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同窓会に行こう!
11月12日 12:30②
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「片山先輩はドイツに3年いたからナイフとフォーク使い慣れてるんですよね、高崎も外国行ったりしてたのか? 俺ほんとこれ苦手で」
そう言う岡島はようやくにんじんのジュレを口に入れ、満足を顔に表した。
片山は後輩を微笑ましく見つめる。
「おまえみたいなゲストもいるだろうから、お箸も出して貰えばいいんじゃないか? 高崎はアメリカに留学したんだよな」
奏人ははい、と答えたが、片山に留学の話をした覚えは無く、暁斗経由の情報だと察する。
「感染症のせいで帰れなくなったから、1回目と2回目合わせて4年半ですかね」
すごっ! と岡島が目を丸くした。
「英語ペラペラ?」
「まあ一応……片山先輩のドイツ語のほうが凄いと思うんだけど」
鮭のテリーヌをつついていた片山は、奏人に話を振られて、うん? と言った。
「話さなくちゃいけない環境に置かれたら、人間何語でも話せるようになるよ」
ごもっとも、である。ドイツでは英語も使うので、片山は英語も話せるようになっているだろう。1回目の留学中に奏人が交際していたドイツ人の男性も、英語が上手だったことが、懐かしく思い出される。
奏人はふと、高2の夏から今の今まで、空白になっているであろう自分の歴史を、この2人にどこまで話したらいいのかわからない自分に気づく。大学3回生の頃から学費のためにゲイ専デリヘルでアルバイトをして、社会人になってからも結構な稼ぎを得ていた話は、しない。それは決めていた。
「新婚旅行にオーストラリアに行きたいって相手が言っててさ、彼女はちょっと英語できるけど俺は全くダメだから、成田離婚とかならないか不安なんだよ」
岡島が本気で心配そうだったので、奏人は笑いを堪えながら答えた。
「それって英語が話せないこと自体が問題なんじゃないよ、例えば普段偉そうにしてるのに旅行先では彼女の後ろに隠れてるとか、自分でできることまで言葉を理由にやろうとしないとかが、見限られる原因になるんじゃない?」
片山も、そうそう、と同意した。
「普段から岡島が彼女に従う立場なら、何てことないのでは?」
「片山先輩、何かその言い方嫌なんですけど」
岡島は唇を尖らせて不満を表明する。
「俺のほうが先輩だから、従ってはいないです」
「ああ、じゃあオーストラリアで頑張らないとなぁ」
奏人は楽しかったが、同時におかしな気分でもあった。例えば、大学の美術部の同期は12人で、ほとんどが関東圏に今も暮らしているが、卒業してからは、数人の結婚式に参列した時くらいにしか顔を合わせていない。4年間の学生生活を一緒に過ごしているのに、淡い関係だ。それに対して、札幌北星高校のこの2人は、岡島は1年半、片山に至っては5ヶ月ほどのつき合いしかなかった。にもかかわらず、今こうして同じテーブルで食事をしていると、随分彼らと長くつき合っていて、親しくしているような気がする。
もちろん、今目の前にいる2人との関係は、暁斗とのそれとは違う。ただ、これまで「学生時代の友達」と密に連絡を取ってこなかった奏人にとって、彼らは何か「特別」になりつつある。この気持ちの動きは何だろうと、奏人は自分の脳内に詰まっている哲学の知識をひっくり返してみたが、しっくりとくる説明がどうしても見つからなかった。
そう言う岡島はようやくにんじんのジュレを口に入れ、満足を顔に表した。
片山は後輩を微笑ましく見つめる。
「おまえみたいなゲストもいるだろうから、お箸も出して貰えばいいんじゃないか? 高崎はアメリカに留学したんだよな」
奏人ははい、と答えたが、片山に留学の話をした覚えは無く、暁斗経由の情報だと察する。
「感染症のせいで帰れなくなったから、1回目と2回目合わせて4年半ですかね」
すごっ! と岡島が目を丸くした。
「英語ペラペラ?」
「まあ一応……片山先輩のドイツ語のほうが凄いと思うんだけど」
鮭のテリーヌをつついていた片山は、奏人に話を振られて、うん? と言った。
「話さなくちゃいけない環境に置かれたら、人間何語でも話せるようになるよ」
ごもっとも、である。ドイツでは英語も使うので、片山は英語も話せるようになっているだろう。1回目の留学中に奏人が交際していたドイツ人の男性も、英語が上手だったことが、懐かしく思い出される。
奏人はふと、高2の夏から今の今まで、空白になっているであろう自分の歴史を、この2人にどこまで話したらいいのかわからない自分に気づく。大学3回生の頃から学費のためにゲイ専デリヘルでアルバイトをして、社会人になってからも結構な稼ぎを得ていた話は、しない。それは決めていた。
「新婚旅行にオーストラリアに行きたいって相手が言っててさ、彼女はちょっと英語できるけど俺は全くダメだから、成田離婚とかならないか不安なんだよ」
岡島が本気で心配そうだったので、奏人は笑いを堪えながら答えた。
「それって英語が話せないこと自体が問題なんじゃないよ、例えば普段偉そうにしてるのに旅行先では彼女の後ろに隠れてるとか、自分でできることまで言葉を理由にやろうとしないとかが、見限られる原因になるんじゃない?」
片山も、そうそう、と同意した。
「普段から岡島が彼女に従う立場なら、何てことないのでは?」
「片山先輩、何かその言い方嫌なんですけど」
岡島は唇を尖らせて不満を表明する。
「俺のほうが先輩だから、従ってはいないです」
「ああ、じゃあオーストラリアで頑張らないとなぁ」
奏人は楽しかったが、同時におかしな気分でもあった。例えば、大学の美術部の同期は12人で、ほとんどが関東圏に今も暮らしているが、卒業してからは、数人の結婚式に参列した時くらいにしか顔を合わせていない。4年間の学生生活を一緒に過ごしているのに、淡い関係だ。それに対して、札幌北星高校のこの2人は、岡島は1年半、片山に至っては5ヶ月ほどのつき合いしかなかった。にもかかわらず、今こうして同じテーブルで食事をしていると、随分彼らと長くつき合っていて、親しくしているような気がする。
もちろん、今目の前にいる2人との関係は、暁斗とのそれとは違う。ただ、これまで「学生時代の友達」と密に連絡を取ってこなかった奏人にとって、彼らは何か「特別」になりつつある。この気持ちの動きは何だろうと、奏人は自分の脳内に詰まっている哲学の知識をひっくり返してみたが、しっくりとくる説明がどうしても見つからなかった。
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