと思うよ」
感情的になり、叫ぶように言葉を吐いた香月にヴィレムは躊躇いがちに言う。断言は出来ないといいつつ、確信しているような声音だった。しかし、香月の反応を見て、ヴィレムは控えめな物言いをする。
「待って、話についていけないよ!」
ヴィレムは香月を気遣ってくれているのは実感している。だが、既に香月の思考は爆発寸前だ。色々な情報が一度に明かされ、それを飲み込む暇なく結論が出されゆく様に感情と考えが追い付かない。
全て一歩隔てた先にある様な、香月を置いてけぼりにして物事が進む。
「本当に待って......私は......私は、どうすればいいの?なんなの?どうしろというの?」
香月は頭を抱え、答えの出ない現状にうんざりする。
(私が喪った乙女だとして、どうしろというの?私は確信を持てないし、持ったとしても一緒に行きたいと考えると?)
香月が思考の渦に飲み込まれいると、今まで傍観していたフロウティアが口を開いた。
「カツキ様、深く考える必要はございません。リローズ様も仰っていたでしょう?カツキ様の望むように、と」
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