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お節介な男たちの盆休み

15:30④

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 暁斗は慎重に訊いた。奏人も僅かに眉根を寄せている。果たしてあんなはこっくりと頷いた。

「パパがママを叩くから」

 暁斗はどきりとする。これはほんとうに、根が深いかもしれない。

「……どうしてママが叩かれるのかな、ママが何か失敗とかするの?」
「わかんない……あんなとまりあが寝てからね、けんかしてる」
「それは嫌だね……」

 あんなは頷き、少しジュースをストローで吸った。

「あんなちゃんはパパに叩かれたり、嫌なことされたりしてない?」

 暁斗はより慎重に口を開く。相談室員としての経験から、ここが重要だと学んでいる。もしこの子が暴力を受けているようであれば、母親がこの子を迎えに来たとしても、簡単に渡す訳にはいかない場合がある。

「パパはあんなにそういうことしないよ、あんなはパパが好きなのに、ママはパパと一緒にいたくないって……」

 妻に対してのみの、夫の暴力。暁斗は自分の名刺ケースに入っている小さな紙片の中に、こういった問題に介入してくれそうな人物のものが数枚あることを考える。

「じゃあ今日はママは、あんなちゃんとまりあちゃんだけ連れてここに来たんだ」
「うん、昨日のお昼に来て、夜はアンパンマンを観ながら寝たの」

 暁斗は驚いて、思わず奏人の顔を見た。奏人も大きな目を、更に見開いていた。親子は家出してきているのだ。
 まずい、と思った。あんなが感じている以上に母親が追い詰められていたら、手持ちの金が尽きたら何をするかわからない。奏人はフロントに話すべく、立ち上がった。あんなが背筋を伸ばす。

「おにいちゃん、どこ行くの?」

 大人げないと思いつつ、奏人はおにいちゃんなのかと暁斗は密かに突っ込んだ。奏人はおしっこ行ってくる、とやたらと明るく言い、マスクをつけた。

「あんなちゃんは? おしっこ大丈夫?」
「うん、だいじょうぶ」

 奏人の背中を見送り、暁斗は鞄の中を探る。最近整理ができていなくて膨らんでいる名刺ケースを出した。社畜なので、休日も財布と定期入れとこれは、3点セットで持ち歩いている。しかし今日ほど、名刺入れがあって良かったと思ったときは無かった。

「おじちゃん、それ何?」
「これ? 名刺っていうんだ、お仕事で初めて会った人と交換するんだよ……真ん中に大きく書いてるのが相手の人の名前」

 暁斗は自分の名刺を出して、あんなに説明してやる。

「これは俺の名刺だから、桂山暁斗っていうのがおじちゃんの名前ね」
「かやまあきと」

 あんなが繰り返すのが可愛らしい。彼女は暁斗を見上げた。
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