奇跡と当然と凡人

yuushi

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「回収に来ました。」

フェリはやけに畏かしこまった口調で語る。

「はぁ?!」レイスの頭にはクエスチョンマークが・・・

「だから、回収にきました!!」

ネクタイにメガネをかけた黒猫が一生懸命語りかける。

「意味がわからん。」

「え~っと、回収とは貸したものを利子をつけて返しもらうことだそうです。」

そうそう借りたものは返さないとね、って、俺はなんも借りてないし、

そもそも、猫用のネクタイとかメガネなんて売ってるのか?そっちの方が疑問だ。

よくわからんが「猫缶でいいか?」

釣り上がった猫目が一瞬緩む。

「・・・・・・ダメです。」

どういった縁えんか、家には大量の動物の餌がある。

「ちょっとまってろ。」フェリは何も言わずフロアマットに座っていた。

大手のペットフード会社で新商品の開発をしているオヤジがおみやげに持って帰ってくる。

最近の猫缶や、ドックフードは人間が食べても大丈夫だということで毎日のように

試食を繰り返している。なんとも仕事熱心なことだ。

”うまさ100倍猫缶スペシャル2(当社比)”

を台所の棚から取り出す。

「とりあえず、4、5缶持ってくか。」

ちょっとくらい減ってた所で、絶対に気づかない量なのだが、万が一オヤジにばれると制裁が待っている。

レイスも成長したなぁ、やっと猫缶の旨さに・・・と嬉々とし夕飯になりかねない。

もう、ペットフードは食いたくねぇ。

「おい、フェリ、餌、じゃなかったご飯だぞ。」オヤジ曰いわく、ご飯だそうだ。

黒縁のメガネの奥にはキラキラとした瞳。

「わ、わたしは、そのようなことでは買収されません。」

小学校6年の夏、夕食に鶏のササミ缶が出た。結構旨かった。

次の日、母は買い物に行ったきり、未だ帰ってこない。

「じゃ、いらないのか?いっぱいあるからやるぞ!!」

たぶん、ささみ缶が原因で帰り道を忘れたわけではないとは思うが、

「・・・タダですか?」

「回収の話を教えてくれたら、やるぞ。」

大きく深呼吸をするフェリ。

「回収とは貸したものを利子をつけて返しもらうことだそうです。」またそこかよ。

すでに、小一時間ここから進んでいない。切り札の悪しき猫缶に手を染めたにもかかわらず。

「とりあえず、解った。」お前の脳みそが猫の額ほどしかないのは、よ~く。

「えっ、てことはですね~♪猫缶スペ・・・じゃなかった、返してくれるんですね。」

「おう」ラチがない。とりあえず猫缶プルトップに指をかけ、開封する。

鶏肉とゼラチンの甘いニオイがするそれをフェリに差し出す。

一心不乱に顔をつっこむ猫を尻目に、空間を把握する。

フロアマットの大きさに空間を区切る。

「フェリ、悪いな今日は帰ってくれ。お前と話すとどうも疲れる」

「ふぇ??」

ササミを咥え、メガネがズレ落ちるフェリ。

位置を固定する、転移先は、、、学校の校庭を意識する。

空間が、飛ぶ。

「そんなことしたら、仕事増えますよ!!」

フロアマットと共に、彼女は捨て台詞を叫んだ。

「さぁ、寝よ。そもそも今何時だと思ってるんだあいつ。もう夜中の2時だぞ。」

”06:24”
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