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第三章

111話 翌朝

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 短パンから伸びる真っ白い足が目に眩しい。
 赤くなっている痕を見つけ、昨日の夜を思い出した。
 手を伸ばしたいが、先にその足にするりと触れる物があった。
 それは、自分の物だと主張するように巻きつき、俺を牽制してくる。

「ひゃっ。くすぐったいよ、ココ」

 めっ、と可愛く怒るフィンは、それでもココの尻尾を拒否はせず、そのまま好きにさせた。

「きゅ」
「後でブラッシングしてあげるから、大人しくしててね」
「ピュイ」

 ふわふわのフィンの頭には、黒い生き物もへばりついていた。

「ピューイも、後で撫で撫でしてあげるからね」
「ピュイ!」

 すりりっとフィンの頭に懐いているのは、何時ぞやの悪魔のペットだった。
 あの時帰ったはずでは、と疑問を抱きつつ、ココと視線で火花を散らしていると、フィンが俺に気づいた。

「ライン?起きたんだ。おはよう」

 少し恥ずかしそうな笑顔を向けられ、胸がきゅうっと苦しくなった。
 起きた時にベッドにフィンがいないことにガッカリしたものの、それを帳消しにしてお釣りがくるほどの可愛さに胸を貫かれる。

「?どうしたの?」
「んんっ。いや、何でもない。おはよう」
「ゴットは?」
「まだ寝てる」
「そっか。もうすぐ朝食できるから。先に顔洗ってきて。シャワーも浴びたかったらどうぞ」

 ついでにゴットフリートも起こしてきて欲しいと頼まれ承諾し、幸せそうな顔をして眠っている兄をベッドから蹴り落とした。
 早く起きろ。
 夢ではなく、現実の方も薔薇色だぞ。


 朝食の席でピューイのことを聞かれ、俺は説明を忘れていたことに気づいた。

「ピューイちゃんです」
「ピュイ!」
「あぁ」
「うん」

 双子からは戸惑ったような返事が返ってきた。

「あの時に悪魔と帰ったんじゃなかったのか?」
「帰ったんだけどね、また来たの」

 黒い生き物、ピューイ(やむなく名付けた)は、再び俺に会いたかったようで、自力でやって来た。
 帰った日から二週間くらい経った頃、何もない空間から突如ポンっと現れた。
 留学先に戻っていた俺は驚き、慌てて隠した。
 その時は学校にいて、大勢生徒がいる場所だったこともあり、魔物が現れるなど非常にまずいと感じたからだ。

『どないしたんや、ゴーちゃん?』
『ななななな、何でもない!ぼ、ぼ、僕、ちょっとトイレ!』

 次の教室に移動中で、俺はピューイを教科書と服で誤魔化して隠し、飛んで逃げた。
 ベルボルトは俺が腹でも壊したと思ったようで、後で心配してくれた。
 誰もいない校舎裏まで辿り着くと、腕の中の黒い生き物を確かめるように持ち上げた。

『君、あの時の子だよね?どうやって来たの?』
『ピュイ!ピュイピュイピュイ~』

 すりすりすりっと頬擦りされた。
 凄く喜んでいるが、何を言われているのか、やっぱりよく分からない。
 その時、可愛い声が頭上から降ってきた。

『あーっ!やっぱりここにいた!ペットちゃん!勝手に来ちゃ駄目って言ったでしょ!!』

 淫魔である。
 お前もどうやって来たんだと唖然とした。
 一度召喚したら、行き来が自由になってしまったのだろうかと、狼狽する。
 むんずと淫魔に引き取られたピューイはしょんぼりした。

『ピュィィ』
『もう。君はこっちの世界にいちゃ駄目なんだよ。ごめんね、フィン』

 俺が心配するほどのこともなく、淫魔はピューイを連れて、あっさりと帰って行った。

『何だったんだ?』

 首を傾げつつも、何も起こらなくて良かったと胸を撫で下ろした。
 しかし、それから数日後、今度は眠っている時に、再びポンっと現れた。
 ペタリと顔に張り付かれ、鼻と口を塞がれて窒息死するかと思った。
 その次の日は、シャワーを浴びてる時にポンっと現れ、追いかけて来た淫魔に全裸を見られた。

『やーん!フィンってば、真っ白だね。吸い付きたくなるようなお肌♡』

 色々触られたことは、誰にも絶対秘密である。
 その後も、現れては連れ戻されの淫魔とピューイの攻防は続いた。
 そして、最後に折れたのは淫魔だった。
 
『もうね。僕、疲れちゃった。仕方ないからフィンの使い魔にしちゃおう』
『何がどう仕方なくてそうなるの?』

 誰かから預かっているのではないのかと問うたが、あんなオッサンほっとけばいいと言われた。
 どんなオッサンか知らんが、それはほっといても俺に害はないのか。

『大丈夫大丈夫。ペットちゃんの意思だって言ったら、納得してくれるよ。多分』
『多分て。そんな無責任な』
『でも、こっちに置いとくのに鎖がなくて野放しな方が無責任だよ?オッサンの一部だから預かってるだけだし、無くさないように言われてるだけだから。場所が分かれば問題ないでしょ』

 軽い。軽すぎる。

『オッサンの一部?なのに使い魔契約できるの?』
『一部っていうか、派生してペットちゃんが生まれた感じかな。だから、別個体ではあるから可能だよん。さぁ、サクッと契約しよ!』

「てな感じで契約して、僕の闇属性の使い魔になりました」
「ピュイ!」
「へぇ」
「そう」

 うん。無理矢理納得した感じだな。
 双子は、随分前から使い魔になって問題ないなら大丈夫だろうと結論を出したのかもしれない。

「もう隠し事はないか?」

 ラインハルトから聞かれ、俺は顎に手を当てて考える。

「ない、と思う」

 一人暮らしのことも、ピューイのことも喋ったし、ヴィルヘルムと体の関係を持っていたことも、昨日の夜で知られた。
 最後までしてないことも。

『『フィン』』

 二人の手に翻弄された昨夜を思い出し、俺は顔が熱くなるのを感じた。
 俺を囲うように座っていたココの尻尾を掴み、顔を埋めて隠す。
 双子はそんな俺の様子を見て、くすりと笑った。

「フィン、また泊まりに来てもいいか?」

 ゴットフリートの甘い声音に、俺はふるりと身を震わせ『たまになら』と、小さな小さな声で、答えたのだった。


 
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