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お節介な男たちの盆休み

14:20②

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「何か今こそビール飲みたい気分」

 奏人は黒い髪をドライヤーの風にふわふわ揺らしながら言った。暁斗も共感したので、提案してみる。

「自販機で買う? エレベーターのとこにあった」
「部屋でちょっとだけ飲もっか?」

 暁斗は頭頂の髪を乾かしながら頷く。休日に出先で、昼間から飲むというのも悪くない。普段2人は、平日はほとんど飲まない。週末の夜、たまにたしなむ程度である。
 エアコンの涼しい風を楽しみながら客室階に戻り、500mlの缶ビールを1本買う。備えつけのグラスを出し、半分ずつ注いだ。

「はい、かんぱーい」

 ベッドに座り、グラスを軽く当てて、2人して口をつけた。よく冷えた苦味のある炭酸が、身体に沁みた。美味しい、と思わず同時に声が出る。

「こういうの幸せだね」

 贅沢とは言えない自分との休日を、そんな風に言ってくれる奏人が愛おしい。

「何だかちょっと幸せ過ぎるような気がして怖い」

 関係を修復できないまま父親に急逝され、愛した人を外国で亡くした経験を持つ奏人は、たまにこうして臆病な一面を覗かせる。

「今まで奏人さんがいっぱい我慢したり頑張ったりしたからだよ、俺思うんだけど、たぶん幸せ過ぎる人も不幸過ぎる人も、そんなにいないんじゃないかなあ」

 慰めではなく、暁斗はそう思う。暁斗自身は自分が比較的恵まれた人生を送ってきたと思っているが、自分の性的指向を理解しないまま結婚し、人として大好きだった元妻を愛することができず、彼女をも苦しめた過去は、未だに癒えない傷である。
 グラスはあっという間に空になったが、十分満足した。暁斗がグラスをテレビの横に並べると、奏人が上目遣いでじっと見つめてくる。

「奏人さん、そんな顔してもしないから」

 暁斗が笑いそうになりながら言うと、奏人はぷっと頰を膨らませた。

「わかってるよ、お風呂でほぐしてもいないし、ローションもゴムも持って来てないし」
「大浴場、誰もいなかったから準備できたかもしれないね」

 解されるのは暁斗のほうである。ようやくこの間、それらしい形に持ち込めたが、お互いが気持ち良くなるには余裕が無さ過ぎた。これまでネコだった奏人が脱童貞したことが、とりあえずは大収穫だった。

「何それ……準備できてローションあったらしたの?」
「いいや、落ち着かないからこんなとこでしない」

 奏人はムカつく! と言って眉を吊り上げた。本気で怒っているのかと、暁斗は驚く。
 次の瞬間、奏人にのしかかられて、油断していた暁斗はころりと押し倒されてしまった。暁斗よりひと回り小さな奏人だが、見かけによらず力が強く、手足を押さえつけられた暁斗が抵抗できた試しがない。
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