上 下
257 / 386
同窓会に行こう!

11月12日 12:30②

しおりを挟む
「片山先輩はドイツに3年いたからナイフとフォーク使い慣れてるんですよね、高崎も外国行ったりしてたのか? 俺ほんとこれ苦手で」

 そう言う岡島はようやくにんじんのジュレを口に入れ、満足を顔に表した。
 片山は後輩を微笑ましく見つめる。

「おまえみたいなゲストもいるだろうから、お箸も出して貰えばいいんじゃないか? 高崎はアメリカに留学したんだよな」

 奏人ははい、と答えたが、片山に留学の話をした覚えは無く、暁斗経由の情報だと察する。

「感染症のせいで帰れなくなったから、1回目と2回目合わせて4年半ですかね」

 すごっ! と岡島が目を丸くした。

「英語ペラペラ?」
「まあ一応……片山先輩のドイツ語のほうが凄いと思うんだけど」

 鮭のテリーヌをつついていた片山は、奏人に話を振られて、うん? と言った。

「話さなくちゃいけない環境に置かれたら、人間何語でも話せるようになるよ」

 ごもっとも、である。ドイツでは英語も使うので、片山は英語も話せるようになっているだろう。1回目の留学中に奏人が交際していたドイツ人の男性も、英語が上手だったことが、懐かしく思い出される。
 奏人はふと、高2の夏から今の今まで、空白になっているであろう自分の歴史を、この2人にどこまで話したらいいのかわからない自分に気づく。大学3回生の頃から学費のためにゲイ専デリヘルでアルバイトをして、社会人になってからも結構な稼ぎを得ていた話は、しない。それは決めていた。

「新婚旅行にオーストラリアに行きたいって相手が言っててさ、彼女はちょっと英語できるけど俺は全くダメだから、成田離婚とかならないか不安なんだよ」

 岡島が本気で心配そうだったので、奏人は笑いを堪えながら答えた。

「それって英語が話せないこと自体が問題なんじゃないよ、例えば普段偉そうにしてるのに旅行先では彼女の後ろに隠れてるとか、自分でできることまで言葉を理由にやろうとしないとかが、見限られる原因になるんじゃない?」

 片山も、そうそう、と同意した。

「普段から岡島が彼女に従う立場なら、何てことないのでは?」
「片山先輩、何かその言い方嫌なんですけど」

 岡島は唇を尖らせて不満を表明する。

「俺のほうが先輩だから、従ってはいないです」
「ああ、じゃあオーストラリアで頑張らないとなぁ」

 奏人は楽しかったが、同時におかしな気分でもあった。例えば、大学の美術部の同期は12人で、ほとんどが関東圏に今も暮らしているが、卒業してからは、数人の結婚式に参列した時くらいにしか顔を合わせていない。4年間の学生生活を一緒に過ごしているのに、淡い関係だ。それに対して、札幌北星高校のこの2人は、岡島は1年半、片山に至っては5ヶ月ほどのつき合いしかなかった。にもかかわらず、今こうして同じテーブルで食事をしていると、随分彼らと長くつき合っていて、親しくしているような気がする。
 もちろん、今目の前にいる2人との関係は、暁斗とのそれとは違う。ただ、これまで「学生時代の友達」と密に連絡を取ってこなかった奏人にとって、彼らは何か「特別」になりつつある。この気持ちの動きは何だろうと、奏人は自分の脳内に詰まっている哲学の知識をひっくり返してみたが、しっくりとくる説明がどうしても見つからなかった。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

専業種夫

カタナカナタ
BL
精力旺盛な彼氏の性処理を完璧にこなす「専業種夫」。彼の徹底された性行為のおかげで、彼氏は外ではハイクラスに働き、帰宅するとまた彼を激しく犯す。そんなゲイカップルの日々のルーティーンを描く。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...