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第4幕/おっさんフィガロとときめくピンカートン
第2場②
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新婚のフィガロとスザンナが、寝室に新しいベッドが入るかサイズを測るなどしながら、仲良しぶりをアピールする、本来なら微笑ましい場面なのだが、天音は見ていて面白くない。超肉食の紗里奈がかわい子ぶり、彼女の手を取って三喜雄が笑いかけるのが、演出とわかっていても不愉快だ。
「ねえねえ片山くん、後で動きの練習しようよ、さっきちょっと立ち位置被りかけたとことか」
授業が終わると、紗里奈はちょっとしなを作りながら三喜雄に話しかけた。天音はすかさず2人に割り込む。
「片山、後でドビュッシーの歌詞の発音教えてくれない? おまえフランス語も得意じゃん」
同時に誘われた三喜雄は、天音と紗里奈を驚いたように見比べる。
「えーっと……俺もフランス語はあんまりだけど……今夜メシ食いながらする? 太田さんはいつ空いてるの?」
オペラは演者の舞台での動きに規則性や制約があるため、場面場面での立ち位置を決め、歌とともに覚える必要がある。どれだけ上手く歌えても、スマートに動けなければ、評価してもらえないのだ。また、立ち位置は最初先生がつけてくれたものを、自分たちで変更することができるが、無意味で無駄な動きになると一からやり直しさせられてしまう。
どう考えても、2人でしなくてはいけない立ち位置の確認のほうが、1人ででもできる歌詞の発音より優先度が高い。苦々しく思いつつ紗里奈に目をやると、彼女は丁寧にマスカラを施した睫毛の間から、純度の高い敵意を含む視線を天音に飛ばしてきた。
「4限終わった後に1時間ほどどうかな? 私今夜レッスンあるし、片山くんもバイトだよね?」
この女、片山のスケジュールを把握してるのか、いつの間に。天音が密かに苦悩していると、助けは思わぬ場所からやってきた。天音とペアを組んでいる、蝶々さん役の北島瑠美だった。
「ねぇ塚山くん、私も立ち位置おさらいしたいんだけど……たぶん4限の後だと自主練室空いてないから、教室借りて4人で使わない?」
天音は瑠美を振り返る。そこにあった、綺麗にアイメイクを施した目を見て、心の中で瑠美ちゃんグッジョブと叫んだ。
「そうだね、それがいいかも」
自分の危機に気づいていない三喜雄が、無邪気に応じる。天音もそうしようかと、あくまでさらりと瑠美に言った。
紗里奈は一瞬不満気な表情を見せたものの、友達である瑠美の提案なので、了承した。
それでその後、机を隅に避けた教室の前半分でフィガロペア、後ろ半分で蝶々さんペアが、鼻歌混じりでうろうろしたり立ち止まったり手を取り合ったりするという、可笑しな光景が繰り広げられた。天音は瑠美と舞台上で必要な意思疎通ができ、三喜雄の貞操の危機を回避することができたので、非常に満足だった。
「ねえねえ片山くん、後で動きの練習しようよ、さっきちょっと立ち位置被りかけたとことか」
授業が終わると、紗里奈はちょっとしなを作りながら三喜雄に話しかけた。天音はすかさず2人に割り込む。
「片山、後でドビュッシーの歌詞の発音教えてくれない? おまえフランス語も得意じゃん」
同時に誘われた三喜雄は、天音と紗里奈を驚いたように見比べる。
「えーっと……俺もフランス語はあんまりだけど……今夜メシ食いながらする? 太田さんはいつ空いてるの?」
オペラは演者の舞台での動きに規則性や制約があるため、場面場面での立ち位置を決め、歌とともに覚える必要がある。どれだけ上手く歌えても、スマートに動けなければ、評価してもらえないのだ。また、立ち位置は最初先生がつけてくれたものを、自分たちで変更することができるが、無意味で無駄な動きになると一からやり直しさせられてしまう。
どう考えても、2人でしなくてはいけない立ち位置の確認のほうが、1人ででもできる歌詞の発音より優先度が高い。苦々しく思いつつ紗里奈に目をやると、彼女は丁寧にマスカラを施した睫毛の間から、純度の高い敵意を含む視線を天音に飛ばしてきた。
「4限終わった後に1時間ほどどうかな? 私今夜レッスンあるし、片山くんもバイトだよね?」
この女、片山のスケジュールを把握してるのか、いつの間に。天音が密かに苦悩していると、助けは思わぬ場所からやってきた。天音とペアを組んでいる、蝶々さん役の北島瑠美だった。
「ねぇ塚山くん、私も立ち位置おさらいしたいんだけど……たぶん4限の後だと自主練室空いてないから、教室借りて4人で使わない?」
天音は瑠美を振り返る。そこにあった、綺麗にアイメイクを施した目を見て、心の中で瑠美ちゃんグッジョブと叫んだ。
「そうだね、それがいいかも」
自分の危機に気づいていない三喜雄が、無邪気に応じる。天音もそうしようかと、あくまでさらりと瑠美に言った。
紗里奈は一瞬不満気な表情を見せたものの、友達である瑠美の提案なので、了承した。
それでその後、机を隅に避けた教室の前半分でフィガロペア、後ろ半分で蝶々さんペアが、鼻歌混じりでうろうろしたり立ち止まったり手を取り合ったりするという、可笑しな光景が繰り広げられた。天音は瑠美と舞台上で必要な意思疎通ができ、三喜雄の貞操の危機を回避することができたので、非常に満足だった。
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