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春節に誓うこと

2-1 *

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 風呂に入り、シャワートイレで念入りに肛門を洗ってから、暁斗はセミダブルベッドの上に正座し、大真面目に奏人と向かい合っていた。彼は大容量のドレッシングのようなものを手にしていて、シーツの上にはバスタオルが敷かれている。
「僕……ディレット・マルティールのスタッフとして暁斗さんに申し訳なく思ってたんだけど……ローションプレイって一回もしなかった」
 奏人が眉の裾を下げ、言った。暁斗は睦み合いにローションを使うという発想がそもそも無く、奏人がデリヘルのスタッフとして暁斗に接した頃、手と口の愛撫で十二分に満足していた。だから奏人の申し訳なさそうな顔を見て、そうだったかな、としか応じられない。
 奏人は手にしたドレッシングを暁斗に示す。ラベルには英語しか書かれていない。
「帰国する時にラウリが餞別に渡してくれたんだ、アキトと離れていた時間をこれで埋めてって」
 ラウリとは、奏人がカリフォルニアの大学で過ごした寮の寮生で、北欧出身の経済学者である。奏人とオンライン通話をしていると、たまに顔を出して笑わせてくれた。
「ラウリさんお勧めのローションなのか?」
「そういうこと」
 ラウリはゲイで、暁斗が好みだと公言して憚らず、奏人をやきもきさせていた。しかし餞別にラブローションとは、フィンランドはこういうことにオープンなのだろうか。
 奏人は容器の蓋を開けて、暁斗の掌に少し透明の液体を出した。匂いは無い。指で伸ばしてみると、ジェル状だが思ったよりさらさらしていた。
「テクスチャーどう? 暁斗さんの好み? 僕はいいなと思うんだけど」
「……好みと言われてもわからないな」
 暁斗は正直に答えた。奏人は目を瞬き、そう、と言った。
「こういうの使ったことないし」
「蓉子さんとも?」
「うん、夜の生活に重きを置いてなかったから」
 それが暁斗の離婚の原因だったのだが。そっか、と奏人は頷いた。
「で、綺麗好きの暁斗さんのためにタオルを敷くね、こういうもの使うから」
 暁斗は何となく緊張して、深呼吸した。奏人はそれを見て、思わずといったようにごめん、と言った。
「そんな大層なことじゃないんだけどね」
「一大イベントが始まるみたいだよ」
 暁斗は奏人が帰国してから感じたことがなかった、もやもやしたものを意識した。奏人はかつて誰かとこういうものを使ううち、テクスチャーの好みもできたのだろうか?
 奏人は電気を消して暁斗にそっと抱きつき、すぐに唇を重ねてきた。暁斗も華奢な背中を抱いて、積極的に応じる。こういう時が暁斗は好きで、奏人が自分だけのものになってくれたと未だに嬉しくなるのだった。
「暁斗さん……好き」
 耳許で囁かれ、暁斗の身体の内側で喜びが駆け巡る。ああ、俺のほうこそほんとに奏人さんが好きだ。
 身につけているものをお互い脱ぎ捨てると、奏人はひょいと暁斗の上に乗ってきた。軽く音を立てながら、頬や首に唇を押しつけ、口の中に舌をねじ込んでくる。舌を優しく絡めながら、奏人が少しばかり昂っているのを暁斗は感じた。
 乳首を舌と指先で刺激されると、感じやすい暁斗は、あっという間にとろけてしまう。奏人の髪を右手で撫でながら、左手で細い肩を抱いた。
「気持ち良さそう」
 奏人は肩に置かれていた暁斗の手を取り、言いながら指に歯を当てる。上目遣いでこちらを見上げてくる美しい表情は、まるで暁斗を禁じられた世界に引きずり込みに来た夢魔か淫魔のようだ。
「……気持ちいいよ」
 抗う術を持たない暁斗は正直に口にした。比較の対象を知らないが、奏人はおそらくディレット・マルティールのスタッフの中でも、テクニシャンだっただろうと暁斗は思う。
「ちょっと使ってみようかな、いい?」
「お手柔らかにお願いします」
 奏人は暁斗の言葉に笑顔を見せ、枕元に置いたローションのボトルに手を伸ばした。掌に中身を出し、手で温めるように擦り合わせる。にちゃっ、と音がして、暁斗はどきどきしてしまう。
 奏人はローションまみれの右手を、緩く勃起し始めた暁斗のものにあてがった。経験したことの無い厚みのあるぬめりに、暁斗の腰が勝手に震えた。
「あ、これ……えっ……」
 奏人が手を動かすと、温かいぬめりが暁斗を包み蠢く。強い刺激ではないが、じわじわと快感が這い上がってくる。
 背筋がぞくっと来て、思わずあっ、とかすれた声で喘ぐ暁斗に、奏人は不思議そうに言う。
「女の人の中ってこんな感じじゃないの?」
「ちっ、違うと思う……っ、ああ」
 暁斗は答えたものの、実のところ、別れた妻とのセックスも既に記憶が薄かった。気持ち良かった覚えもないし、暁斗にとっての性的快感は、奏人から与えられてきたものが全てだからだ。
 気持ちいいという言葉が頭の中に充満してきた時、後方にもぬるっとした感触が来て、暁斗はもう一度腰を浮かせた。
「暁斗さん、ちょっと脚開いて」
 奏人は右手を止めずに暁斗に命じる。暁斗は女のように扱われる恥ずかしさを覚えたが、既に快感に貪欲になるスイッチが入ってしまったので、もじもじと膝を立てながら脚を動かした。
「ディレット・マルティールは穴の中はサービス対象外だったから、あまり僕も慣れてない……痛かったら言ってね」
 奏人は穴の周りを優しく撫でながら言う。それでも腹の中がむずむずするような感じがして、暁斗は腰をよじる。
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