上 下
127 / 386
秋の夜、貴方をこの腕に

2-④*

しおりを挟む
「ああっ、いっちゃいそう……っ」

 奏人は眉の間にきゅっと皺を寄せた。すると暁斗もきゅうっと締めつけられて、背骨に大量の電気が流れ、思わず声を上げてしまう。

「あ、奏人さんっ、そんなに締めな……ひゃっ!」

 身体が勝手に震えて、頭の中が白い靄でいっぱいになった。これはひどい、いく瞬間も自分でわからなかった。暁斗は恥じ入りつつも、放出しながら腰を動かす……いや、勝手に動いて奏人を攻めていた。

「あっ……だめっ、あ、ああっ!」

 奏人もひとつ長く叫び、熱い液体を勢いよく吐き出した。暁斗はそれを浴び、彼が昇りつめたことを知る。暁斗の腰を挟んでいる華奢な脚が、びくびく震えた。
 暁斗はゆっくりと奏人の中から出て、コンドームを外した。そして、肌を熱くして呼吸を乱す奏人をゆっくりと抱きしめる。彼が愛おしいという気持ちしかない。どうしてこんなに、大切だと感じるのだろう。

「暁斗さん……汚れるよ……」

 奏人は小さく言ったが、構わなかった。何も言わずに細い身体を包み込み、彼の肌の温度と感触を楽しむ。
 暁斗は自分の心の動きに驚いていた。女を抱いた時には、ほとんどこんな気持ちにならなかったからである。躊躇ためらいもなく、自分を身体の奥深くに受け入れ包んでくれるひと。彼は自分のもので、自分は彼のもの。そう心から思えることが、何にも代え難い。
 しばらく静かに抱き合って、荒れ狂ったものが凪ぎ始めると、暁斗は奏人の耳許で言った。

「タオルあっためて身体拭くよ……今日は俺にやらせて」

 奏人は頬に軽くキスして、返事をくれた。最近ずっと奏人に後始末を任せてばかりだった(彼がやたらと手際がいいからでもあるが)ので、今夜は自分がしたいと暁斗は思う。
 暁斗を綺麗好きと見做している奏人が、申し訳なさそうに言う。

「ちょっとシーツ汚したかな」
「気にしないで、明日天気いいみたいだから洗うよ」

 奏人がいつもそうするように、暁斗は素っ裸のまま寝室を出て、久しぶりに温かい濡れタオルを電子レンジで3枚作った。暑い間はボディシートを使っていたが、今夜はそれでは少し寒い。
 タオルが冷めてしまわないように、急いで寝室に戻ると、やはり素っ裸で横たわる奏人が笑いながら迎えてくれた。

「小走りで来なくても」
「だってすぐに冷めそうだから」

 暁斗はタオルを広げて、白濁した液体で濡れた奏人の薄い腹をきれいに拭いてやる。彼も暁斗の汚れたところを優しくぬぐってくれる。暁斗はこういう、男同士ならではのスキンシップのひとときも大好きだ。

「ああ何だか、暁斗さんとどっちもできるなんて幸せ……」

 奏人はタオルを握ったまま、抱きついてきた。暁斗は彼のこめかみに、唇を押しつける。

「うん、どっちもいいな、挿れなくても俺は楽しいけど」
「元ノンケの暁斗さんにそう言って貰えると、教育する甲斐があるよね」

 暁斗はちょっと笑って、奏人の額にひとつ口づけした。身体を離した奏人が見つめてくるので、唇にもキスをする。確かに数年前まで、こんな風に男にキスするようになるなんて思いもしなかった。
 奏人と触れ合うのが好きだ。彼はセックスに倦んで離婚した暁斗に、裸で抱き合うことの素晴らしさを教えてくれた。彼が生物学的におすであるのは、単なる偶然でしかないと思う。
 奏人は寝間着の上だけかぶって、トイレに行った。後ろを洗うためだとは言え、下半身裸のまま寝室を出て行く開けっぴろげな態度も、一緒に暮らし始めて自分に慣れてくれたからこそ出てきたものだ。
 暁斗は一人で微笑しながら、自分も服を身につけて、タオルを洗濯かごに持って行った。ベッドに戻れば、また奏人をしっかり腕に抱いて眠る。秋はやはり、お互いの温もりが殊に幸福感をもたらしてくれる季節だと暁斗は思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

専業種夫

カタナカナタ
BL
精力旺盛な彼氏の性処理を完璧にこなす「専業種夫」。彼の徹底された性行為のおかげで、彼氏は外ではハイクラスに働き、帰宅するとまた彼を激しく犯す。そんなゲイカップルの日々のルーティーンを描く。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...