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2.新学期
9月第1週 火曜日③
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嶋田のRHINEのアカウントのアイコンに描かれているゴールデンレトリーバーの絵は、彼の家にいる愛犬のものらしかった。遥大は雑種犬を飼っているので、嶋田がペットを可愛がっているところに共感できたのだった。遥大はアイコンに何も設定しておらず、犬の写真をアイコンにしろと嶋田から迫られている。
「……ほんなら、数学は勉強しよ」
念押しされた嶋田がこくこく頷いている後ろから、文化祭の演劇の監督と演出を担当している高村弘毅がやってきた。
「何かおもろい話してんの?」
「別に、嶋田が受験勉強して無さそうやから説教してた」
「え、怖っ」
高村は、最近遥大が嶋田とよく話していることに何やら関心を寄せているようだ。それが透けて見えて、何気に鬱陶しく感じている遥大である。
1年生の頃からずっと遥大と成績を争っている高村は、遥大をライバル視している。遥大に言わせてみれば、彼からライバルと見做されるのは引け目を感じて微妙だ。この高校の歴史ある演劇部の部長を務めている高村のほうが、おそらく先生がたの覚えもめでたく、クラス内カーストも高い。容姿も悪くないし、遥大は夏休み前、高村がロミオを演じるよう運ぼうと思っていたのだった。
「明後日の放課後、舞台組がみんな集まれそうやねん」
高村の声はやや弾んでいる。
「終わりのホームルームでちょっとアナウンスしてほしい……衣装合わせできると思う」
衣装合わせという高村の言葉に、遥大は嶋田と同時に、ほう、と言ってしまった。高村がくすっと笑い、遥大はちらっと嶋田を見たが、嶋田は声が揃ったことを気にしていないようだった。
遥大は高村に確認する。
「それは何? 見たい人は見てって言うたらええの?」
「うん、出演者にリマインダーも兼ねて……1回目のドレスリハやな」
嶋田はそれを聞いて、背筋をぴゅっと伸ばした。
「何か楽しみやで」
「楽しみやろ? でも平池の言う通りに勉強はせえよ」
その時、担任の長谷部が教室に入ってきたので、3人はおしゃべりを一旦止めて、自分のロッカーに向かう。湖南高校は昼休みの最後の15分を、一斉に昼寝をする時間に充てており、生徒は全員マイ枕をロッカーに持参していた。
入学した時は、幼稚園じゃあるまいしと皆軽く嘲笑するのだが、10分ほど目を閉じているだけで(もちろん熟睡しても構わない)、午後の授業中の集中力が格段に上がるのだ。この15分は理にかなっていると今や遥大も認めていて、休日に自宅にいる時も、昼食を済ませた後に短い昼寝の時間を取っている。
「はい、じゃあみんなおやすみ」
長谷部は目覚ましをセットし、A組のメンバーにのんびりと言った。全員が小さな枕やクッションに突っ伏す光景は、後方の席から見るとなかなか壮観だった。遥大も眼鏡を外して、ケースに片づける。
右のこめかみを愛用のゾウのクッションにつけて、窓のほうを向いていた遥大は、眩しくなってきたので反対を向いた。普段、横の席の人間のことなどほとんど気にしたことが無いが、白い四角いクッションに半分顔を埋めている嶋田を見て、急にこいつとようしゃべるようになったなぁとしみじみと思う。
写真部に提出した、レイクサイドで撮影した3枚の写真は、連作として展示してもらえることになった。夜の開店準備をする宮間、まだ客の入っていない店内、そして演奏をするブラックストーンと嶋田を撮った。顧問の教員は、バンド、特に嶋田の躍動感がいいと褒めてくれた(そして、嶋田がフィドルを弾くと初めて知ったようだった)。
嶋田はこうして見ると、きれいな顔立ちをしている。高い頬骨は男らしく、眉の形が整っていて、大きな目は閉じていても存在感があった。ドレスリハが楽しみだと嶋田は言ったが、衣装担当が気合いを入れて作っているのを知っているからだ。すらりとした彼には、マントを垂らした貴族の服装はさぞかし似合うことだろう。
遥大は瞼を落とし、うつらうつらし始めた。エアコンの風が心地良い。
「……ほんなら、数学は勉強しよ」
念押しされた嶋田がこくこく頷いている後ろから、文化祭の演劇の監督と演出を担当している高村弘毅がやってきた。
「何かおもろい話してんの?」
「別に、嶋田が受験勉強して無さそうやから説教してた」
「え、怖っ」
高村は、最近遥大が嶋田とよく話していることに何やら関心を寄せているようだ。それが透けて見えて、何気に鬱陶しく感じている遥大である。
1年生の頃からずっと遥大と成績を争っている高村は、遥大をライバル視している。遥大に言わせてみれば、彼からライバルと見做されるのは引け目を感じて微妙だ。この高校の歴史ある演劇部の部長を務めている高村のほうが、おそらく先生がたの覚えもめでたく、クラス内カーストも高い。容姿も悪くないし、遥大は夏休み前、高村がロミオを演じるよう運ぼうと思っていたのだった。
「明後日の放課後、舞台組がみんな集まれそうやねん」
高村の声はやや弾んでいる。
「終わりのホームルームでちょっとアナウンスしてほしい……衣装合わせできると思う」
衣装合わせという高村の言葉に、遥大は嶋田と同時に、ほう、と言ってしまった。高村がくすっと笑い、遥大はちらっと嶋田を見たが、嶋田は声が揃ったことを気にしていないようだった。
遥大は高村に確認する。
「それは何? 見たい人は見てって言うたらええの?」
「うん、出演者にリマインダーも兼ねて……1回目のドレスリハやな」
嶋田はそれを聞いて、背筋をぴゅっと伸ばした。
「何か楽しみやで」
「楽しみやろ? でも平池の言う通りに勉強はせえよ」
その時、担任の長谷部が教室に入ってきたので、3人はおしゃべりを一旦止めて、自分のロッカーに向かう。湖南高校は昼休みの最後の15分を、一斉に昼寝をする時間に充てており、生徒は全員マイ枕をロッカーに持参していた。
入学した時は、幼稚園じゃあるまいしと皆軽く嘲笑するのだが、10分ほど目を閉じているだけで(もちろん熟睡しても構わない)、午後の授業中の集中力が格段に上がるのだ。この15分は理にかなっていると今や遥大も認めていて、休日に自宅にいる時も、昼食を済ませた後に短い昼寝の時間を取っている。
「はい、じゃあみんなおやすみ」
長谷部は目覚ましをセットし、A組のメンバーにのんびりと言った。全員が小さな枕やクッションに突っ伏す光景は、後方の席から見るとなかなか壮観だった。遥大も眼鏡を外して、ケースに片づける。
右のこめかみを愛用のゾウのクッションにつけて、窓のほうを向いていた遥大は、眩しくなってきたので反対を向いた。普段、横の席の人間のことなどほとんど気にしたことが無いが、白い四角いクッションに半分顔を埋めている嶋田を見て、急にこいつとようしゃべるようになったなぁとしみじみと思う。
写真部に提出した、レイクサイドで撮影した3枚の写真は、連作として展示してもらえることになった。夜の開店準備をする宮間、まだ客の入っていない店内、そして演奏をするブラックストーンと嶋田を撮った。顧問の教員は、バンド、特に嶋田の躍動感がいいと褒めてくれた(そして、嶋田がフィドルを弾くと初めて知ったようだった)。
嶋田はこうして見ると、きれいな顔立ちをしている。高い頬骨は男らしく、眉の形が整っていて、大きな目は閉じていても存在感があった。ドレスリハが楽しみだと嶋田は言ったが、衣装担当が気合いを入れて作っているのを知っているからだ。すらりとした彼には、マントを垂らした貴族の服装はさぞかし似合うことだろう。
遥大は瞼を落とし、うつらうつらし始めた。エアコンの風が心地良い。
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