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同窓会に行こう!
11月12日 14:40⑤
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蓉子が、何かを悟ったように微笑した。
「先走ってるし図々しい話なんだけど、私は晴夏ちゃんの友人としてお式に出席するのは全然構わないと思ってるから、桂山家の都合に任せるわ」
泉が朗らかに笑う。
「これは桂山も悩ましいな」
「俺は別にいいよ、妹に任せるし、父と母もたぶん反対しないと思う」
おかしな話だが、本気で暁斗はそう思った。もし父と母が蓉子と顔を合わせても、久しぶりだねと穏やかに言葉を交わすことだろう。子がいなかったために、親権を巡って蓉子と憎み合い、揉めた訳でもなかったし、暁斗が新たにパートナーとして選んだのが男であるという事実は、蓉子と奏人の位置づけは何か別物だという奇妙な認識を、桂山家の人々に与えていた。
晴夏が奏人を敵視したのは、兄を「同性が好きな変態」にして自分から遠い存在にしたと考えたからである。今も晴夏は5つ年下の義兄に多少反抗的な素振りを見せるが、それは暁斗が蓉子と結婚した時も、同じように蓉子に対してちらちら見せていたものだった。
「桂山が男に目覚めたことってたぶん、家族の価値観を何か、良くも悪くも捻じ曲げたんだろうなぁ」
泉はレポートの発表の結論に入るような口調になった。小野が軽く反論する。
「悪く捻じ曲げたってことは無いと思いますよ、桂山さんのようなパターンは珍しいかもしれないですけど、お子さんが同性愛者だとわかって家族の在り方を考え直したって人、私の職場にもいます」
「私の価値観も変わったなぁ……もし夫婦である間に桂山さんが奏人さんと深い関係になってたとしたら、私たぶん慰謝料とか容赦しなかった、というかできなかったと思うんだよね」
蓉子が低く言うと、場にうわぁ、という声が起こった。今だから半ば笑い話にできるけれど、暁斗とセックスレスになり気持ちまですれ違った日々は、蓉子にとっても辛かったのだと暁斗はあらためて思う。蓉子自身がもう終わったことだからいいのだと言っても、1人の人間の生涯に痕の消えない傷をつけたという事実は、一生背負わなくてはいけない十字架だと暁斗は考えた。……酒も醒めてきたので、もう口にはしなかったが。
スマートフォンの振動に、暁斗はふと現実に戻った気がした。もうこの店に入ってから、そこそこの時間が経っている。
LINEをくれたのは片山だった。彼と奏人と、奏人ほどではないが細身で、朗らかな笑顔が感じの良い短髪の男性が横並びで写る画像が添付されている。
「こんにちは。高崎が誤解を招く? ような写真を送ったようで、私が謝るのも変ですが申し訳ありません。高崎の右の男性につき合い、ホテルのブライダルフェアを楽しんでいます」
蓉子の話した通りらしい。バリトン歌手の説明は続く。
「彼は高崎の同級生で、グリーの後輩です。来年の5月に挙式を予定しています。先ほど皆でタキシードの試着をさせてもらいました。私は遊びですが高崎は真剣です笑」
暁斗がいろいろな意味でにやけてしまったからか、泉がどうした? と訊いてくる。
「いや、連れ合いが久々に会う友達と、やっぱりブライダルフェアで遊んでるって」
「写真来たのか、見せろ見せろ」
泉が上半身を乗り出してくるので、暁斗は画面を彼のほうに向けた。友人は目を見開く。
「男も衣装の試着できるのか? 俺そんなのさせてもらえなかった……」
泉の口調に、暁斗は笑ってしまった。
「何年前のことを嘆いてるんだよ、まあ確かに俺も……木村さんとの時は、あまり選択の余地無かったけど」
「花嫁ファーストだった結婚式も、変わってきてるのかもなぁ」
奏人は上品なキャメルブラウンのジャケットとパンツを身につけていた。片山の言うように、真剣に選んでいたということは、これを着て式をしたいと考えているのだろうか。
泉は少し声を落として、真剣に言う。
「何か話聞いてたら、桂山の連れ合いはやっぱ若いし、乙女なとこもあるんじゃないか?」
「うーん、儀式とか手続きを経ることにちょっとこだわってはいるかも……基本俺よりドライなんだけど」
「早くパートナーシップ制度使って、式と披露宴してやれよ……ドライなのに写真でアピってくるとか、可愛いじゃないか」
言いながら泉は、何故か恍惚混じりの笑いを浮かべ、上半身を捩らせた。そういえば彼が昔からツンデレタイプが好きだったと思い出した暁斗は、別にツンデレではない奏人を勝手に妄想のネタにしている友人に苦笑する。
「やめろ、俺の連れ合いに興奮するな」
「いやぁ、結婚式呼んでくれ」
泉は言うが、祝い金を取るのも2回目となると心苦しい。そうか、式を身内だけでやって、宴会は会費制にしたらいいのか。暁斗は何となく閃いた。
役所に行ったり式を挙げたりといった話を、奏人ときちんと膝を突き合わせてしたくなってきた。仕事が混んできて後回しにしてしまうのは、蓉子との時もそうだったので、よくないという自覚はある。
スマートフォンを取り上げた暁斗は、まず片山に礼を述べて、奏人とのトークルームを開いた。そこに並ぶ、半ばいたずらで送り合った写真に、苦笑を禁じ得なかった。
「先走ってるし図々しい話なんだけど、私は晴夏ちゃんの友人としてお式に出席するのは全然構わないと思ってるから、桂山家の都合に任せるわ」
泉が朗らかに笑う。
「これは桂山も悩ましいな」
「俺は別にいいよ、妹に任せるし、父と母もたぶん反対しないと思う」
おかしな話だが、本気で暁斗はそう思った。もし父と母が蓉子と顔を合わせても、久しぶりだねと穏やかに言葉を交わすことだろう。子がいなかったために、親権を巡って蓉子と憎み合い、揉めた訳でもなかったし、暁斗が新たにパートナーとして選んだのが男であるという事実は、蓉子と奏人の位置づけは何か別物だという奇妙な認識を、桂山家の人々に与えていた。
晴夏が奏人を敵視したのは、兄を「同性が好きな変態」にして自分から遠い存在にしたと考えたからである。今も晴夏は5つ年下の義兄に多少反抗的な素振りを見せるが、それは暁斗が蓉子と結婚した時も、同じように蓉子に対してちらちら見せていたものだった。
「桂山が男に目覚めたことってたぶん、家族の価値観を何か、良くも悪くも捻じ曲げたんだろうなぁ」
泉はレポートの発表の結論に入るような口調になった。小野が軽く反論する。
「悪く捻じ曲げたってことは無いと思いますよ、桂山さんのようなパターンは珍しいかもしれないですけど、お子さんが同性愛者だとわかって家族の在り方を考え直したって人、私の職場にもいます」
「私の価値観も変わったなぁ……もし夫婦である間に桂山さんが奏人さんと深い関係になってたとしたら、私たぶん慰謝料とか容赦しなかった、というかできなかったと思うんだよね」
蓉子が低く言うと、場にうわぁ、という声が起こった。今だから半ば笑い話にできるけれど、暁斗とセックスレスになり気持ちまですれ違った日々は、蓉子にとっても辛かったのだと暁斗はあらためて思う。蓉子自身がもう終わったことだからいいのだと言っても、1人の人間の生涯に痕の消えない傷をつけたという事実は、一生背負わなくてはいけない十字架だと暁斗は考えた。……酒も醒めてきたので、もう口にはしなかったが。
スマートフォンの振動に、暁斗はふと現実に戻った気がした。もうこの店に入ってから、そこそこの時間が経っている。
LINEをくれたのは片山だった。彼と奏人と、奏人ほどではないが細身で、朗らかな笑顔が感じの良い短髪の男性が横並びで写る画像が添付されている。
「こんにちは。高崎が誤解を招く? ような写真を送ったようで、私が謝るのも変ですが申し訳ありません。高崎の右の男性につき合い、ホテルのブライダルフェアを楽しんでいます」
蓉子の話した通りらしい。バリトン歌手の説明は続く。
「彼は高崎の同級生で、グリーの後輩です。来年の5月に挙式を予定しています。先ほど皆でタキシードの試着をさせてもらいました。私は遊びですが高崎は真剣です笑」
暁斗がいろいろな意味でにやけてしまったからか、泉がどうした? と訊いてくる。
「いや、連れ合いが久々に会う友達と、やっぱりブライダルフェアで遊んでるって」
「写真来たのか、見せろ見せろ」
泉が上半身を乗り出してくるので、暁斗は画面を彼のほうに向けた。友人は目を見開く。
「男も衣装の試着できるのか? 俺そんなのさせてもらえなかった……」
泉の口調に、暁斗は笑ってしまった。
「何年前のことを嘆いてるんだよ、まあ確かに俺も……木村さんとの時は、あまり選択の余地無かったけど」
「花嫁ファーストだった結婚式も、変わってきてるのかもなぁ」
奏人は上品なキャメルブラウンのジャケットとパンツを身につけていた。片山の言うように、真剣に選んでいたということは、これを着て式をしたいと考えているのだろうか。
泉は少し声を落として、真剣に言う。
「何か話聞いてたら、桂山の連れ合いはやっぱ若いし、乙女なとこもあるんじゃないか?」
「うーん、儀式とか手続きを経ることにちょっとこだわってはいるかも……基本俺よりドライなんだけど」
「早くパートナーシップ制度使って、式と披露宴してやれよ……ドライなのに写真でアピってくるとか、可愛いじゃないか」
言いながら泉は、何故か恍惚混じりの笑いを浮かべ、上半身を捩らせた。そういえば彼が昔からツンデレタイプが好きだったと思い出した暁斗は、別にツンデレではない奏人を勝手に妄想のネタにしている友人に苦笑する。
「やめろ、俺の連れ合いに興奮するな」
「いやぁ、結婚式呼んでくれ」
泉は言うが、祝い金を取るのも2回目となると心苦しい。そうか、式を身内だけでやって、宴会は会費制にしたらいいのか。暁斗は何となく閃いた。
役所に行ったり式を挙げたりといった話を、奏人ときちんと膝を突き合わせてしたくなってきた。仕事が混んできて後回しにしてしまうのは、蓉子との時もそうだったので、よくないという自覚はある。
スマートフォンを取り上げた暁斗は、まず片山に礼を述べて、奏人とのトークルームを開いた。そこに並ぶ、半ばいたずらで送り合った写真に、苦笑を禁じ得なかった。
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