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早春の言祝ぎ

16:00②

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「芙由美がやっと奥さんになったでぇ」
「よかったなあ、もう一生一人でいるつもりなんやと思てたわ」
「本人は一人で生きてくって言うてたけど、やっぱり1回くらい結婚しとかな」
 前列の3人組はハンカチで涙を拭いたりスマートフォンを構えたり、忙しそうだった。二人が誓約書にサインをして、もう一度全員が起立して讃美歌を歌う。そのまま新郎新婦は腕を組み、華やかな音楽と共に退場して行った。清水はちょっと緊張が解けたのか、新婦側の席に暁斗たちがいるのに気づき、目を丸くしていた。
 美しい新郎新婦の退場に、会場全体が感動の余韻の溜め息をついていると、牧師の挨拶のあとに続いて、ホテルマンの案内が始まる。
「これより隣のガーデンにおきまして、アフターセレモニーを執り行ないます」
 山中が何するの? と訊いてきたので、暁斗はフラワーシャワーでしょ? と答えた。
「俺たち若い頃ってそんなのあった?」
「あったと思いますけど俺はしませんでしたよ、そういう場所も無かったですから」
 何となく暁斗は奏人を気にしてしまう。蓉子との昔話など、あまり聞きたくないかと思ったからである。そうこういう間にこちらへどうぞと聖歌隊に促されて、ぞろぞろとチャペルの外に出て、来た時と反対側に誘導される。ドアの外は、芝生と小さな木立に囲まれた、上流階級の家の庭のような空間だった。花の季節になればもっと美しいのだろうが、上品で落ち着いたガーデンに、大平がはあぁ、とうっとりした溜め息をつく。
 新郎側と新婦側に分かれて並び、良い香りが仄かにする、色とりどりの薔薇の花びらを手渡された。聖歌隊の女性たちは楽譜の代わりに籠を持ち、おめでとうございますと言いながら一人ずつに花を配る。奏人は両手にこんもりと薔薇の花びらを載せて、嬉しそうにそこに鼻を近づけた。その様子が絵になるので、暁斗はついスマートフォンのシャッターボタンを押す。
「それでは新郎新婦が登場いたします、フラワーと拍手でお祝いください!」
 清水と芙由美が腕組みをして、笑顔で建物から出て来た。暁斗は奏人とおめでとう、と声を揃え、手の中の花を彼らの頭上に降らす。二人は笑顔で足を進め、最後はお互いの両親から祝福を受けていた。
「素敵だね、結婚式って自分たちも幸せになれていいね」
 奏人は新婦が介添人にヴェールを直してもらっているのを見ながら、言った。暁斗はそうだな、と頷く。おそらく今日出席している人々は、結婚式への出席自体が久しぶりなのではないかと思う。若い頃は同級生から次々に送られてくる招待状にやや辟易へきえきしたものだったが、この年齢になると、何かとてもありがたい場所に参加させてもらったような気分になる。
「未婚の女性の来賓の皆様、どうぞ前へお越しください」
 ホテルマンのアナウンスに、えーっ、という声が上がる。
「ブーケトスよね、私も参加したい……」
 大平が呟いた。山中がだめだろが、と突っ込み、奏人がくすっと笑う。意外なことに、集まった女性たちの中に、清水の部下も混じっている。
「あいつに結婚式に呼ぶ女の知人がいること自体が謎だ」
 山中は現場管理課の女性社員を見て言った。女性たちは一列に並び、芙由美のブーケから長く伸びたリボンを選んでいる。暁斗は奏人に訊く。
「あれどうするの?」
「ブーケプルだよ、引っ張って当たりの人が受け取れるの」
 女性たちは1本ずつリボンを持ち、新郎新婦から少し離れた。
「ではいきますよ、いち、にの、さんっ!」
 青いリボンがぴんと張り、芙由美を中心にして放射状の線を描き、一本を残してはらはらと芝生に落ちる。芙由美のもつブーケと繋がっていたリボンを握っていた女性が、きゃあっと喜びの声をあげる。彼女は奏人の同僚でもあった。
「あ、凄い嬉しそう」
「あれ楽しいわね、私も息子の結婚式で嫁ちゃんにやらせるわ」
「大平さん、そんな姑ってたぶん嫌がられますよ」
 奏人と大平の会話に、暁斗は笑う。ブーケを受け取った女性が芙由美と共に、向けられるカメラにポーズを取っていると、続いてアナウンスがあった。
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