今宵貴方と見る月は ～あきとかなnext 〜 《あきとかな後日談集》

痛みも悲しみも分かち合えるなら

６月18日 9：30

　暁斗は、穏やかな休日の朝を迎えていた。何時に起きなくてはならないという縛りも無く、隣で奏人がすうすうと寝息を立てている。その安らかな寝顔を見ながら、幸福を感じるのが暁斗の常で、パートナーを起こさないようにそっと前髪に触れてみる。黒くて柔らかい髪はつやつやして、子どものそれのようだ。暁斗は奏人の髪に触るのが好きで、子どもの頃からあまり頭や髪を撫でてもらったことがないらしい奏人は、暁斗に触れられるのが好きだと言う。
　2人で一緒にいる時に誰かと会うようなことがあると、仲が良くてお似合いだけれど、2人の共通項や接点がよくわからないと言われる。確かにそうで、生まれも育ちも今の仕事も全く違う、10も年齢が離れた男同士が、よくも2LDKで楽しく暮らしているなと、暁斗自身が感じる。共通項なんて、あるかどうか甚だ怪しい。ただ、こうして何でもない時間を一緒に過ごす時に、髪に触れたり触れられたりするのが好きだとか、シーツが洗いたての時にいちゃいちゃする場合は暁斗が下だとか、互いが心地良い選択がより多く、自然にできる関係ではある、と思う。
　暁斗はひとつあくびをした。天気は悪くなさそうなので、洗濯をしよう。夜が遅くなりそうだけど、まあ仕方ないか。そんなことを考えていると、こちらを向いて寝ている奏人が右手をぴくっと動かした。暁斗はその温かい手を自分の左手でそっと包み、ここにいると彼に伝えてやる。たまに奏人は目覚めた時、視界に入る場所に暁斗がいないと、半ば寝ぼけてきょろきょろするのである。

「あ……暁斗さんおはよう、お誕生日おめでとう」

　奏人は重そうな瞼を持ち上げながら言った。昨夜ベッドに入ったのは12時過ぎていたので、同じ言葉を寝る前に聞いた。暁斗は笑いながら、ありがと、と応じる。
　あと30年くらいは、こんな誕生日の朝を迎えられるだろうか。暁斗は１人でふっと笑う。手を握られた奏人はまた、長い睫毛をシャッターのように下ろしてしまった。