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教えて! 高崎先生

4月下旬 GW前⑤

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 高崎講師が18時くらいにちらっと訪れるという話に、文芸部の面々は活動場所である教室内でそわそわしていた。深雪はそんな中で、先輩方に教えられながらプロットなるものをつくってみようとシャーペン片手に苦闘している。雨の中であきとさんがこちらを見上げる絵を使おうと、ほぼ気持ちを固めていた。しかし今まで書いてきたものが、中二病臭のするなんちゃってファンタジーであったり、好きな漫画家の作風を意識してみた(つもりの)高校生の恋愛ものであったりしたので、大人の男性をどう動かせばいいのかよくわからない。
 公美子も、あきとさんの絵を選んでいた。彼女は休日にソファの上で溶けているあきとさんを素材に、ボーイズラブを書くようである。元々BL漫画や小説が好きな公美子は、モデルも同性愛者なので妄想が捗ると言ってはりきっているが、奥村から過激なラブシーンを挿入しないよう釘を刺されていた。

「高崎先生の絵を使うつもりで、どの絵かもう決めた人は、できたら今日先生の許可を得てください……どれ使ってもいいって言うてはったって重野先生から聞いてるけど、まあそこはこっちからもちゃんと報告しましょ」

 部長の大塚が言うと、泉谷が挙手した。

「誰かと被らないほうがいいですか?」

 上級生たちがざわめく。

「うーん、先生も読み手もそこは気にせえへんと思うけど、被った人同士は嫌かな」
「もし被ったら、その人らで相談したらええんちゃいます? そのままいくかどっちかが変えるか」
「せっかく選んでるし、プロット作り始めてから変えるって、忙しい4回生とデビューの1回生には酷じゃない? 先生来はったら、絵が決まってる人は全体公開して調整して……」

 その時、教室の引き戸が軽い音を立てて開いた。皆が一斉にそちらを振り返り、待ち人の姿をそこに認めた。部長の大塚がすかさず高崎を出迎えた。

「先生、お忙しいのにどうもありがとうございます……あ、1回生と2回生、下の自販機で飲み物調達してきてくれるかな、先生何がいいですか?」

 いきなりの喫茶攻撃に、高崎は何でもいいですよ、と条件反射のように答えたが、立ち上がった深雪たちに向かって、つけ足した。

「あればホットのほうがいいです、ごめんなさい」
「了解しました、まだあると思います」

 文芸部はれっきとした文化系クラブなので、大学から活動補助金が出て、部員から少々部費も集めているが、本を出す時以外はほぼ金を使わない。だから全体ミーティング等で飲み物が出る場合は、部費を使う。下級生が買い出しに出るのは、他のクラブと変わらない。
 文学部棟の西入口の傍には自動販売機が3台並んでおり、大概の飲み物が手に入る。生協の購買部もまだ開いているが、移動が面倒なのでここで買い物を済ませるのだ。
 部員たちの嗜好を大体把握している2回生たちがどんどんボタンを押し、出てくる缶やペットボトルを深雪たちが集める。今日は全員出席しているので、割に手間のかかるおつかいになった。
 教室に戻ると、教室の机が高崎を取り囲んでのミーティング体勢に変えられており、早速2人の4回生が彼と何か話していた。1回生3人は買い物を運び、高崎と4回生から順に、飲み物を選んでもらう。自分が一番に選ばないと先が進まないことをよく心得ている高崎は、礼を言いながらホットコーヒーを取った。
 高崎は金曜日の午前中に大和女子大学にやってくるが、学食で学生に紛れて昼食を取っているのを見た学生はいないようだ。教職員専用スペースか、講師の控室で休憩時間を過ごしているのだろう。だから高崎がマスクを外した時、その場にいた学生の好奇の視線が集中するのは仕方ないのだが、それ以上に彼の容貌には、人の目を引かずにはいない魅力があった。
 深雪も、こんなに綺麗に造形されたアジア人の顔を見たことがなかった。マスクの上に見えている部分だけで、高崎の美貌は十分に伝わっていたが、初めて晒された鼻から下が、その美のバランスを損なうことは全く無かった。鼻筋がすっと通り、絶妙な位置に良い形の唇が収まっている。白い頬や顎も女性顔負けの美しさで、髭が生えることなど想像できない。

「あ、私が飲み始めないとみんな開けられないやつですか? 結構古風なんですね」

 高崎の手元で、コーヒーのタブが高い音を立てる。そうではなく、皆彼の顔を見て呆然としていただけである。彼は律儀に、いただきます、と言った。
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