上 下
268 / 386
同窓会に行こう!

11月12日 14:40⑤

しおりを挟む
 蓉子が、何かを悟ったように微笑した。

「先走ってるし図々しい話なんだけど、私は晴夏ちゃんの友人としてお式に出席するのは全然構わないと思ってるから、桂山家の都合に任せるわ」

 泉が朗らかに笑う。

「これは桂山も悩ましいな」
「俺は別にいいよ、妹に任せるし、父と母もたぶん反対しないと思う」

 おかしな話だが、本気で暁斗はそう思った。もし父と母が蓉子と顔を合わせても、久しぶりだねと穏やかに言葉を交わすことだろう。子がいなかったために、親権を巡って蓉子と憎み合い、揉めた訳でもなかったし、暁斗が新たにパートナーとして選んだのが男であるという事実は、蓉子と奏人の位置づけは何か別物だという奇妙な認識を、桂山家の人々に与えていた。
 晴夏が奏人を敵視したのは、兄を「同性が好きな変態」にして自分から遠い存在にしたと考えたからである。今も晴夏は5つ年下の義兄に多少反抗的な素振りを見せるが、それは暁斗が蓉子と結婚した時も、同じように蓉子に対してちらちら見せていたものだった。

「桂山が男に目覚めたことってたぶん、家族の価値観を何か、良くも悪くも捻じ曲げたんだろうなぁ」

 泉はレポートの発表の結論に入るような口調になった。小野が軽く反論する。

「悪く捻じ曲げたってことは無いと思いますよ、桂山さんのようなパターンは珍しいかもしれないですけど、お子さんが同性愛者だとわかって家族の在り方を考え直したって人、私の職場にもいます」
「私の価値観も変わったなぁ……もし夫婦である間に桂山さんが奏人さんと深い関係になってたとしたら、私たぶん慰謝料とか容赦しなかった、というかできなかったと思うんだよね」

 蓉子が低く言うと、場にうわぁ、という声が起こった。今だから半ば笑い話にできるけれど、暁斗とセックスレスになり気持ちまですれ違った日々は、蓉子にとっても辛かったのだと暁斗はあらためて思う。蓉子自身がもう終わったことだからいいのだと言っても、1人の人間の生涯に痕の消えない傷をつけたという事実は、一生背負わなくてはいけない十字架だと暁斗は考えた。……酒も醒めてきたので、もう口にはしなかったが。
 スマートフォンの振動に、暁斗はふと現実に戻った気がした。もうこの店に入ってから、そこそこの時間が経っている。
 LINEをくれたのは片山だった。彼と奏人と、奏人ほどではないが細身で、朗らかな笑顔が感じの良い短髪の男性が横並びで写る画像が添付されている。

「こんにちは。高崎が誤解を招く? ような写真を送ったようで、私が謝るのも変ですが申し訳ありません。高崎の右の男性につき合い、ホテルのブライダルフェアを楽しんでいます」

 蓉子の話した通りらしい。バリトン歌手の説明は続く。

「彼は高崎の同級生で、グリーの後輩です。来年の5月に挙式を予定しています。先ほど皆でタキシードの試着をさせてもらいました。私は遊びですが高崎は真剣です笑」

 暁斗がいろいろな意味でにやけてしまったからか、泉がどうした? と訊いてくる。

「いや、連れ合いが久々に会う友達と、やっぱりブライダルフェアで遊んでるって」
「写真来たのか、見せろ見せろ」

 泉が上半身を乗り出してくるので、暁斗は画面を彼のほうに向けた。友人は目を見開く。

「男も衣装の試着できるのか? 俺そんなのさせてもらえなかった……」

 泉の口調に、暁斗は笑ってしまった。

「何年前のことを嘆いてるんだよ、まあ確かに俺も……木村さんとの時は、あまり選択の余地無かったけど」
「花嫁ファーストだった結婚式も、変わってきてるのかもなぁ」

 奏人は上品なキャメルブラウンのジャケットとパンツを身につけていた。片山の言うように、真剣に選んでいたということは、これを着て式をしたいと考えているのだろうか。
 泉は少し声を落として、真剣に言う。

「何か話聞いてたら、桂山の連れ合いはやっぱ若いし、乙女なとこもあるんじゃないか?」
「うーん、儀式とか手続きを経ることにちょっとこだわってはいるかも……基本俺よりドライなんだけど」
「早くパートナーシップ制度使って、式と披露宴してやれよ……ドライなのに写真でアピってくるとか、可愛いじゃないか」

 言いながら泉は、何故か恍惚混じりの笑いを浮かべ、上半身を捩らせた。そういえば彼が昔からツンデレタイプが好きだったと思い出した暁斗は、別にツンデレではない奏人を勝手に妄想のネタにしている友人に苦笑する。

「やめろ、俺の連れ合いに興奮するな」
「いやぁ、結婚式呼んでくれ」

 泉は言うが、祝い金を取るのも2回目となると心苦しい。そうか、式を身内だけでやって、宴会は会費制にしたらいいのか。暁斗は何となく閃いた。
 役所に行ったり式を挙げたりといった話を、奏人ときちんと膝を突き合わせてしたくなってきた。仕事が混んできて後回しにしてしまうのは、蓉子との時もそうだったので、よくないという自覚はある。
 スマートフォンを取り上げた暁斗は、まず片山に礼を述べて、奏人とのトークルームを開いた。そこに並ぶ、半ばいたずらで送り合った写真に、苦笑を禁じ得なかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

姉上が学園でのダンスパーティーの席で将来この国を担う方々をボロクソに言っています

下菊みこと
恋愛
微ざまぁ有り。 小説家になろう様でも投稿しています。

隠していない隠し部屋

jun
恋愛
真夏の深夜、庭に突然シルビオとキャルティは現れた。 そして別れを惜しむように激しいキスをする二人は、密着したまま歩いて行った・・・。 バルコニーからその二人を見ていた私。 浮気現場の目撃者も私。 そして、突然現れた二人。 絆されて結婚したエルザと、土下座して結婚してもらった夫のシルビオ。二人の結末は離婚か継続か。 そして隠し部屋は何処に⁉︎ *R15は一応保険として。 *2024・2・23 思いの外長くなってしまったので長編に変更しました。 *2024・2・23 本編完結。番外編執筆中。

全部未遂に終わって、王太子殿下がけちょんけちょんに叱られていますわ。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に仕立て上げられそうだった女性が、目の前でけちょんけちょんに叱られる婚約者を見つめているだけのお話です。 国王陛下は主人公の婚約者である実の息子をけちょんけちょんに叱ります。主人公の婚約者は相応の対応をされます。 小説家になろう様でも投稿しています。

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

婚約破棄されまして(笑)

竹本 芳生
恋愛
1・2・3巻店頭に無くても書店取り寄せ可能です! (∩´∀`∩) コミカライズ1巻も買って下さると嬉しいです! (∩´∀`∩) イラストレーターさん、漫画家さん、担当さん、ありがとうございます! ご令嬢が婚約破棄される話。 そして破棄されてからの話。 ふんわり設定で見切り発車!書き始めて数行でキャラが勝手に動き出して止まらない。作者と言う名の字書きが書く、どこに向かってるんだ?とキャラに問えば愛の物語と言われ恋愛カテゴリーに居続ける。そんなお話。 飯テロとカワイコちゃん達だらけでたまに恋愛モードが降ってくる。 そんなワチャワチャしたお話し。な筈!

完結・私と王太子の婚約を知った元婚約者が王太子との婚約発表前日にやって来て『俺の気を引きたいのは分かるがやりすぎだ!』と復縁を迫ってきた

まほりろ
恋愛
元婚約者は男爵令嬢のフリーダ・ザックスと浮気をしていた。 その上、 「お前がフリーダをいじめているのは分かっている! お前が俺に惚れているのは分かるが、いくら俺に相手にされないからといって、か弱いフリーダをいじめるなんて最低だ! お前のような非道な女との婚約は破棄する!」 私に冤罪をかけ、私との婚約を破棄すると言ってきた。 両家での話し合いの結果、「婚約破棄」ではなく双方合意のもとでの「婚約解消」という形になった。 それから半年後、私は幼馴染の王太子と再会し恋に落ちた。 私と王太子の婚約を世間に公表する前日、元婚約者が我が家に押しかけて来て、 「俺の気を引きたいのは分かるがこれはやりすぎだ!」 「俺は充分嫉妬したぞ。もういいだろう? 愛人ではなく正妻にしてやるから俺のところに戻ってこい!」 と言って復縁を迫ってきた。 この身の程をわきまえない勘違いナルシストを、どうやって黙らせようかしら? ※ざまぁ有り ※ハッピーエンド ※他サイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 小説家になろうで、日間総合3位になった作品です。 小説家になろう版のタイトルとは、少し違います。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺

toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染) ※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。 pixivでも同タイトルで投稿しています。 https://www.pixiv.net/users/3179376 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/98346398

王妃だって有休が欲しい!~夫の浮気が発覚したので休暇申請させていただきます~

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
【書籍発売記念!】 1/7の書籍化デビューを記念いたしまして、新作を投稿いたします。 全9話 完結まで一挙公開! 「――そう、夫は浮気をしていたのね」 マーガレットは夫に長年尽くし、国を発展させてきた真の功労者だった。 その報いがまさかの“夫の浮気疑惑”ですって!?貞淑な王妃として我慢を重ねてきた彼女も、今回ばかりはブチ切れた。 ――愛されたかったけど、無理なら距離を置きましょう。 「わたくし、実家に帰らせていただきます」 何事かと驚く夫を尻目に、マーガレットは侍女のエメルダだけを連れて王城を出た。 だが目指すは実家ではなく、温泉地で有名な田舎町だった。 慰安旅行を楽しむマーガレットたちだったが、彼女らに忍び寄る影が現れて――。 1/6中に完結まで公開予定です。 小説家になろう様でも投稿済み。 表紙はノーコピーライトガール様より

処理中です...