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1.ムカつくクラスメイト
8月上旬①
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夏休みになると、遥大は自宅周辺で夏期講習とアルバイトに励む生活に入った。特に楽しいことも無いが、心をざわめかせることも起きず、極めて平和だ。
遥大は写真部に所属しているが、3年生には夏季休暇中の出席を求めておらず、少なくともお盆が終わるまでは、学校に出向かなくてよかった。高校生活最後の出品となる文化祭の展示に向けて、いい写真を各自数枚用意しておくよう顧問から言われており、2年半続けたアルバイトもいよいよ最終出勤月を迎えたので、店長に頼んで、店内で数枚撮らせてもらおうと遥大は思った。
遥大のアルバイト先は、駅にほど近い雑居ビルの中にある、カフェ兼ライブハウスだ。といっても客が20人も入れば満席になる小さな店で、大津港に観光に来る人の来店を全く期待しない、近所の住人の憩いの場だ。ほぼ店長の趣味で開催されている第2・4金曜の20時からのライブタイムは、プロアマ問わずいろんなジャンルのミュージシャンがやってくる。
遥大はこの店で週3日、夕方から閉店まで働いているが、あくまでも周囲にはカフェバイトだと話していた。金曜の夜はこれまた店長の趣味で酒を出すため、店の雰囲気ががらっと変わる。いかがわしいとまでは思わないし、必ず22時までに上がらせてくれるが、あまり高校で大っぴらにしたくない。とはいえ世の中は狭いので、例えば教員などが来てもすぐにバレないよう、ライブタイムになると遥大は眼鏡をコンタクトに変え、前髪を上げるなどしていた。
センター試験の数学の過去問題をキリのいいところまで解き終わり、遥大はカフェ「レイクサイド」に向かった。太陽は壊れたかのように、容赦ない光を全力で地上に降り注いでいた。自転車を漕いでも風は生温く、強い日差しであっという間に汗ばむ。
カフェは細長い雑居ビルの3階のワンフロアを使い、入り口は1か所だ。遥大が店の扉を押すと、10人ほどの客が皆冷たいものを飲んでいた。
「遥ちゃん、おはよう」
カウンターでグラスを拭いていた店長の宮間と、空いたテーブルを片づけるフリーターの金澤がほぼ同時に言った。おはようございます、と返し、遥大は奥の控え室に向かう。
ボディペーパーで手早く汗を拭き、Tシャツを替えて紺色のエプロンを着けた。そして今日のライブの出演者のために、室内を片づけ始める。食材や飲料のストックを隅に寄せて床にスペースをつくり、普段使わない2人掛けのソファにかけられたカバーを外して畳む。
店に出ると、宮間に礼を言われた。
「もうほんま、遥ちゃん辞めたら、金曜日ライブでけへんようになるわ」
「俺来る前からやってはったじゃないすか」
遥大はややぶっきらぼうに応じた。我ながら、こんな調子でよく働いて来れたと思う。この店のスタッフも常連客も、高校生バイトがちょっぴり不愛想なのを大目に見てくれているのは、この清潔感のある男子がくるくると良く働くからだ。
大事なことを思い出して、遥大は洗い物をしながら尋ねる。
「店長、今日ライブ始まる前に店の写真撮っていいですか? 文化祭の展示のネタ探してて」
遥大が写真部に所属していることを知る宮間は、あっさり答えた。
「ああ、バンドがええって言うてくれたら、ライブの写真も撮ったらええやん」
演奏中にオーダーをする客はあまりいないので、ライブが始まれば案外暇なのだ。
金澤が、アイスコーヒー2つでーす、とオーダーを告げる。遥大は濡れた手を拭いて、2つのグラスに氷を入れるべく冷凍庫を開けた。宮間は冷蔵庫からアイスコーヒーの入った水筒を出し、金澤はカウンターに入ってきて、コーヒーをドリップする準備を始めた。
「アイスコーヒー、7時までもたへんやろし沸かしときますよ」
ライブのある金曜のレイクサイドは、会場設営と出演者のリハーサルのために19時に一旦閉店する。それまでどれだけの客が来るかわからないが、今日はとにかく暑くて、アイスのメニューばかり出ているようだった。
遥大は写真部に所属しているが、3年生には夏季休暇中の出席を求めておらず、少なくともお盆が終わるまでは、学校に出向かなくてよかった。高校生活最後の出品となる文化祭の展示に向けて、いい写真を各自数枚用意しておくよう顧問から言われており、2年半続けたアルバイトもいよいよ最終出勤月を迎えたので、店長に頼んで、店内で数枚撮らせてもらおうと遥大は思った。
遥大のアルバイト先は、駅にほど近い雑居ビルの中にある、カフェ兼ライブハウスだ。といっても客が20人も入れば満席になる小さな店で、大津港に観光に来る人の来店を全く期待しない、近所の住人の憩いの場だ。ほぼ店長の趣味で開催されている第2・4金曜の20時からのライブタイムは、プロアマ問わずいろんなジャンルのミュージシャンがやってくる。
遥大はこの店で週3日、夕方から閉店まで働いているが、あくまでも周囲にはカフェバイトだと話していた。金曜の夜はこれまた店長の趣味で酒を出すため、店の雰囲気ががらっと変わる。いかがわしいとまでは思わないし、必ず22時までに上がらせてくれるが、あまり高校で大っぴらにしたくない。とはいえ世の中は狭いので、例えば教員などが来てもすぐにバレないよう、ライブタイムになると遥大は眼鏡をコンタクトに変え、前髪を上げるなどしていた。
センター試験の数学の過去問題をキリのいいところまで解き終わり、遥大はカフェ「レイクサイド」に向かった。太陽は壊れたかのように、容赦ない光を全力で地上に降り注いでいた。自転車を漕いでも風は生温く、強い日差しであっという間に汗ばむ。
カフェは細長い雑居ビルの3階のワンフロアを使い、入り口は1か所だ。遥大が店の扉を押すと、10人ほどの客が皆冷たいものを飲んでいた。
「遥ちゃん、おはよう」
カウンターでグラスを拭いていた店長の宮間と、空いたテーブルを片づけるフリーターの金澤がほぼ同時に言った。おはようございます、と返し、遥大は奥の控え室に向かう。
ボディペーパーで手早く汗を拭き、Tシャツを替えて紺色のエプロンを着けた。そして今日のライブの出演者のために、室内を片づけ始める。食材や飲料のストックを隅に寄せて床にスペースをつくり、普段使わない2人掛けのソファにかけられたカバーを外して畳む。
店に出ると、宮間に礼を言われた。
「もうほんま、遥ちゃん辞めたら、金曜日ライブでけへんようになるわ」
「俺来る前からやってはったじゃないすか」
遥大はややぶっきらぼうに応じた。我ながら、こんな調子でよく働いて来れたと思う。この店のスタッフも常連客も、高校生バイトがちょっぴり不愛想なのを大目に見てくれているのは、この清潔感のある男子がくるくると良く働くからだ。
大事なことを思い出して、遥大は洗い物をしながら尋ねる。
「店長、今日ライブ始まる前に店の写真撮っていいですか? 文化祭の展示のネタ探してて」
遥大が写真部に所属していることを知る宮間は、あっさり答えた。
「ああ、バンドがええって言うてくれたら、ライブの写真も撮ったらええやん」
演奏中にオーダーをする客はあまりいないので、ライブが始まれば案外暇なのだ。
金澤が、アイスコーヒー2つでーす、とオーダーを告げる。遥大は濡れた手を拭いて、2つのグラスに氷を入れるべく冷凍庫を開けた。宮間は冷蔵庫からアイスコーヒーの入った水筒を出し、金澤はカウンターに入ってきて、コーヒーをドリップする準備を始めた。
「アイスコーヒー、7時までもたへんやろし沸かしときますよ」
ライブのある金曜のレイクサイドは、会場設営と出演者のリハーサルのために19時に一旦閉店する。それまでどれだけの客が来るかわからないが、今日はとにかく暑くて、アイスのメニューばかり出ているようだった。
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