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チョコレートと豚まん
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いつものように小一時間ほど残業し、奏人にLINEを入れた。彼はいつも通りに帰宅している。暁斗は大森まで帰って来て、駅直結のショッピングビルに足を向けた。
食料品のギフトを取り扱うフロアは、思ったより混んでいなかった。今日がバレンタインデーなので、昨日がピークだったに違いなく、お菓子のコーナーでチョコレートを見ている人もそう多くはなかった。
奏人はチョコレートが好きだ。アメリカから帰国して強制隔離期間をホテルで過ごした際、差し入れに一番に希望したのは、本とチョコレートだった。
営業課の女子社員一同からはスイスのチョコレートを貰ったので、日本のブランドのものを買おうと思った。神戸のスイーツショップのカウンターを覗くと、可愛らしいクマの形のチョコが入ったアソートセットが目についた。最後の1箱と言われて、一番大きなギフトを買い、いそいそと家路についた。
「ただいま」
家の扉を開けると、外がいかに寒かったのかを思い知らされた。リビングから流れて来る温もりと美味しそうな食べ物の匂いに、暁斗はほっとする。
「おかえり、すぐにご飯できるよ」
奏人がエプロン姿で暁斗の荷物を受け取ってくれる。
「わぁ、モテる課長さんはチョコレートも本格的」
奏人は紙袋を見て笑った。暁斗も笑ったが、リビングのテーブルの上を見て、自分がモテるなどと一瞬でも考えたことを恥じる羽目になった。暁斗とお揃いの腕時計が置かれたジュエリートレーの脇に、大小取り交ぜて10袋以上のカラフルな紙袋が並んでいた。
「これ……奏人さんの貰って来たチョコレート?」
暁斗が腕時計を外しながら半ばあ然として訊くと、奏人はうん、と何でもないように頷いた。
「今日外回り3件あったから、行く先々で貰っちゃった」
会社でも各部署からだろう! 暁斗はこの美貌のパートナーが、男からのみならず女からもモテる事実を認識し、やはり空恐ろしくなるのだった。
「暁斗さんの会社からも宅急便でいただいたよ、総務課の皆さんから……えっと、大平さんと、受付の新城さん……南野さんってお会いしたことないんだけど」
自分に託すのでなく、奏人に直接送りつける辺りが、良くも悪くも大平部長補らしい。暁斗はその面々に心当たりがあり(大平と新城は奏人のファンだが)、自分が貰ってきたベルギーチョコレートの紙袋を開ける。「出資者」の名前が列挙されたカードが入っていた。
「え、何? 『桂山課長を応援する女子の会』? 12人もいるじゃん、すごい」
奏人はカードを覗き込みながら、感心したように言った。松山や竹内や新城、そして南野の名もある。だから南野は奏人へのチョコレートに出資したのだろう。
暁斗は女子のコネクションや行動力に恐れを覚えたが、気を取り直して、奏人に青と白の紙袋を差し出す。
「……あの、これは俺からなんだけど……」
奏人はぱっと笑顔になった。
「暁斗さんもチョコレートくれるの? 可愛いパッケージだね、嬉しい」
「こんなに貰って来るってわかってたら何か違うものにしたのにな」
暁斗がつい意気消沈気味に言うと、奏人はどうして、と応じた。
食料品のギフトを取り扱うフロアは、思ったより混んでいなかった。今日がバレンタインデーなので、昨日がピークだったに違いなく、お菓子のコーナーでチョコレートを見ている人もそう多くはなかった。
奏人はチョコレートが好きだ。アメリカから帰国して強制隔離期間をホテルで過ごした際、差し入れに一番に希望したのは、本とチョコレートだった。
営業課の女子社員一同からはスイスのチョコレートを貰ったので、日本のブランドのものを買おうと思った。神戸のスイーツショップのカウンターを覗くと、可愛らしいクマの形のチョコが入ったアソートセットが目についた。最後の1箱と言われて、一番大きなギフトを買い、いそいそと家路についた。
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「おかえり、すぐにご飯できるよ」
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「わぁ、モテる課長さんはチョコレートも本格的」
奏人は紙袋を見て笑った。暁斗も笑ったが、リビングのテーブルの上を見て、自分がモテるなどと一瞬でも考えたことを恥じる羽目になった。暁斗とお揃いの腕時計が置かれたジュエリートレーの脇に、大小取り交ぜて10袋以上のカラフルな紙袋が並んでいた。
「これ……奏人さんの貰って来たチョコレート?」
暁斗が腕時計を外しながら半ばあ然として訊くと、奏人はうん、と何でもないように頷いた。
「今日外回り3件あったから、行く先々で貰っちゃった」
会社でも各部署からだろう! 暁斗はこの美貌のパートナーが、男からのみならず女からもモテる事実を認識し、やはり空恐ろしくなるのだった。
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自分に託すのでなく、奏人に直接送りつける辺りが、良くも悪くも大平部長補らしい。暁斗はその面々に心当たりがあり(大平と新城は奏人のファンだが)、自分が貰ってきたベルギーチョコレートの紙袋を開ける。「出資者」の名前が列挙されたカードが入っていた。
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「……あの、これは俺からなんだけど……」
奏人はぱっと笑顔になった。
「暁斗さんもチョコレートくれるの? 可愛いパッケージだね、嬉しい」
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暁斗がつい意気消沈気味に言うと、奏人はどうして、と応じた。
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