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お節介な男たちの盆休み
16:00②
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大河は母子がこれからどこのシェルターに行くのかは教えられないと、暁斗たちに話した。もし父親が保護した母子を探し回った場合、母子の居場所がバレるリスクを、極力小さくしておく必要があるからだ。
「大河さん、少なくともあんなちゃんは父親から暴力を振るわれていません、自分はパパが好きなのにと話してくれました」
母親が身分確認のために、大河の持参した書類に記入している間に、暁斗は大河に小さく伝える。彼女はなるほど、と呟いた。
「桂山さんもご心配かと思いますから、経過報告はしますね」
母親の名は木崎優美、娘二人は杏菜と麻理亜といった。優美は28歳で専業主婦、杏菜と麻理亜はそれぞれ4歳半と11か月。手助けが無いと、今すぐ母子3人で生きていくのは困難かもしれない。
暁斗は優美から乞われて、自分と奏人の名刺を渡した。杏菜が私も、とねだるので、彼女にも手渡してやる。
「お母さん」
奏人は名刺を眺めていた優美に話しかけた。杏菜が自分たちの名刺に何が書いてあるのかを訊いてくるので、暁斗は彼女に対応する。
「杏菜ちゃんは、自分が父親と似ているからお母さんに嫌われていると言いました」
暁斗は奏人の言葉に驚いて、思わず彼のTシャツの裾を引っぱった。彼は暁斗と杏菜をちらりと見たが、続ける。
「事実でないなら、誤解を解いてあげてください」
優美ははっとした顔になり、すぐに悲し気に目を伏せて、はい、と答えた。その様子を見て暁斗は、100パーセント誤解ではないようだと感じた。杏菜は話が良く聞こえていなかったらしく、奏人と優美の顔を見比べている。暁斗はどうして奏人が、杏菜の話したことにこだわるのかが気になった。
少女置き去り未遂事件は、一応の解決をみたようだった。暁斗と奏人は、大河と母子を見送るため、一度建物から出た。外は蒸し暑く、いきなり現実に引き戻された気がした。
「桂山さん、ありがとうございました……まさか噂のパートナーさんのお顔まで見ることができると思わなかったから、ここまで来てよかったわぁ」
大河の軽口に苦笑しながら、暁斗もこちらこそいきなりすみません、と彼女に言った。
良く寝ている赤ん坊を抱く優美が再度、ご迷惑をおかけしましたと言って頭を下げるので、暁斗はいいえ、と返す。杏菜が大河に促されて、車の後部座席に乗りこもうとしていた。
「ねえ、あきとおじちゃんとかなとおにいちゃんは、来てくれないの?」
「今日はバイバイするけど、杏菜ちゃんが会いたいなら、2人ともきっと会いに来てくれるわよ」
大河は笑いを堪えていた。あきとおじちゃんが可笑しかったらしい。
「あきとおじちゃんとかなとおにいちゃんはね、仲良しなの」
「うふふ、おばちゃんも噂は聞いてたけど、ほんとに仲良しねぇ」
優美が2人の会話にきょとんとしたので、暁斗は苦笑しながら説明する。
「私たちゲイなんです、杏菜ちゃんには何か伝わったみたいですね……彼女は賢い」
「それに色彩に対する感覚が人より鋭いかもしれません、遊んでいて思いました」
奏人がつけ足すように言う。優美はまあ、と小さく言った。
「杏菜ちゃんはしっかりしてるけれどまだまだ親の愛情や庇護が必要だと思います、きついこともあると思いますが、誰かに頼りながらゆっくり進んでください」
暁斗が言うと、優美はまた涙ぐんだ。すっかり気が弱っているのだろう、2人の子を持つ母親とは思えない風情だった。杏菜は父親が好きだと話したが、優美にとってはもはや、夫の存在がストレスでしかないのかもしれなかった。
母子を後部座席に乗せると、大河の白い車はのんびりと動き出し、何事もなかったように駐車場から出て行った。杏菜がこちらを振り返り、ずっと手を振っているのが可愛らしくて、幸せに暮らしてほしいと暁斗は心から願った。
「大河さん、少なくともあんなちゃんは父親から暴力を振るわれていません、自分はパパが好きなのにと話してくれました」
母親が身分確認のために、大河の持参した書類に記入している間に、暁斗は大河に小さく伝える。彼女はなるほど、と呟いた。
「桂山さんもご心配かと思いますから、経過報告はしますね」
母親の名は木崎優美、娘二人は杏菜と麻理亜といった。優美は28歳で専業主婦、杏菜と麻理亜はそれぞれ4歳半と11か月。手助けが無いと、今すぐ母子3人で生きていくのは困難かもしれない。
暁斗は優美から乞われて、自分と奏人の名刺を渡した。杏菜が私も、とねだるので、彼女にも手渡してやる。
「お母さん」
奏人は名刺を眺めていた優美に話しかけた。杏菜が自分たちの名刺に何が書いてあるのかを訊いてくるので、暁斗は彼女に対応する。
「杏菜ちゃんは、自分が父親と似ているからお母さんに嫌われていると言いました」
暁斗は奏人の言葉に驚いて、思わず彼のTシャツの裾を引っぱった。彼は暁斗と杏菜をちらりと見たが、続ける。
「事実でないなら、誤解を解いてあげてください」
優美ははっとした顔になり、すぐに悲し気に目を伏せて、はい、と答えた。その様子を見て暁斗は、100パーセント誤解ではないようだと感じた。杏菜は話が良く聞こえていなかったらしく、奏人と優美の顔を見比べている。暁斗はどうして奏人が、杏菜の話したことにこだわるのかが気になった。
少女置き去り未遂事件は、一応の解決をみたようだった。暁斗と奏人は、大河と母子を見送るため、一度建物から出た。外は蒸し暑く、いきなり現実に引き戻された気がした。
「桂山さん、ありがとうございました……まさか噂のパートナーさんのお顔まで見ることができると思わなかったから、ここまで来てよかったわぁ」
大河の軽口に苦笑しながら、暁斗もこちらこそいきなりすみません、と彼女に言った。
良く寝ている赤ん坊を抱く優美が再度、ご迷惑をおかけしましたと言って頭を下げるので、暁斗はいいえ、と返す。杏菜が大河に促されて、車の後部座席に乗りこもうとしていた。
「ねえ、あきとおじちゃんとかなとおにいちゃんは、来てくれないの?」
「今日はバイバイするけど、杏菜ちゃんが会いたいなら、2人ともきっと会いに来てくれるわよ」
大河は笑いを堪えていた。あきとおじちゃんが可笑しかったらしい。
「あきとおじちゃんとかなとおにいちゃんはね、仲良しなの」
「うふふ、おばちゃんも噂は聞いてたけど、ほんとに仲良しねぇ」
優美が2人の会話にきょとんとしたので、暁斗は苦笑しながら説明する。
「私たちゲイなんです、杏菜ちゃんには何か伝わったみたいですね……彼女は賢い」
「それに色彩に対する感覚が人より鋭いかもしれません、遊んでいて思いました」
奏人がつけ足すように言う。優美はまあ、と小さく言った。
「杏菜ちゃんはしっかりしてるけれどまだまだ親の愛情や庇護が必要だと思います、きついこともあると思いますが、誰かに頼りながらゆっくり進んでください」
暁斗が言うと、優美はまた涙ぐんだ。すっかり気が弱っているのだろう、2人の子を持つ母親とは思えない風情だった。杏菜は父親が好きだと話したが、優美にとってはもはや、夫の存在がストレスでしかないのかもしれなかった。
母子を後部座席に乗せると、大河の白い車はのんびりと動き出し、何事もなかったように駐車場から出て行った。杏菜がこちらを振り返り、ずっと手を振っているのが可愛らしくて、幸せに暮らしてほしいと暁斗は心から願った。
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