緑の風、金の笛

穂祥 舞

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7 えんそうかい

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 奏大は14時過ぎに別荘にやって来た。広い建物の中に1人だった奏人は、やはりほっとする。奏大を出迎え、いつも伯母がするように、彼に冷えた麦茶を出した。
 奏大はいつものように、フルートのケースをまずダイニングテーブルに置く。

「奏人くんが留守番してるって涼子さんがあっさり言うから、ちょっと急いで来たよ」
「あ、ありがとう……」
 
 奏人は奏大に笑いかけられて、少しもじもじしてしまう。

「何か用意しておくことは無いの? 濱先生が着いたらコンサートなんだよね?」

 コンサートだなどと言われて、奏人の背筋がぞくぞくした。

「あ、ご飯はね、何か買ってくるみたいに伯母さん言ってた……」
「そう、じゃあちょっとだけ練習しようか」

 伯母が言った通り、奏大はがっつり練習をするタイプである。奏人は始めると集中力が増すが、まずエンジンがかかりにくいので、到着してすぐにやろうと言える彼に感心する。奏人は奏大と2階の音楽室に向かった。

「僕は易しいけれどぼんやり吹いちゃいけない楽譜をもらったのを有り難いと思っていて」

 ピアノのカバーをめくる奏人に、奏大は言った。

「テストやコンクールのための選曲って、どうしても技巧に走りがちになるじゃない? ピアノもそうだと思うけど」
「発表会の時にちょっと難しい楽譜を先生がくれるみたいに?」
「そうそう、運指と……フルートは息のコントロールもなんだけど、それをまずひけらかす的な」

 ひけらかすという言い方が、奏大に初めて会った日からずっと彼についてまわる、周りに簡単に迎合しない、ともすれば反抗的な空気感をよく表しているように奏人は思う。
 奏大は優しい容姿とはかけ離れたものを、身体の中に隠し持っている。それは一見優雅に見えて、なかなか思い通りにならない金色の横笛を、息遣いだけでねじ伏せ鳴らす行為に必要なものなのかもしれなかった。

「そんな曲ばっかり吹いてるとね、リディアみたいな曲で間がもたなくなるんだ……涼子さんには見抜かれてたし、奏人くんは毎日進化するし、正直怖い日々でした」
「怖い……」

 奏大がフルートを組み立てるのを見ながら、奏人もピアノの蓋を開く。

「怖いと思って吹いてたの?」
「うん、たまに……まあそういうのも楽しいんだけど」

 怖くて楽しいって、ちょっとよくわからないけれど、肝試しとは違うんだろうなと奏人は思った。部屋の中に煌びやかなフルートの音が響く。
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