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第三章

122話 改めまして

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 商会エリアに足を踏み入れた直後に、エリクとレオンに飛びつかれて、俺は目を白黒させた。
 焦る二人を落ち着かせ話を聞くと、一緒に来ていたティオだけ迷子になってしまったらしい。
 エリクとレオン、トリスタンとラルフに分かれてエリア内を探しているが、なかなか見つけられないとのことだった。
 もしかして誘拐されてしまったのではないかと、エリクは真っ青になっている。
 一刻を争う可能性もあると考え、俺はココを呼び出した。

「きゅ」

 影から飛び出したココは、俺の肩に着地した。
 ココは魔獣としての格が上がり、体の大きさを操れるようになっていた。
 人が多い場所では、出会った頃のような子獣のサイズで現れてもらっている。
 その方が目立たないからだ。
 
「ココ、ティオを探せる?迷子になってしまったみたいなんだ」
「きゅ!」

 ココは頼もしくも力強く鳴き、地面に降りると、ふんふんと匂いを嗅ぎ出し、ある方向へと走り出した。
 俺は、レオンとエリクと共にココの後を追いかける。
 商会エリアは人が多く、小さいココはするすると器用にすり抜けて行くので、見失わないようにするのに苦労した。
 ココが一足先に到着した、とある商会のテントの中には、すでにラルフとトリスタンの姿があった。
 先にティオを見つけることが出来たらしい。
 良かったと思いつつ、俺は末っ子の名前を呼んだ。

「ティオ!」

 そして、こちらを振り返ったティオの周りの人達を見て、俺の表情は一瞬固まった。
 懐かしい顔ぶれに、そこがベルボルトの実家が出店している店であることに気づく。
 しまった!と思ったが、走ってる俺は急には止まれない。
 ままよ!と、まずはティオの無事を確認しなければと、俺はそのまま店に飛び込んだ。



「ティオ!無事で良かった!」

 ティオをぎゅっと抱き締めているのは、ミルクティー色の髪に青い瞳の青年だった。
 魔法士の服を着ており、ベルボルトとニコラは戸惑うように、その光景を眺めている。
 その青年は、自分たちの知っている友人に似ていた。
 似ていたのだが、髪色や瞳の色が違い、何よりも身分が違うようだったからだ。
 トリスタンが青年へと跪き、頭を下げた。

「フィン様。申し訳ございません。ティオ様を危険な目に晒してしまいました。全て私の落ち度でございます」
「それなら私もです!二人も付いていながら、誠に申し訳ございませんでした」

 後から現れたもう一人の使用人も跪き、頭を下げた。
 フィンは、ティオから手を離すと立ち上がり、使用人を見下ろした。

「二人とも。処分は追って伝える。今は、そのまま職務を続けなさい」
「「はっ!」」
 
 使用人へ厳しい言葉をかけるフィンに驚いたのは、ベルボルトたちだけではなかった。
 ラルフと、ラルフにそっくりな少年が飛び上がり、フィンに縋り付く。

「兄さま!待ってください!僕がティオの手を離しちゃったのが悪いんです!」
「僕も、ティオをちゃんと見ていなかったのが悪いんです!」
「トリスタンは、ちゃんと僕たちのことを見てくれてました!」
「エリクも僕たちをちゃんと守ってくれてました!」
「「だから、二人を辞めさせないで下さい!!」」

 冷たい顔をしていたフィンは、弟たちから必死に訴えられ、困ったようにすぐに表情を緩め、眉を下げた。
 それを見たイドが吹き出す。

「ちょっとイド!笑わないでよ!」

 むぅっと頬を膨らませたフィンを見て、ベルボルトは『あ、ゴーちゃんだ』と思った。
 ため息を吐いたフィンは、弟たちに向き直ると、二人の背中を優しく叩いた。

「ラルフ、レオンも、少し落ち着きなさい。誰も辞めさせるなんて言ってないでしょ」
「で、でも」
「だって、兄さま処分するって…」
「ティオを見失ったことは、二人の失態だからね。あってはならないことだ。何事もなかったから、お咎め無しってわけにはいかないんだよ。僕が二人に罰を与えなければ、その役割を父上がすることになる。この意味は分かるかい?父上は優しいけど、僕みたいに甘くはないんだよ」

 ラルフたちは納得したのか、それ以上フィンに言い募ることはなかった。
 二人の頭を撫でたフィンは苦笑し、ベルボルトたちの方へと顔を向ける。
 見慣れぬ青い瞳に見つめられ、ベルボルトはゴクリと唾を飲み込んだ。



 顔を上げて視線を向けると、ベルボルトが緊張したように背筋を伸ばした。
 ニコラは眉を寄せて不機嫌な顔で、イドは面白がるように口角を上げており、スヴェンは穏やかな顔をしていた。
 イドには、卒業旅行の際に二人で話をした時に、成り行きで貴族であることは打ち明けてある。
 スヴェンには、それをたまたま立ち聞きしてしまったと、後から言われた。
 だから、問題はベルボルトとニコラだ。
 二人は俺が友人のフィンであることを、何となく察しているのだろうが、まだ半信半疑なのかもしれない。
 説明の前に、まずは状況を把握しなければと、俺はエリクに弟三人を預け、トリスタンに経緯を尋ねた。

「この方たちが、迷子のティオ様を見つけ、こちらで保護して下さってました」

 誘拐されることもなく、俺の友人に保護してもらえるなど、ティオは運が良い。
 トリスタンから四人に視線を戻した俺は、ニコッと笑いかけた。

「僕の弟を助けてくれてありがとう。みんな久しぶりだね!」

 言い終わった瞬間、ニコラからゴンっと拳骨を落とされた。

「いたい!」
「「フィン様!」」
「てめぇ。やっぱりフィンか!説明しろ!」
「ヒィィィィ!ニコラ何しとんねん!こちらお貴族様やぞ!!」
「はぁ!?んなこと一言も言ってねぇだろが!」
「状況で察しぃや!このアンポンタン!」

 ニコラは激おこで、ベルボルトはビビっていた。
 俺が殴られたのを見て怒った従者と、喧嘩っ早い友人との間で一触即発の空気になり、俺が場を収めるのに苦労したのは言うまでもない。
 


「何度も言ってるけど、暴力反対だよ。ニコラ」
「ふん。再会のスキンシップだっつーの」

 どこがだよ。
 俺は過保護な従者により、氷嚢を頭に乗せられていた。
 タンコブはできていないと思うのだが、それでエリクが安心してくれるなら、我慢するしかない。

「ベルボルト。ごめんね、黙ってて」
「いやぁ、ホンマやで。人生最大のビックリやったわ。ちゅーことはやで、魔術大会に出場する宰相の息子って、ゴーちゃんのことなんか?」
「そうだよ」
「何で出場者枠の時間に来場してへんかったん?」
「仕事が入って見に来れなかったんだよね。だから、今から魔道具探しをしようと思って来たんだ」

 それならば、ぜひうちの店で!とベルボルトは遠慮することなく宣伝してくる。
 時間もないし、そのつもりだった。
 迷惑もかけちゃったしな。
 ベルボルトのお兄さんは、戻ってきたら迷子の保護者が見つかっていたことを喜んでくれた。
 ついでに、大会出場する俺の存在を知って驚愕し『今から貸切にしますから!』とベルボルトに丁重に案内するよう言い含め、出て行ってしまった。
 どこに行ったのかは知らないが、申し訳ないことをした。
 話が一段落したところで、ラルフがティオを連れて近寄ってきた。

「兄さま。ティオ、これ気に入ったみたいなんだ。買ってあげてもいい?」

 ラルフに促され、ティオはおずおずと手に持った木彫りを見せてくれた。

「へぇ、ココに似てるね」
「きゅ?」

 ココは木彫りを見て、眉間に皺を寄せ首を傾げた。
 似ているか?と不満なようだ。

「いいよ。僕がプレゼントしてあげる。ラルフもレオンも、何か欲しいものがあれば、兄さまが買ってあげるから持っておいで」
「やった!」
「兄さまありがとう!」
「一個だけだよ」
「「はーい!」」

 一個だけという言葉に、ニコラがケチ臭いと言った。
 お黙り。
 貴族と言えど、うちは幼少期から贅沢はしない教育方針なのです。
 決して、俺の懐が寂しいからじゃないぞ。
 
 
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