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早春の言祝ぎ
15:50
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「お待たせいたしました、これより来賓の皆様をチャペルにご案内いたします」
式場の担当の男性が呼びかける。新郎側と新婦側の来賓が、それぞれ何となく列を作るが、新婦の友人である奏人と暁斗とは席が分かれるようである。大平がそれに気づいて、暁斗に小さく言う。
「別にきっちり分かれて座らなくてもいいのよ、かなちゃんのところに行ったら?」
「そうなんですか?」
「新婦さんのお客様のほうが少なそうだし……」
新婦の親族や学生時代の友人は、大阪から来ていると思われた。交通費の問題もあるし、そんなに沢山呼んでいないだろう。暁斗は頷いた。
「じゃああっちの席に行きます」
奏人も迷っていたのか、列から外れて暁斗のほうにやってきた。
「井上さん側のお席が空きそうなんだって、ご親族で体調を崩して来られなくなったかたがいるらしくて……暁斗さんこっちに来てあげて」
奏人が言うと、大平はあら、と美しく描いた眉を上げた。
「いっそ私と山中さんもあっちに行けばいいかしら」
「賑やかし? いいよ」
山中はあっさりと別の列の最後尾に向かう。そこにいた3人の女性が、自分たちを見て一斉に目を見開く。新婦の友人たちと思われ、皆髪をアップにして華やかに装っている。
「ちょ、芙由美の会社の人やろか?」
「そらあの子帰ってけぇへんわ、シュッとした人ばっかりやん」
「眼福やな、私も東京で働きたいわ~」
暁斗と奏人はこそこそと聞こえる関西弁の会話に、笑いを堪えた。関西弁マニアの奏人から「シュッとした人」の呼称を賜っている山中が、黙って自分を指さすのが、余計に笑いを誘う。
列が進みだし、明るいチャペルに入る。聖歌隊の女性たちから式次第を手渡され、左手の新婦側の席に進むと、西山があれっという表情をこちらに向けたが、事情を察したのか、暁斗に小さく手を振った。まったく上機嫌なおじさんと化している。
「素敵なチャペルね、清水くんセレクトじゃないわよねぇ」
大平はうっとりした表情でチャペルの中を見渡す。横幅が広く、窓に囲まれた明るい堂内は、荘厳ではないが親しみやすい。午後の柔らかい光が、列席者を暖かく包むようだ。
「わからないぞ、あいつあれで結構乙女なとこあるから」
山中は言いながら、大平をヴァージンロードに近いほうに座らせる。感染症対策のためか、詰めれば6人くらい座れそうな長椅子に、4人でゆったりと掛けるよう促された。
前に座る先ほどの3人組は、ちらちらと後ろを振り返る素振りを見せていたが、真ん中の女性が意を決したようにこちらに会釈をした。暁斗が奏人とほぼ同時に会釈を返すと、彼女は前を向いて、おっしゃと両隣の友人たちに言う。先ほどの隣人を思い出し、暁斗は苦笑する。彼女らの右に座っていた老人が、困ったようにこちらを向いた。
「すみません、いつまでも娘気分でいる子たちで……」
暁斗は急に言われて驚き、いえ、と返した。山中が小さく笑う。
3人組の右端の女性が、老人に小さく突っかかっている。
「先生っ、娘気分って何なんですか!」
「だってそうでしょう? みんな奥さんなのに結婚式で男性に浮つくとかやめなさい、もう……」
大平と山中が、堪えきれずに笑い声を立てたので、娘たちは一斉に身を縮めた。
「井上さんのゼミの人たちかも」
奏人が小さく言った。ゼミ友と担当教官を呼んだと話していたらしい。
「でも大阪からわざわざだよね、仲良しなんだ」
「本人はみんなの結婚式にお金を出し続けたんだから絶対来させるとか言ってたけど」
暁斗は思わず笑う。すると静かに流れていたオルガンの音が止み、間もなく開式の旨がアナウンスされた。話し声が収まり、大平が嬉し気にスマートフォンを取り出す。
式場の担当の男性が呼びかける。新郎側と新婦側の来賓が、それぞれ何となく列を作るが、新婦の友人である奏人と暁斗とは席が分かれるようである。大平がそれに気づいて、暁斗に小さく言う。
「別にきっちり分かれて座らなくてもいいのよ、かなちゃんのところに行ったら?」
「そうなんですか?」
「新婦さんのお客様のほうが少なそうだし……」
新婦の親族や学生時代の友人は、大阪から来ていると思われた。交通費の問題もあるし、そんなに沢山呼んでいないだろう。暁斗は頷いた。
「じゃああっちの席に行きます」
奏人も迷っていたのか、列から外れて暁斗のほうにやってきた。
「井上さん側のお席が空きそうなんだって、ご親族で体調を崩して来られなくなったかたがいるらしくて……暁斗さんこっちに来てあげて」
奏人が言うと、大平はあら、と美しく描いた眉を上げた。
「いっそ私と山中さんもあっちに行けばいいかしら」
「賑やかし? いいよ」
山中はあっさりと別の列の最後尾に向かう。そこにいた3人の女性が、自分たちを見て一斉に目を見開く。新婦の友人たちと思われ、皆髪をアップにして華やかに装っている。
「ちょ、芙由美の会社の人やろか?」
「そらあの子帰ってけぇへんわ、シュッとした人ばっかりやん」
「眼福やな、私も東京で働きたいわ~」
暁斗と奏人はこそこそと聞こえる関西弁の会話に、笑いを堪えた。関西弁マニアの奏人から「シュッとした人」の呼称を賜っている山中が、黙って自分を指さすのが、余計に笑いを誘う。
列が進みだし、明るいチャペルに入る。聖歌隊の女性たちから式次第を手渡され、左手の新婦側の席に進むと、西山があれっという表情をこちらに向けたが、事情を察したのか、暁斗に小さく手を振った。まったく上機嫌なおじさんと化している。
「素敵なチャペルね、清水くんセレクトじゃないわよねぇ」
大平はうっとりした表情でチャペルの中を見渡す。横幅が広く、窓に囲まれた明るい堂内は、荘厳ではないが親しみやすい。午後の柔らかい光が、列席者を暖かく包むようだ。
「わからないぞ、あいつあれで結構乙女なとこあるから」
山中は言いながら、大平をヴァージンロードに近いほうに座らせる。感染症対策のためか、詰めれば6人くらい座れそうな長椅子に、4人でゆったりと掛けるよう促された。
前に座る先ほどの3人組は、ちらちらと後ろを振り返る素振りを見せていたが、真ん中の女性が意を決したようにこちらに会釈をした。暁斗が奏人とほぼ同時に会釈を返すと、彼女は前を向いて、おっしゃと両隣の友人たちに言う。先ほどの隣人を思い出し、暁斗は苦笑する。彼女らの右に座っていた老人が、困ったようにこちらを向いた。
「すみません、いつまでも娘気分でいる子たちで……」
暁斗は急に言われて驚き、いえ、と返した。山中が小さく笑う。
3人組の右端の女性が、老人に小さく突っかかっている。
「先生っ、娘気分って何なんですか!」
「だってそうでしょう? みんな奥さんなのに結婚式で男性に浮つくとかやめなさい、もう……」
大平と山中が、堪えきれずに笑い声を立てたので、娘たちは一斉に身を縮めた。
「井上さんのゼミの人たちかも」
奏人が小さく言った。ゼミ友と担当教官を呼んだと話していたらしい。
「でも大阪からわざわざだよね、仲良しなんだ」
「本人はみんなの結婚式にお金を出し続けたんだから絶対来させるとか言ってたけど」
暁斗は思わず笑う。すると静かに流れていたオルガンの音が止み、間もなく開式の旨がアナウンスされた。話し声が収まり、大平が嬉し気にスマートフォンを取り出す。
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