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それも、賢者のおくりもの

12月3日 12:30②

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 暁斗も会社で、坂井時計店からのメールを受け取っていた。弁当箱を空にしてから、メールを開封する。店主は無駄の無い文章で、アクアマリンを使った時計の写真を添付する旨を伝えてきていた。スマートフォンの画面をタップして、写真を開く。
 乳白色の文字盤に繊細なローマ数字、12時の位置に光る水色の石。暁斗はきれいだな、とひとりごちた。奏人に似合いそうだ。
 いいだろう。暁斗は心を決めて、店主に購入するとそのまま返事をした。
 部下の弁当男子たちが、休憩用スペースから戻ってきた。その中の一人である手島が声を掛けてきた。
「あっ課長、コーヒー作りますけどどうですか?」
「いただこうかな」
 暁斗は軽く応じる。弁当男子たちに混じっても良いのだが、気を遣わせたくないので、基本的に暁斗は自分のデスクで食事をするようにしている。それでも毎日社員食堂を使っていた頃に比べると、若い子たちと話す機会が増えた気がする。皆節約しているのか、最近は弁当持参の子が多い。
 内勤の日には、総務課や経理課の社員と食事をすることが多い竹内が戻って来た。暁斗が今日弁当持参だったのを見て、問うてくる。
「お弁当、今日は何が入ってたんですか?」
 彼女は暁斗の弁当のおかずを訊いて、自分もそれを作ってみたいから教えてくれ、というようなことは言わない。彼女の目的は、暁斗が昼間に何を食べていたかという情報である。
「豆腐ハンバーグとキャベツのカレー風味の炒めたやつと……卵焼き、あっミニトマトも入ってたな」
 竹内は笑顔で聞く。彼女はこの後、暁斗のファンクラブのような女性グループに、この情報を公開するのだ。
 暁斗はこの会社に、自分の動向を気にする女子社員が複数いるのを自覚してはいたが、竹内が彼女らに情報を流していることに気づいたのは割と最近である。別に迷惑をこうむっているわけでもないので、竹内たちが欲しい情報を与えてやっている。
「そうそう、彼にクリスマスプレゼントを用意してるんだ」
 暁斗は竹内に言った。彼女はへぇ、と笑顔になる。
「初めて一緒に過ごすクリスマス……になるんですよね?」
「結果的にそうだなぁ、何をしたらいいのかよく分からないんだけど、たまたま彼の時計の調子が悪くなったから……」
「時計をプレゼントですか、いいですね」
 手島が暁斗のマグカップを持ち、こちらにやって来た。
「クリスマスの話ですか? 営業課じゃたぶん課長が一番ラブラブなクリスマスなんじゃないですかね」
 竹内が芝居がかった溜め息をつく。
「確かに……何かそれもちょっと哀しいですよね」
 暁斗は二人の部下を見比べる。何故こんなに景気の悪い顔をしているのだろう。
「何だ、クリスマスにみんな予定無いのか?」
「だってほら、まだあまり集まって騒ぐ空気感じゃないでしょう?」
「おうちでクリスマスなんて、ぶっちゃけ彼女無し野郎には呪いの言葉ですよ」
 営業課でクリスマスか年越しを名目に、少しでも集まれないだろうか。部下たちのしけた表情を見た暁斗は、宴会部長として何か企画してみようと真剣に考えてしまった。
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