神々の愛し子

アイリス

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遂に儀式をする日がやってきた。といっても、提案された日から二日後である。急いで準備が進められ、今に至る。




手配されたとおり、香月は白いドレスを身に纏っていた。ただ最初に見た時よりも、豪奢な刺繍が金糸で施されている。確かにもう少し華やかにと言っていたが、だいぶ派手になっている気がする。刺繍は見事な薔薇と幾何学模様が入り乱れており、裾の下に縫い付けられているレースとの兼ね合いも美しく、バランスも良い。


 


既製品、ということだったが最早その域を逸脱している。フロウティアのドレスよりも派手かもしれない。




髪は薔薇の香油を馴染ませ、櫛で梳かしそのまま流している。フロウティア曰く、金糸のように美しいのだからまとめるのは勿体無い、とのことでおろしたまま。その上には花をあしらったレースのベールを被っている。前は顔が半分ほど隠れ、後ろは腰くらいまでの長さで歩くのに支障をきたさない程度の長さであった。




更にその上には様々な宝石で彩られたティアラが乗せられている。太陽の光が反射してキラキラ輝いていた。




そうして最後にドレスと同じ布で作られた靴を履く。少し高さがあるが、ある程度慣れ親しんだ高さだから歩くのは問題ない。



朝から準備をして、やっと服装が完璧になったところで場所を移動する。



儀式は同じ教会内で行うらしい。しかし、一般に解放されている礼拝堂ではなく、関係者のみ入室可能な礼拝堂があるとの事で、そちらで香月は祈りを捧げる。



教会は広大な土地に建てられている。初めに目にした教会はほんの一部でしかなかったことがよくわかった。



「カツキ様、準備は宜しいですか?」




「本当にリローズと会話できるか不安......!!」




思わず、香月は本音を零す。




「心配なさらなくても大丈夫ですよ、リローズ様に愛されているのですから。カツキ様の声が届かぬ事などありえません。愛し子の強い想いに神は応えてくれます、どんなに小さな祈りであろうとも、小さき声であろうとも」



香月の心配をよそに、フロウティアはおっとり微笑みながら告げる。




「だから心配せずに挑めって?」




フロウティアは香月の言葉に肯定を示し、頷いた。




やったこともない事に対する不安と、リローズが魔法を使うことを快諾してくれるかの不安。




恒例の儀式を行う場所は専用の場所があり、それは教会の外に建てられている建物だった。教会とは別の建物で、儀式専用らしい。




フロウティアとヴィレムと共に転移する。両者、共に息を吸うかの如く、自然に、当たり前のように魔法を使う。無詠唱で。




魔法はどんなことができるんだろう、と楽しみでもあり、必ずしも成功するとは限らない。失敗する可能性もある。その失敗が取り返しのつかないものだったら、と思ってしまう。



使っている様を見せてもらうのもいいと思う。でも、やっぱり見てるだけじゃなくて、使えるなら使いたい。




(頑張って、リローズを説得しなくちゃ......!!)




口説くぐらいの勢いでお願いせねば、と考える香月であった。

















転移した先は、儀式を行う礼拝堂。入り口に転移したようだ。中の様子がよく窺える。




教会を初めて訪れた時に見た礼拝堂も美しく、清涼な空間であったが、この場所はそれを上回る。




同じような造りで、同じような配置で、ほとんど変わらない。ただ、漂う空気が違う。更に神聖で、侵し難い雰囲気がある。




色とりどりのガラスから溢れんばかりの光が降り注がれているにも関わらず、昼間だというのに少し薄暗い。ただ不気味さは無く、あるのは心地よい安寧。安らぐ暗さに香月は深呼吸する。




祭壇には同じく月と太陽と花を模したものか飾られている。それを照らすように水晶が順に並べられ、入り口から至る所に置かれていた。それは光を灯す役割もあるようで淡く光り輝き、辺りを照らす。




水晶は祭壇から左右に道をつくり、設置されていてその周りには儀式に参加する人間が並んで立っていた。人数は五十人ほどだろうか。正確な人数は分からないが、けっこう人がいる。



簡素な儀式でこの人数。大規模な儀式になればこれ以上の人が集まるという事だ。




(うわぁ、絶対やりたくない!)




この人数でも既に嫌になっている香月は、想像しただけで嫌悪感を抱く。




(まぁ、私がするのは今回だけし、頑張るか)




そう自分を納得させる。



(いよいよ、始まる)




手順通りフロウティアと共に、祭壇へ続く道を歩いていく。




フロウティアは歩き慣れているのだろう。気負わず、微笑みを浮かべながら進んでいく。




その少し後ろを香月はヴィレムと共に歩く。




その場は様々な視線が注がれているのに対して、音は最小限。人の息遣いが聞こえるくらい静寂に包まれていた。フロウティア、香月の歩く音が酷く大きく反響する。




フロウティアが祭壇に到着する。続いて香月も辿り着く。入り口から祭壇までたいした距離がある訳でもないのに、遠くに感じた。時間にすれば数十秒といったところで、短いのに長い時間歩いたみたいに疲れた。きっとそ緊張しながら進んできたから、そう感じるんだろう。




フロウティアが祭壇に予め置かれている、月と太陽と花を模したペンダントを掲げる。それは香月用に用意された物で、儀式を行う際につける。聖職者はそれを補助器具として使用し、力を循環させ執り行うと説明を受けた。




フロウティアの近くで香月は跪き、ペンダントをつけてもらう。



フロウティアは香月にペンダントをさずけると脇に避ける。



ここからは、香月の出番だ。


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