上 下
1 / 26

再会

しおりを挟む
若い男が一人、お台場の自由の女神像をなんともなしに見上げていた。視線を遠くへ向けるとレインボーブリッジの向こうに東京タワーが小さくその優美な造形美を見せている。

突然、視線を感じて彼が振り向くと、かなり高いところに男の目が光っていた。夕陽が反射して赤く見える瞳。ふんわりと下している明るい茶色の長髪は柔らかそうだった。

「よう!」

そう言って、彼との距離を縮めてくる。すぐ側に立たれたので彼は首を後ろに逸らしてその男の瞳を見上げざるを得なかった。

しばらく見つめ合っていると、背の高い男はいきなり彼の両脇に手を差し入れた。そのまま彼を抱き上げ、自分の腕を止まり木にして彼を座らせた。そうすると、彼の視線のほうがその男の視線より高くなった。男は彼の瞳を見上げた。

若い男は何を思ったのか、その長身の男の髪の中に指を差し入れた。見た目通り、男の髪は柔らかかった。そして、それが当たり前のことのように男の唇に自分の唇を重ねた。

周囲の観光客らがどよめいた。ただでさえその大きさで目立つ男が男を抱き上げたと思ったら、次の瞬間、口づけを交わしているのだ。

男は彼を下ろして着地させると、手を差し出した。彼の手を握るといきなり走り出す。自由の女神像に沿って緩やかに下りていく板張りの遊歩道を、かなり上背のある男が一回り小さい男の手を引いて走り下りていく。

何事だと騒ぐ観光客らを尻目に、長身の男は楽しそうに細身の若い男に悪戯っぽい目を向けながら、華やかな笑い声をたてた。

お台場海浜公園の砂浜を男を引きずりながらその長身の男は走った。引っ張られる男はつんのめりそうになりながらその男の大きな歩幅についていこうとちょこまか脚を動かしていた。

「ここ知ってるか?」

男が指さしているのは、レインボーブリッジの遊歩道だった。

「真下に海が見えて迫力あるぞ」

橋の上から東京湾を見下ろした。男は彼の肩を抱いた。彼がその男の横顔を見上げると、男は彼に口づけを落とした。最初は髪に、そして額に、瞼に…。男の唇が彼の唇を捉えると、彼は体中を戦慄が走るのを感じた。男の舌が彼の口内を這いまわっていた。

「お前を抱いてもいいか?」

男は耳打ちすると、彼はひとつ頷きを返した。男が連れて行ったのはゆりかもめの駅から数歩のところにあるホテル・オブ・ザ・イヤーを受賞したことのあるデザイナーズホテルだった。部屋に入ると窓から東京湾の美しい景色が広がった。

男は彼をベッドの端に座らせると、彼のボタンダウンシャツの第一ボタンを外した。男の瞳にはありありと欲情の炎が灯った。彼のシャツを肩から外すと、手の甲で鎖骨の下を撫でた。少しずつ下に手をずらしていく。胸の飾りまで下りてくると掌をかえした。人差し指の指の腹で胸の先端を愛撫をはじめた。

その間も彼の目を見続けている。あまりに色気のあるその表情に彼はすっかり魅入られてしまい、ただただされるがままになっていた。男の愛撫は執拗だった。口づけの甘さに彼は酔いしれた。

若い男は男に抱かれるのは初めてだった。女を抱いたことくらいはあったが、男とベッドで絡む日がくるなど想像もしたことがなく、どうして自分がこうもあっさりとこの男の手中に落ちたのか訝しく思っているようだったが、男の余りにも自然な仕草や振る舞いが彼の頭を狂わせていた。

男は彼の中に入る準備を始めた。男はホテルに予約を取った時に必要なものも用意させていたようだった。

「初めてか?」
「ああ」
「俺はお前抱くのは初めてじゃねぇよ」
「え?俺はあんたと初めて会ったんだが?」
「体が覚えてると思うぜ、俺様をよ」

男は、懐かしいものを見るように目を細め彼の頭を撫でた。男との行為でこんなに快楽を得られると思わなかった彼はすっかり男の虜になった。

事後、男の腕枕でまどろんでいた彼に男が聞いてきた。

「さあ、言え、どうしてた?この100年間」
「100年?どういうことだ?」
「俺に抱かれても思い出さないか?俺のことを?」
「意味がわからないが?」
「そうか、仕方ないな。なら、初めましてからやり直しだな」
「何を言っているのか全然わからないんだが?」
「まあ、いいさ。俺は海邦元哉かいほうげんやだ。24歳、海上保全官だ。お前は?」
「木月海音かいとだ。22歳、この春から海上保全庁に採用になった」
「おお、今日は海上情報部に来てたんだな」
「ああ、そうだ」
「所属は?」
「いや、海保学校の学生だ。一般大学からの採用だからこれから訓練を受ける」
「そうか、じゃあ、これから舞鳥か?22から訓練というのも結構きついな」
「ああ、でも俺は体育大の出身だから体は鍛えている」
「おお、道理でな。お前の腹筋、見事なシックスパックだもんな」
「あんたの上腕の太さも凄いな、女のウェスト並みだ。あんたは海保大出身か?」」
「そうだ、たたき上げの河童だよ。俺はC管区の所属だ。はやくお前と巡視艇に乗りたいな」
「先輩、よろしくお願いします」
「ああ、バディーになりたいな、お前と。待ってるからな」

海邦は木月と連絡先を交換し、休暇がとれたら舞鳥に会いに行くからと約束し、折れるかと思うほど木月海音を抱きしめた。

海邦元哉は日本帝国海軍の元帥であった海邦元哉の玄孫だ。あまりにそっくりに生まれたので元哉という名を親がつけた。

木月海音は、帝国海軍大将の木月海音の玄孫だった。こちらも偶然、あまりによく似た口元をしていたので海音と名付けられた。

元哉の回想は100年前に飛んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました!

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛

冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・

月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。 けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。 謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、 「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」 謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。 それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね―――― 昨日、式を挙げた。 なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。 初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、 「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」 という声が聞こえた。 やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・ 「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。 なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。 愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。 シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。 設定はふわっと。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

処理中です...