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ゲイモテ彼氏を持つ身は辛い①
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仕事始めを迎えたその日の夜、晴也がマンションに戻ると、数枚の年賀はがきとともに、晶宛ての大きな封書が2通も来ていた。ポストからそれらを引っ張り出して、晴也はエレベーターで差出人を見てみる。
1通は、10月に晶を軽く取材したダンス雑誌の出版社からだった。晶はこの春、イギリスの劇団の公演に賛助出演が決まっており、そのミュージカルについてインタビューを受けたのだ。校正を手伝うために晴也も目を通したので、おそらく見本誌だろう。
それと同じ大きさの、2通目の封筒の差出人も出版社っぽい名だったが、少なくとも晴也はその社名を聞いたことがなかった。だからという訳でもないのだろうけれど、やや胡散臭い感じがする。
平和な仕事始めだったと言いながら帰ってきた晶は、晴也が淹れたコーヒーを飲みながら、まずダンス雑誌の出版社の袋を開けた。
「おーっ、新年号に載るとか、気持ちいいよな」
晶は嬉しそうに雑誌を見つめた。表紙を飾るのは先日引退を発表した、ロシアでも活躍していた男性バレエダンサーで、晶のインタビュー記事のタイトルは表紙に書かれてさえいない。それでも名の通った雑誌に取り上げられるのは、やはり誇らしいのだろう。
晴也も雑誌を覗きこむ。
「何処に載ってるんだよ、見せろ見せろ」
「たぶん後半の、雑記事のコーナーじゃないか? あっ……」
何と晶の記事は見開き2ページが使われていた。感染症の拡大前にロンドンで好評を博したミュージカル「真夏の夜の夢」が来春バージョンアップして再演、"ショウ"こと吉岡晶が再びパックを踊る、と題されている。
晶の上半身の写真と、前回の舞台の写真を見て、晴也は興奮した。
「凄い! 大物ダンサーみたいだ」
晶は何故かドヤ顔になる。
「何だハルさん、俺が大物だって知らなかったのか」
「てっきり場末のショーパブのストリップダンサーだとばかり」
「いやまあ、普段はそうだけど」
晴也が雑誌を読んでいると、晶はもう1通の封筒に手を伸ばした。差出人を見て、うっ、と低く唸る。
「あー……これ忘れてた」
雑誌から目を上げた晴也は、晶がやや困惑気味に封を切るのを見つめた。晶はちらっと晴也を伺う。
「ハルさんこれ開けなかったんだ」
「福原家では家族の封書は断りなく開けない」
気になったけれど我慢したニュアンスを込めて晴也が言うと、晶は苦笑した。
「これ、9月にルーチェに取材に来てさ、店長も優さんもノリでOKしちゃって」
茶色い封筒から出てきた、ハンサムで、よく見るとマッチョなことがスーツ越しでもわかる男性が表紙にでかでかと載る雑誌は、一見男性向けのファッション誌風だ。しかしそこに書かれている記事のヘッドラインを見て、晴也はすぐに理解した。
「……これはいわゆるゲイ向けの本、だよな?」
「おおっ、ハルさんこういうの読む?」
晶の笑顔に晴也は唇を尖らせた。
「読んだことないよ、俺おまえと知り合うまでノンケだったっつの」
「俺も日本のはほとんど読んだことないんだけど、お洒落だぞ」
晶はぱらぱらとページを繰る。彼と行きたい冬の行楽スポット、男2人で楽しめる温泉……記事は普通に面白そうである。晶と、彼の所属するダンスユニット、「ドルフィン・ファイブ」が載っていたのは、ゲイ向けエンターテインメント情報コーナーだった。紹介されている中には実質発展場のゲイバーや、風俗ギリギリの店もありそうである。件の記事には「新宿2丁目の老舗ショーパブ『ルーチェ』で唯一のゲイ向け人気プログラム。今すぐ予約せよ!」と、煽り文句がついていた。
1通は、10月に晶を軽く取材したダンス雑誌の出版社からだった。晶はこの春、イギリスの劇団の公演に賛助出演が決まっており、そのミュージカルについてインタビューを受けたのだ。校正を手伝うために晴也も目を通したので、おそらく見本誌だろう。
それと同じ大きさの、2通目の封筒の差出人も出版社っぽい名だったが、少なくとも晴也はその社名を聞いたことがなかった。だからという訳でもないのだろうけれど、やや胡散臭い感じがする。
平和な仕事始めだったと言いながら帰ってきた晶は、晴也が淹れたコーヒーを飲みながら、まずダンス雑誌の出版社の袋を開けた。
「おーっ、新年号に載るとか、気持ちいいよな」
晶は嬉しそうに雑誌を見つめた。表紙を飾るのは先日引退を発表した、ロシアでも活躍していた男性バレエダンサーで、晶のインタビュー記事のタイトルは表紙に書かれてさえいない。それでも名の通った雑誌に取り上げられるのは、やはり誇らしいのだろう。
晴也も雑誌を覗きこむ。
「何処に載ってるんだよ、見せろ見せろ」
「たぶん後半の、雑記事のコーナーじゃないか? あっ……」
何と晶の記事は見開き2ページが使われていた。感染症の拡大前にロンドンで好評を博したミュージカル「真夏の夜の夢」が来春バージョンアップして再演、"ショウ"こと吉岡晶が再びパックを踊る、と題されている。
晶の上半身の写真と、前回の舞台の写真を見て、晴也は興奮した。
「凄い! 大物ダンサーみたいだ」
晶は何故かドヤ顔になる。
「何だハルさん、俺が大物だって知らなかったのか」
「てっきり場末のショーパブのストリップダンサーだとばかり」
「いやまあ、普段はそうだけど」
晴也が雑誌を読んでいると、晶はもう1通の封筒に手を伸ばした。差出人を見て、うっ、と低く唸る。
「あー……これ忘れてた」
雑誌から目を上げた晴也は、晶がやや困惑気味に封を切るのを見つめた。晶はちらっと晴也を伺う。
「ハルさんこれ開けなかったんだ」
「福原家では家族の封書は断りなく開けない」
気になったけれど我慢したニュアンスを込めて晴也が言うと、晶は苦笑した。
「これ、9月にルーチェに取材に来てさ、店長も優さんもノリでOKしちゃって」
茶色い封筒から出てきた、ハンサムで、よく見るとマッチョなことがスーツ越しでもわかる男性が表紙にでかでかと載る雑誌は、一見男性向けのファッション誌風だ。しかしそこに書かれている記事のヘッドラインを見て、晴也はすぐに理解した。
「……これはいわゆるゲイ向けの本、だよな?」
「おおっ、ハルさんこういうの読む?」
晶の笑顔に晴也は唇を尖らせた。
「読んだことないよ、俺おまえと知り合うまでノンケだったっつの」
「俺も日本のはほとんど読んだことないんだけど、お洒落だぞ」
晶はぱらぱらとページを繰る。彼と行きたい冬の行楽スポット、男2人で楽しめる温泉……記事は普通に面白そうである。晶と、彼の所属するダンスユニット、「ドルフィン・ファイブ」が載っていたのは、ゲイ向けエンターテインメント情報コーナーだった。紹介されている中には実質発展場のゲイバーや、風俗ギリギリの店もありそうである。件の記事には「新宿2丁目の老舗ショーパブ『ルーチェ』で唯一のゲイ向け人気プログラム。今すぐ予約せよ!」と、煽り文句がついていた。
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