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しおりを挟むティアルティナは中へ進む。椅子に座るお見合い相手の後ろ姿を、ティアルティナの目が捉えた。
輝く長い金色の髪は後ろで一つに纏められ、簡素な髪飾りが付いている。
すらりとした体躯に、ピンと伸びた背筋。
後ろ姿からの相手に対する印象が、それほど悪くなかった事に少なからず安堵した。人は見た目ではないとわかっているけれど、どうしても体が大きい相手には緊張してしまうし、嫌な記憶を思い起こさせる為、避けてしまう傾向にある。
安心したところで足を進め、席に辿り着く。
相手もティアルティナが来たことに気付き、顔を上げる。
伏せられた顔が露になり、ティアルティナは開いた口が塞がらなかった。
(私、来る場所を間違えた──!?)
ティアルティナは本気でそう考えた。冷静な部分ではここまでは案内されたのだから間違えようがないし、あっているはず。だが、目の前にいるのは男性ではなく女性。
中性的な男性かと思ったが胸の膨らみは誤魔化しようがなく、豊満すぎるそれに同性ながら羨ましくて眺めてしまう。
「ティアルティナ姫でしょうか?」
桃色の唇から紡がれる可憐な声にティアルティナは我にかえり、すぐに返事を返す。
「ええ、そうです。あの、貴女は……?」
ティアルティナは困惑しながらも何者かを問う。
「国王陛下からお話はありましたでしょうか?」
「お見合い相手の方がいらっしゃると聞いて伺ったのですが……」
貴女は性別から除外される。という言葉をティアルティナは何とか飲み込んだ。
しかし、ここ居るということは彼女がそうなんだろうか。
悩むティアルティナに答えを差し出したのは、椅子から立ち上がった彼女だった。
「お話はあったのですね。改めて、この度ティアルティナ姫の王婿候補に選ばれましたロナルド・ファーマンと申します。よろしくお願い致します」
優雅にお辞儀をし、固まるティアルティナの手の甲に口付けを落としながら目の前の女性は名乗った。
「ロナルド殿下!?」
そして名乗られた名前にまた驚愕する。その名前は隣国のファーマン王国第二王子だったからだ。
親しいとは言わないが、会えば挨拶を交わし近況くらいは話す。ついこの間もパーティーで会ったが、その時の彼は男性だった。
目の前に佇む彼女とは金色の髪やサファイアのような深みのある青い瞳は酷似しており、姉や妹と言われれば納得するくらいだ。しかし本人だと言われても納得することはできない。
「分からないということは成功かな......。信じ難いでしょうが、僕は正真正銘、ファーマン王国第二王子のロナルド・ファーマンです」
苦笑を浮かべながらも言い切る。その言葉に惑いはなく、真実を告げているのだと思わせる強さと、切実さがあった。
「あぁ、それにもうすぐ日が暮れますね。ちょうどいいです」
「ちょうどいい?」
真上にあった太陽は沈みはじめ、代わりに月がのぼり始めた頃。彼女の変化は顕著だった。
すらりとした体躯は変わらずだが、足や手は伸び、顔つきも変わる。豊満だった胸はなくなり、そのかわり見覚えのある青年が姿を現す。
ほらね、と言うように穏やかに微笑む彼にティアルティナは絶句する。
目の前での変化も驚くべき現象だが、それを起こしているものからもティアルティナは目が離せなかった。
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