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若い男が一人、お台場の自由の女神像をなんともなしに見上げていた。視線を遠くへ向けるとレインボーブリッジの向こうに東京タワーが小さくその優美な造形美を見せている。
突然、視線を感じて彼が振り向くと、かなり高いところに男の目が光っていた。夕陽が反射して赤く見える瞳。ふんわりと下している明るい茶色の長髪は柔らかそうだった。
「よう!」
そう言って、彼との距離を縮めてくる。すぐ側に立たれたので彼は首を後ろに逸らしてその男の瞳を見上げざるを得なかった。
しばらく見つめ合っていると、背の高い男はいきなり彼の両脇に手を差し入れた。そのまま彼を抱き上げ、自分の腕を止まり木にして彼を座らせた。そうすると、彼の視線のほうがその男の視線より高くなった。男は彼の瞳を見上げた。
若い男は何を思ったのか、その長身の男の髪の中に指を差し入れた。見た目通り、男の髪は柔らかかった。そして、それが当たり前のことのように男の唇に自分の唇を重ねた。
周囲の観光客らがどよめいた。ただでさえその大きさで目立つ男が男を抱き上げたと思ったら、次の瞬間、口づけを交わしているのだ。
男は彼を下ろして着地させると、手を差し出した。彼の手を握るといきなり走り出す。自由の女神像に沿って緩やかに下りていく板張りの遊歩道を、かなり上背のある男が一回り小さい男の手を引いて走り下りていく。
何事だと騒ぐ観光客らを尻目に、長身の男は楽しそうに細身の若い男に悪戯っぽい目を向けながら、華やかな笑い声をたてた。
お台場海浜公園の砂浜を男を引きずりながらその長身の男は走った。引っ張られる男はつんのめりそうになりながらその男の大きな歩幅についていこうとちょこまか脚を動かしていた。
「ここ知ってるか?」
男が指さしているのは、レインボーブリッジの遊歩道だった。
「真下に海が見えて迫力あるぞ」
橋の上から東京湾を見下ろした。男は彼の肩を抱いた。彼がその男の横顔を見上げると、男は彼に口づけを落とした。最初は髪に、そして額に、瞼に…。男の唇が彼の唇を捉えると、彼は体中を戦慄が走るのを感じた。男の舌が彼の口内を這いまわっていた。
「お前を抱いてもいいか?」
男は耳打ちすると、彼はひとつ頷きを返した。男が連れて行ったのはゆりかもめの駅から数歩のところにあるホテル・オブ・ザ・イヤーを受賞したことのあるデザイナーズホテルだった。部屋に入ると窓から東京湾の美しい景色が広がった。
男は彼をベッドの端に座らせると、彼のボタンダウンシャツの第一ボタンを外した。男の瞳にはありありと欲情の炎が灯った。彼のシャツを肩から外すと、手の甲で鎖骨の下を撫でた。少しずつ下に手をずらしていく。胸の飾りまで下りてくると掌をかえした。人差し指の指の腹で胸の先端を愛撫をはじめた。
その間も彼の目を見続けている。あまりに色気のあるその表情に彼はすっかり魅入られてしまい、ただただされるがままになっていた。男の愛撫は執拗だった。口づけの甘さに彼は酔いしれた。
若い男は男に抱かれるのは初めてだった。女を抱いたことくらいはあったが、男とベッドで絡む日がくるなど想像もしたことがなく、どうして自分がこうもあっさりとこの男の手中に落ちたのか訝しく思っているようだったが、男の余りにも自然な仕草や振る舞いが彼の頭を狂わせていた。
男は彼の中に入る準備を始めた。男はホテルに予約を取った時に必要なものも用意させていたようだった。
「初めてか?」
「ああ」
「俺はお前抱くのは初めてじゃねぇよ」
「え?俺はあんたと初めて会ったんだが?」
「体が覚えてると思うぜ、俺様をよ」
男は、懐かしいものを見るように目を細め彼の頭を撫でた。男との行為でこんなに快楽を得られると思わなかった彼はすっかり男の虜になった。
事後、男の腕枕でまどろんでいた彼に男が聞いてきた。
「さあ、言え、どうしてた?この100年間」
「100年?どういうことだ?」
「俺に抱かれても思い出さないか?俺のことを?」
「意味がわからないが?」
「そうか、仕方ないな。なら、初めましてからやり直しだな」
「何を言っているのか全然わからないんだが?」
「まあ、いいさ。俺は海邦元哉だ。24歳、海上保全官だ。お前は?」
「木月海音だ。22歳、この春から海上保全庁に採用になった」
「おお、今日は海上情報部に来てたんだな」
「ああ、そうだ」
「所属は?」
「いや、海保学校の学生だ。一般大学からの採用だからこれから訓練を受ける」
「そうか、じゃあ、これから舞鳥か?22から訓練というのも結構きついな」
「ああ、でも俺は体育大の出身だから体は鍛えている」
「おお、道理でな。お前の腹筋、見事なシックスパックだもんな」
「あんたの上腕の太さも凄いな、女のウェスト並みだ。あんたは海保大出身か?」」
「そうだ、たたき上げの河童だよ。俺はC管区の所属だ。はやくお前と巡視艇に乗りたいな」
「先輩、よろしくお願いします」
「ああ、バディーになりたいな、お前と。待ってるからな」
海邦は木月と連絡先を交換し、休暇がとれたら舞鳥に会いに行くからと約束し、折れるかと思うほど木月海音を抱きしめた。
海邦元哉は日本帝国海軍の元帥であった海邦元哉の玄孫だ。あまりにそっくりに生まれたので元哉という名を親がつけた。
木月海音は、帝国海軍大将の木月海音の玄孫だった。こちらも偶然、あまりによく似た口元をしていたので海音と名付けられた。
元哉の回想は100年前に飛んだ。
突然、視線を感じて彼が振り向くと、かなり高いところに男の目が光っていた。夕陽が反射して赤く見える瞳。ふんわりと下している明るい茶色の長髪は柔らかそうだった。
「よう!」
そう言って、彼との距離を縮めてくる。すぐ側に立たれたので彼は首を後ろに逸らしてその男の瞳を見上げざるを得なかった。
しばらく見つめ合っていると、背の高い男はいきなり彼の両脇に手を差し入れた。そのまま彼を抱き上げ、自分の腕を止まり木にして彼を座らせた。そうすると、彼の視線のほうがその男の視線より高くなった。男は彼の瞳を見上げた。
若い男は何を思ったのか、その長身の男の髪の中に指を差し入れた。見た目通り、男の髪は柔らかかった。そして、それが当たり前のことのように男の唇に自分の唇を重ねた。
周囲の観光客らがどよめいた。ただでさえその大きさで目立つ男が男を抱き上げたと思ったら、次の瞬間、口づけを交わしているのだ。
男は彼を下ろして着地させると、手を差し出した。彼の手を握るといきなり走り出す。自由の女神像に沿って緩やかに下りていく板張りの遊歩道を、かなり上背のある男が一回り小さい男の手を引いて走り下りていく。
何事だと騒ぐ観光客らを尻目に、長身の男は楽しそうに細身の若い男に悪戯っぽい目を向けながら、華やかな笑い声をたてた。
お台場海浜公園の砂浜を男を引きずりながらその長身の男は走った。引っ張られる男はつんのめりそうになりながらその男の大きな歩幅についていこうとちょこまか脚を動かしていた。
「ここ知ってるか?」
男が指さしているのは、レインボーブリッジの遊歩道だった。
「真下に海が見えて迫力あるぞ」
橋の上から東京湾を見下ろした。男は彼の肩を抱いた。彼がその男の横顔を見上げると、男は彼に口づけを落とした。最初は髪に、そして額に、瞼に…。男の唇が彼の唇を捉えると、彼は体中を戦慄が走るのを感じた。男の舌が彼の口内を這いまわっていた。
「お前を抱いてもいいか?」
男は耳打ちすると、彼はひとつ頷きを返した。男が連れて行ったのはゆりかもめの駅から数歩のところにあるホテル・オブ・ザ・イヤーを受賞したことのあるデザイナーズホテルだった。部屋に入ると窓から東京湾の美しい景色が広がった。
男は彼をベッドの端に座らせると、彼のボタンダウンシャツの第一ボタンを外した。男の瞳にはありありと欲情の炎が灯った。彼のシャツを肩から外すと、手の甲で鎖骨の下を撫でた。少しずつ下に手をずらしていく。胸の飾りまで下りてくると掌をかえした。人差し指の指の腹で胸の先端を愛撫をはじめた。
その間も彼の目を見続けている。あまりに色気のあるその表情に彼はすっかり魅入られてしまい、ただただされるがままになっていた。男の愛撫は執拗だった。口づけの甘さに彼は酔いしれた。
若い男は男に抱かれるのは初めてだった。女を抱いたことくらいはあったが、男とベッドで絡む日がくるなど想像もしたことがなく、どうして自分がこうもあっさりとこの男の手中に落ちたのか訝しく思っているようだったが、男の余りにも自然な仕草や振る舞いが彼の頭を狂わせていた。
男は彼の中に入る準備を始めた。男はホテルに予約を取った時に必要なものも用意させていたようだった。
「初めてか?」
「ああ」
「俺はお前抱くのは初めてじゃねぇよ」
「え?俺はあんたと初めて会ったんだが?」
「体が覚えてると思うぜ、俺様をよ」
男は、懐かしいものを見るように目を細め彼の頭を撫でた。男との行為でこんなに快楽を得られると思わなかった彼はすっかり男の虜になった。
事後、男の腕枕でまどろんでいた彼に男が聞いてきた。
「さあ、言え、どうしてた?この100年間」
「100年?どういうことだ?」
「俺に抱かれても思い出さないか?俺のことを?」
「意味がわからないが?」
「そうか、仕方ないな。なら、初めましてからやり直しだな」
「何を言っているのか全然わからないんだが?」
「まあ、いいさ。俺は海邦元哉だ。24歳、海上保全官だ。お前は?」
「木月海音だ。22歳、この春から海上保全庁に採用になった」
「おお、今日は海上情報部に来てたんだな」
「ああ、そうだ」
「所属は?」
「いや、海保学校の学生だ。一般大学からの採用だからこれから訓練を受ける」
「そうか、じゃあ、これから舞鳥か?22から訓練というのも結構きついな」
「ああ、でも俺は体育大の出身だから体は鍛えている」
「おお、道理でな。お前の腹筋、見事なシックスパックだもんな」
「あんたの上腕の太さも凄いな、女のウェスト並みだ。あんたは海保大出身か?」」
「そうだ、たたき上げの河童だよ。俺はC管区の所属だ。はやくお前と巡視艇に乗りたいな」
「先輩、よろしくお願いします」
「ああ、バディーになりたいな、お前と。待ってるからな」
海邦は木月と連絡先を交換し、休暇がとれたら舞鳥に会いに行くからと約束し、折れるかと思うほど木月海音を抱きしめた。
海邦元哉は日本帝国海軍の元帥であった海邦元哉の玄孫だ。あまりにそっくりに生まれたので元哉という名を親がつけた。
木月海音は、帝国海軍大将の木月海音の玄孫だった。こちらも偶然、あまりによく似た口元をしていたので海音と名付けられた。
元哉の回想は100年前に飛んだ。
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