8 / 66
1.ムカつくクラスメイト
8月下旬②
しおりを挟む
遥大はこげ茶色に塗られたベニヤ板に視線を戻し、早く乾くよううちわを動かした。そしてぼんやり考える。先に写真部の顧問に提出した写真のデータは、レイクサイドで撮影し厳選した3枚分で、できればすべてを連続した作品として取り扱ってほしいと話しておいた。OKしてもらえれば、そこそこ見栄えのする展示になるだろう。
特別優秀なカメラマンではない遥大だが、写真を撮るのも人が撮った写真を見るのも好きだった。高校生活最後の写真展が、自分でも納得できて、欲を言えば、さすが3年の写真だと、後輩や観に来る人たちに言ってもらえるようになればいい。
その時不意に、頭のてっぺんから声が降り注いてきた。
「なあ平池、こないだの写真って見れるん?」
遥大は驚いて顔を跳ね上げた。教室の窓枠に腕をかけて、嶋田がこちらに身を乗り出していた。周囲の男子たちは、何事かと言わんばかりの顔で2人を見比べる。焦った遥大は、あ、え、と意味不明な音を喉から発した。
「あ、渡そうとは、思ってた……んやけど」
嶋田はにかっと笑う。
「そう? ほな、もらうわ」
舞台組が休憩に入るようなので、大道具組も休憩することにする。暑いので何か飲もうという話になり、遥大は自販機に走るべく大道具組の飲み物の希望を募った。それを見ていた嶋田は、自分も舞台組のオーダーを集め始めて、遥大が階下に降りるべくその場を離れると、ぱたぱたと小走りになってついてきた。
「待って、俺も行く」
「おう」
適当に返事をして、並んで階段を降りた。1階下は2年生の教室で、こちらも模擬店の準備が始まっており、何やら賑やかな声が聞こえてくる。
不意に嶋田が言う。
「去年作ったたこ焼きと焼きそば、美味かったなぁ」
遥大はちらっと嶋田の横顔を見てから、答えた。
「……思ったより上手いことできたな、よう売れたし」
「やっぱり焼きそばは火力とソースやな……バイト先では出さへんの?」
「焼きそばはメニューに無いわ、基本トースターかレンジでできるやつだけ」
言うと同時に嶋田の顔が自分の視界に入ってきたので、遥大は思わず上半身を引いた。
「なっ、何?」
「プライベートはコンタクトなん?」
は? 思わず足を止めて、遥大は嶋田の目をまじまじと見てしまった。その髪と同様、彼の瞳が明るい色をしていると、初めて知る。
「……眼鏡がデフォルトや、ずっとコンタクトやったら目がしんどい」
「そうなんか、バイト先でコンタクトなんは、店長さんの指示か?」
どうしてこんなにいろいろ訊いてくるのだろうと思い、さりげなく嶋田の視線から逃れるべく、顔を横に向けた。
「違う、……知ってる人に身バレして、話しかけられへんようにしてるんや」
数秒の沈黙があり、次の瞬間、だはは、と明るい笑いが遥大の耳朶を打った。踊り場にその声が響く。
「ちょっと意味わからん、俺に身バレしてるやん」
確かにそうなのだが、嶋田があまりに大笑いするので、腹立たしくなった。遥大はむっとして、足を早めて校舎の外に出る。もわっと暑い空気をかき分けて、嶋田の声が追いかけてきた。
「ごめん、怒りなや、でもあそこのバイト、親とか学校に内緒と違うんやろ? 誰が来てもかまへんやん」
特別優秀なカメラマンではない遥大だが、写真を撮るのも人が撮った写真を見るのも好きだった。高校生活最後の写真展が、自分でも納得できて、欲を言えば、さすが3年の写真だと、後輩や観に来る人たちに言ってもらえるようになればいい。
その時不意に、頭のてっぺんから声が降り注いてきた。
「なあ平池、こないだの写真って見れるん?」
遥大は驚いて顔を跳ね上げた。教室の窓枠に腕をかけて、嶋田がこちらに身を乗り出していた。周囲の男子たちは、何事かと言わんばかりの顔で2人を見比べる。焦った遥大は、あ、え、と意味不明な音を喉から発した。
「あ、渡そうとは、思ってた……んやけど」
嶋田はにかっと笑う。
「そう? ほな、もらうわ」
舞台組が休憩に入るようなので、大道具組も休憩することにする。暑いので何か飲もうという話になり、遥大は自販機に走るべく大道具組の飲み物の希望を募った。それを見ていた嶋田は、自分も舞台組のオーダーを集め始めて、遥大が階下に降りるべくその場を離れると、ぱたぱたと小走りになってついてきた。
「待って、俺も行く」
「おう」
適当に返事をして、並んで階段を降りた。1階下は2年生の教室で、こちらも模擬店の準備が始まっており、何やら賑やかな声が聞こえてくる。
不意に嶋田が言う。
「去年作ったたこ焼きと焼きそば、美味かったなぁ」
遥大はちらっと嶋田の横顔を見てから、答えた。
「……思ったより上手いことできたな、よう売れたし」
「やっぱり焼きそばは火力とソースやな……バイト先では出さへんの?」
「焼きそばはメニューに無いわ、基本トースターかレンジでできるやつだけ」
言うと同時に嶋田の顔が自分の視界に入ってきたので、遥大は思わず上半身を引いた。
「なっ、何?」
「プライベートはコンタクトなん?」
は? 思わず足を止めて、遥大は嶋田の目をまじまじと見てしまった。その髪と同様、彼の瞳が明るい色をしていると、初めて知る。
「……眼鏡がデフォルトや、ずっとコンタクトやったら目がしんどい」
「そうなんか、バイト先でコンタクトなんは、店長さんの指示か?」
どうしてこんなにいろいろ訊いてくるのだろうと思い、さりげなく嶋田の視線から逃れるべく、顔を横に向けた。
「違う、……知ってる人に身バレして、話しかけられへんようにしてるんや」
数秒の沈黙があり、次の瞬間、だはは、と明るい笑いが遥大の耳朶を打った。踊り場にその声が響く。
「ちょっと意味わからん、俺に身バレしてるやん」
確かにそうなのだが、嶋田があまりに大笑いするので、腹立たしくなった。遥大はむっとして、足を早めて校舎の外に出る。もわっと暑い空気をかき分けて、嶋田の声が追いかけてきた。
「ごめん、怒りなや、でもあそこのバイト、親とか学校に内緒と違うんやろ? 誰が来てもかまへんやん」
10
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
彼はオタサーの姫
穂祥 舞
BL
東京の芸術大学の大学院声楽専攻科に合格した片山三喜雄は、初めて故郷の北海道から出て、東京に引っ越して来た。
高校生の頃からつき合いのある塚山天音を筆頭に、ちょっと癖のある音楽家の卵たちとの学生生活が始まる……。
魅力的な声を持つバリトン歌手と、彼の周りの音楽男子大学院生たちの、たまに距離感がおかしいあれこれを描いた連作短編(中編もあり)。音楽もてんこ盛りです。
☆表紙はtwnkiさま https://coconala.com/users/4287942 にお願いしました!
BLというよりは、ブロマンスに近いです(ラブシーン皆無です)。登場人物のほとんどが自覚としては異性愛者なので、女性との関係を匂わせる描写があります。
大学・大学院は実在します(舞台が2013年のため、一部過去の学部名を使っています)が、物語はフィクションであり、各学校と登場人物は何ら関係ございません。また、筆者は音楽系の大学・大学院卒ではありませんので、事実とかけ離れた表現もあると思います。
高校生の三喜雄の物語『あいみるのときはなかろう』もよろしければどうぞ。もちろん、お読みでなくても楽しんでいただけます。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
キスは氷を降りてから
インナケンチ
BL
アイスホッケー選手の先輩と後輩⋯⋯さらに甥っ子?
ある理由で“本気の恋”を避けてきた男が、本気の男たちに翻弄されて⋯⋯
*****************************
特定のスポーツを題材にしていますが、あくまでフィクションです
実在しない組織、設定が多数あります
*****************************
黒川 響(27)聖クラスナ高校教師・元HCレッドスター/ディフェンス
蒼井 壮平(28)大手住宅メーカー営業・HCレッドスター/ゴーリー
赤城 夏海(17)聖クラスナ高校2年生・アイスホッケー部/オフェンス
*****************************
俺を注意してくる生徒会長の鼻を明かしてやりたかっただけなのに
たけむら
BL
真面目(?)な生徒会長×流されやすめなツンデレ男子高校生。そこに友達も加わって、わちゃわちゃの高校生活を送る話。
ネクタイをつけてこないことを毎日真面目に注意してくる生徒会長・伊佐野のことを面白がっていた水沢だったが、実は手のひらの上で転がされていたのは自分の方だった? そこに悪友・秋山も加わってやいのやいのにぎやか(?)な高校生活を送る話。
楽しんでいただけますように。どうぞよろしくお願いします。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。
素直じゃない人
うりぼう
BL
平社員×会長の孫
社会人同士
年下攻め
ある日突然異動を命じられた昭仁。
異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。
厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。
しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。
そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり……
というMLものです。
えろは少なめ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる