あいつが気になる夏

穂祥 舞

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1.ムカつくクラスメイト

8月下旬②

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 遥大はこげ茶色に塗られたベニヤ板に視線を戻し、早く乾くよううちわを動かした。そしてぼんやり考える。先に写真部の顧問に提出した写真のデータは、レイクサイドで撮影し厳選した3枚分で、できればすべてを連続した作品として取り扱ってほしいと話しておいた。OKしてもらえれば、そこそこ見栄えのする展示になるだろう。
 特別優秀なカメラマンではない遥大だが、写真を撮るのも人が撮った写真を見るのも好きだった。高校生活最後の写真展が、自分でも納得できて、欲を言えば、さすが3年の写真だと、後輩や観に来る人たちに言ってもらえるようになればいい。
 その時不意に、頭のてっぺんから声が降り注いてきた。

「なあ平池、こないだの写真って見れるん?」

 遥大は驚いて顔を跳ね上げた。教室の窓枠に腕をかけて、嶋田がこちらに身を乗り出していた。周囲の男子たちは、何事かと言わんばかりの顔で2人を見比べる。焦った遥大は、あ、え、と意味不明な音を喉から発した。

「あ、渡そうとは、思ってた……んやけど」

 嶋田はにかっと笑う。

「そう? ほな、もらうわ」

 舞台組が休憩に入るようなので、大道具組も休憩することにする。暑いので何か飲もうという話になり、遥大は自販機に走るべく大道具組の飲み物の希望を募った。それを見ていた嶋田は、自分も舞台組のオーダーを集め始めて、遥大が階下に降りるべくその場を離れると、ぱたぱたと小走りになってついてきた。

「待って、俺も行く」
「おう」

 適当に返事をして、並んで階段を降りた。1階下は2年生の教室で、こちらも模擬店の準備が始まっており、何やら賑やかな声が聞こえてくる。
 不意に嶋田が言う。

「去年作ったたこ焼きと焼きそば、美味かったなぁ」

 遥大はちらっと嶋田の横顔を見てから、答えた。

「……思ったより上手いことできたな、よう売れたし」
「やっぱり焼きそばは火力とソースやな……バイト先では出さへんの?」
「焼きそばはメニューに無いわ、基本トースターかレンジでできるやつだけ」

 言うと同時に嶋田の顔が自分の視界に入ってきたので、遥大は思わず上半身を引いた。

「なっ、何?」
「プライベートはコンタクトなん?」

 は? 思わず足を止めて、遥大は嶋田の目をまじまじと見てしまった。その髪と同様、彼の瞳が明るい色をしていると、初めて知る。

「……眼鏡がデフォルトや、ずっとコンタクトやったら目がしんどい」
「そうなんか、バイト先でコンタクトなんは、店長さんの指示か?」

 どうしてこんなにいろいろ訊いてくるのだろうと思い、さりげなく嶋田の視線から逃れるべく、顔を横に向けた。

「違う、……知ってる人に身バレして、話しかけられへんようにしてるんや」

 数秒の沈黙があり、次の瞬間、だはは、と明るい笑いが遥大の耳朶を打った。踊り場にその声が響く。

「ちょっと意味わからん、俺に身バレしてるやん」

 確かにそうなのだが、嶋田があまりに大笑いするので、腹立たしくなった。遥大はむっとして、足を早めて校舎の外に出る。もわっと暑い空気をかき分けて、嶋田の声が追いかけてきた。

「ごめん、怒りなや、でもあそこのバイト、親とか学校に内緒と違うんやろ? 誰が来てもかまへんやん」
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