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科学の力
しおりを挟む”魔法ってのは科学で解明できないから魔法なんだよ”
ユウゴの問いに対し答えるインフィ。
魔法も、様々な法則によって作用される。その点においては科学と同じだが性質は全くことなる。
そう、何かが起こるということは原因・仕組みがあるのだ。
ゲームの世界には、パラメーターなる数値化された実力がある。というよりも、0と1の2進数の世界において
数値が神なのだからしかたがない。ユウゴにとって毎日の習慣、日課と言っても過言ではないゲームの世界。
数時間、興じる。が、RPGならエンディングがくるし、アクションゲーム等ならやりこんでもいつかは飽きがくる。
数十日後には終わりが来るのだ。それでも、さほど面白みのない現実は継続する。
ゲームの世界には、確固たるユウゴの未来はない。記録を消せば、それまで積み上げてきた努力は気泡へとかす。
そんなことはわかってはいる。そんなことは押し殺せばいい。今・が楽しいのだから。
だから、ここは出来のいいゲームの世界だと思うことにした。
友人や家族とは連絡はつかないが、携帯電話は圏外を脱出したし、GPSもある。
自分の今の立ち位置、設定もなんとなくわかる。
「ということは、俺はまだ使えないのか。道具屋にでも売ってるのか?」
生い茂る木々を押し分け深林シンリンを進む、ユウゴ。
「ユウゴ、誰としゃべってるのだ?」
後ろをついてくるリサが声をかける。
「あぁ、気にするんな。独り言だ。」
説明しようとも思ったが、ケイタイのディスプレイを見ただけで驚き戸惑うリサが先にあったのでやめておいた。
「ジークなんとかをやっつければいいんだろ。お姫さま」
苔で足が滑りそうになりながら、次の歩を進める。
「ジーク・ピリオドは別に倒さなくていい、レッドアイを取り戻してくれさえしてくれればいい。」
紅い宝玉、それさえあれば王家復興の足がかりになるらしい。
「まぁ、任せておけ。如月勇吾様が来たからには安心だ。中ボスだろ、簡単にひねりつぶしてやるよ。」
木漏れ日がマイナスイオンを感じさせる。冷静な考えも浮かぶ。俺のレベルっていくつだろうか。
ボス戦の前にレベル上げや、回復アイテムとか買いに行かなくて大丈夫だろうか。
”ユウゴのレベルは87だ、にゃ~♪レッドドラゴンだって一撃♪”悪ふざけをするインフィの声が耳に響く。
ブルー、イエロー、レッドの順で強さの段階があがるドラゴンの種類。ブルーだったら数撃で倒す自信もある。
イエローも時間をかければ、レッドに関してはまだソロでは未だ敵わない。
多人数型ネットゲームの話だ。
「強暴のジーク、ひとたび戦場に出れば際限がない。味方でさえ恐れている者もおったくらいじゃ。
インデックの使いとはいえ、まだ死なれては困る。」
よくある設定。強いといわれている悪人を倒し、勇者になる。
ヒロイン、ここではリサかな。小柄だが、芸能人を超える可愛さと美しさが介在している。
少々、性格は不安定だが。まぁ、それもキャラとしてはなかなか。
”ご主人様、まもなく目的地です。”奇しくも、ケイタイの地図が示したポインタの場所はジーク・ピリオドの領館であった。
作為的な設定がそもそもの思考の停止を生んでいたのかもしれない。
「リサ姫、ここでいいだろ。」
林を抜けた先には、小城があった。この地、彩の区の領主ジークの館。
どうしてここがわかったのか、目を白黒させるリサ。昨夜忍びこんだ場所。
「警備が厳しくなっている。どうしようもない。」
変態コスプレオヤジどもに紛れ、サムライ風の男達もみてとれる。
「そういえば、リサ、お前魔法使えるのか?」軽い口調で言い放つユウゴ。
「馬鹿にしおって、わらわは正統なる聖職者・治癒の第2位女神アリアと契約しておる。」
「ってことは、攻撃魔法はてんでダメってことだな。お姫さまらしいか。」
図星をつかれ絶句するリサ。幻影魔法も多少と言うおうと思ったが、
聖職の位を持つものが下法である人を惑わす術を得ることは恥ずべきことであるため、喉元に収めた。
「じゃ軽く行きますか。正面から。」
再び絶句するリサ。
「援護頼んます。」ユウゴは軽くリサの頭を撫でると、有無を言わさず正面から突撃する。
”了解♪インフィちゃんも頑張ちゃうね♪”
「何がガンバチャウネだ!戦うのは俺なんだから途中でフリーズするなよ!!」
前傾姿勢のまま、拳を強く握り加速する。
ユウゴには、ここまで強気になれるのには、ここがゲームだと思えることをひとつ明け方試していた。
”相変わらず冷たいな~。ではでは、脳内スキャンにより戦闘状態に突入を確認。バーストモードに移行でよろしいですかぁ”
「もちろん!!」ユウゴは笑みを浮かべる。
その瞬間、流れる場景がスローモーションになる。脳内の処理の加速により視覚情報の伝達が早くなり
現行対比で0.48倍に感じられる。
”右前方接敵。”聴覚情報も同義である。
コスプレ変態オヤジが鼻毛を出しながら、円刀シミターを右手で振り上げる。
左に踏み込んで手首をつかんで、あの剣を奪うか。
振り下ろされる、ゆっくりの斬撃を寸でのところでかわすが手が届かない。
もう一度。刃先を返し、切り替えして来る。踏み込むのはまずい。
後ろへ飛びのく。右から左に流れる一線をかわす。
はず、だった。跳躍が足りずユウゴの腹を切っ先がかすめる。
どうしてだという思いよりも先に、膝が震えだした。
バーストモード、簡単に言うと2倍の速さで動くことができるゲームのスキル。
”左後方接敵”倒れこむように、右へ転がる。
”バイタル上昇、血圧低下を確認。裂傷の可能性あり。”
尻餅をつき後ずさるユウゴ。腹が熱い。
手を当てると、ヌルっとした感触があった。
目の前の野獣の目がギラつく。何か言っているようだがゆっくり過ぎて聞き取れない。
”ログアウト後、病院へ行くことをお勧めします。119番しますか。”明るいインフィの声ではなく、
プレインストールされている淡々とした女性のナビゲーターが発する。
後ろに飛びのいた時からログアウトのコマンドは何度も何度もしている。
そう、脳内は2倍速になっていたが生身の体は、運動能力は変わっていなかったのだ。
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