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小さな春の嵐
その1 ⑤
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それが何故、山中を独りにしておくという判断になるのか、暁斗にはちょっとわからない。奏人がじゃあ、と前置きした。
「山中さんと一緒に行けばいいんじゃないの? ちょっと遠出のデートになるけど」
「でも穂積さん疲れちゃうし、僕の実家で気を遣わせるのも可哀想なんですよね」
隆史はしょぼんとしてしまったが、暁斗は奏人と顔を見合わせて、互いに少し首を傾げた。よくわからないという意志疎通ができてしまう。
お湯が沸いたチャイムが鳴ったので、歯ブラシと着替えを持ち、隆史は脱衣室に行った。彼にタオルを出してやった奏人は、リビングに来てやはり首を傾げる。
「何だか、山中さんにも話を聞いたほうがいいような気も……」
それを聞いて、暁斗も苦笑する。
「あの子はちょっと気を回し過ぎるタイプだから、案外鈍い山中さんの考えもしないところで悩んでたりしそうだなぁ」
暁斗はキッチンのテーブルに放置していたスマートフォンを取りに行く。そして、LINEで山中のトークルームを探した。彼とは滅多にLINEでやり取りしないので、画面をかなりスクロールしないと見つからなかった。
「明日企画と広報と合同会議があるから、午前中に顔合わせるんだけど」
「いいじゃん、社内でパートナーが家出中なんて話はしないほうがいいから」
奏人の言う通りだ。ただとにかく、心配していたら可哀想なので、短文を送る。
「ここにいるけどもう寝たって伝えとく」
「もういい時間だから、山中さんも突っ込んでこないと思うよ」
奏人に言われて時計を見ると、22時40分だった。よく考えると、暁斗は山中の生活サイクルというのか、プライベートの時間の使い方を全然知らない。残業の多い部署の人間で、かつては仕事が終わった後に、隆史や他のディレット・マルティールのスタッフと遊んでいた(山中は隆史を紹介されるまで、固定して指名するスタッフを持っていなかったらしい)のだから、夜は遅いほうなのではないかと思う。
「まあ奏人さんが風呂から上がって隆史くんがまだ起きてたら、それとなく話を聞いてみてよ……俺も明日、山中さんと話がしやすい」
暁斗の言葉に、奏人は笑顔で敬礼して、了解、と答えた。そんな姿を見ると、可愛いなと思ってしまう暁斗である。こんな風に、山中も隆史のやることなすことを可愛いと思っているのか、それとも……。
「暁斗さんはお節介だね」
「言いながらいつも乗ってくるくせに」
「えっ、暁斗さんのがうつったかな」
奏人も本当は、大概お節介なのだ。でなければ、幼稚園年長組の女の子の世話を焼いたり、高校時代の先輩のことをやたらと気にしたりしないだろう。
暁斗のスマートフォンが震える。奏人も画面を覗きこんできた。
「悪い。何を怒ってるのかマジわからんで困ってるんだけど、そっちにいると聞いてひとまず安心しました。隆史のこと頼みます、おやすみ」
さすがに今から迎えに行くとは言わなかったか。奏人にも画面を見せてやりながら、暁斗は笑った。仕事では隙の無い山中の、弱点を見た気がする。暁斗もおやすみなさいとだけ返事をして、トークルームを閉めた。
暁斗は奏人と一緒に寝室に行って、たまに出動する客用の布団セットをクローゼットから出した。枕は隆史のためにベッドに置き、暁斗は自分の枕を抱く。
「このパターン初めてだね、お客さんがここで寝て暁斗さんがリビングに行くとか」
掛け布団を収納袋から出しながら、奏人は楽し気に言った。修学旅行気分にでもなっている様子である。
「若者同士語らってくれ、枕投げもしたらいいんじゃないか?」
「そんな野蛮な遊びはしません」
修学旅行で枕投げをしなかったのかと奏人に突っ込みたくなったが、先に隆史に確認しようと思った。奏人を論破するには、味方を増やすくらいしか、暁斗に勝ち目はないからである。
「山中さんと一緒に行けばいいんじゃないの? ちょっと遠出のデートになるけど」
「でも穂積さん疲れちゃうし、僕の実家で気を遣わせるのも可哀想なんですよね」
隆史はしょぼんとしてしまったが、暁斗は奏人と顔を見合わせて、互いに少し首を傾げた。よくわからないという意志疎通ができてしまう。
お湯が沸いたチャイムが鳴ったので、歯ブラシと着替えを持ち、隆史は脱衣室に行った。彼にタオルを出してやった奏人は、リビングに来てやはり首を傾げる。
「何だか、山中さんにも話を聞いたほうがいいような気も……」
それを聞いて、暁斗も苦笑する。
「あの子はちょっと気を回し過ぎるタイプだから、案外鈍い山中さんの考えもしないところで悩んでたりしそうだなぁ」
暁斗はキッチンのテーブルに放置していたスマートフォンを取りに行く。そして、LINEで山中のトークルームを探した。彼とは滅多にLINEでやり取りしないので、画面をかなりスクロールしないと見つからなかった。
「明日企画と広報と合同会議があるから、午前中に顔合わせるんだけど」
「いいじゃん、社内でパートナーが家出中なんて話はしないほうがいいから」
奏人の言う通りだ。ただとにかく、心配していたら可哀想なので、短文を送る。
「ここにいるけどもう寝たって伝えとく」
「もういい時間だから、山中さんも突っ込んでこないと思うよ」
奏人に言われて時計を見ると、22時40分だった。よく考えると、暁斗は山中の生活サイクルというのか、プライベートの時間の使い方を全然知らない。残業の多い部署の人間で、かつては仕事が終わった後に、隆史や他のディレット・マルティールのスタッフと遊んでいた(山中は隆史を紹介されるまで、固定して指名するスタッフを持っていなかったらしい)のだから、夜は遅いほうなのではないかと思う。
「まあ奏人さんが風呂から上がって隆史くんがまだ起きてたら、それとなく話を聞いてみてよ……俺も明日、山中さんと話がしやすい」
暁斗の言葉に、奏人は笑顔で敬礼して、了解、と答えた。そんな姿を見ると、可愛いなと思ってしまう暁斗である。こんな風に、山中も隆史のやることなすことを可愛いと思っているのか、それとも……。
「暁斗さんはお節介だね」
「言いながらいつも乗ってくるくせに」
「えっ、暁斗さんのがうつったかな」
奏人も本当は、大概お節介なのだ。でなければ、幼稚園年長組の女の子の世話を焼いたり、高校時代の先輩のことをやたらと気にしたりしないだろう。
暁斗のスマートフォンが震える。奏人も画面を覗きこんできた。
「悪い。何を怒ってるのかマジわからんで困ってるんだけど、そっちにいると聞いてひとまず安心しました。隆史のこと頼みます、おやすみ」
さすがに今から迎えに行くとは言わなかったか。奏人にも画面を見せてやりながら、暁斗は笑った。仕事では隙の無い山中の、弱点を見た気がする。暁斗もおやすみなさいとだけ返事をして、トークルームを閉めた。
暁斗は奏人と一緒に寝室に行って、たまに出動する客用の布団セットをクローゼットから出した。枕は隆史のためにベッドに置き、暁斗は自分の枕を抱く。
「このパターン初めてだね、お客さんがここで寝て暁斗さんがリビングに行くとか」
掛け布団を収納袋から出しながら、奏人は楽し気に言った。修学旅行気分にでもなっている様子である。
「若者同士語らってくれ、枕投げもしたらいいんじゃないか?」
「そんな野蛮な遊びはしません」
修学旅行で枕投げをしなかったのかと奏人に突っ込みたくなったが、先に隆史に確認しようと思った。奏人を論破するには、味方を増やすくらいしか、暁斗に勝ち目はないからである。
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