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第三章

109話 教えて欲しいの

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 鼻歌を歌いながら、軽い足取りで歩く俺の手を、ラインハルトが掴んだ。恥ずかしいけど嬉しくて、俺はその手をきゅっと握り返す。

「へへっ」
「ご機嫌だな」
「そんなに楽しかったのか?」

 ゴットフリートの言葉に、俺は力強く頷いた。

「うん!だってゴットとラインの話がいっぱい聞けたんだもん。楽しかったよ!」

 俺は、エルマーとファビアンに、双子の話を聞かせて欲しいと強請った。

『聞いてみたいこと、それはね。ゴットフリートとラインハルトが、学校でどんな感じなのか教えてほしいの!』

 その俺の言葉に、初めは二人とも素直には教えてくれなかった。
 だけど『人に教えるほど双子のこと知らないのか』と挑発したら、ムッとして、あっさりと色々喋ってくれた。
 授業を受けている姿、食堂で何を注文しているのか、昼休みには何をしていて、学校行事はどんなことに参加したのか。

『でね、ずっと打ち合いが続いてたんだ。勝負は、まさに一瞬だった!殿下の剣を弾いた瞬間、すごい歓声だったんだから!』

 興奮しながら、自分のことのように自慢するファビアンに、俺は悔しがった。

『あーっ!観たかった!そんな凄い勝負だったなら尚更!』

 これは、春に行われた王立高等学園武術大会での話だ。
 剣術部門決勝戦で、ヴィルヘルムとゴットフリートが勝負した。結果、ヴィルヘルムは惜しくもゴットフリートに負けてしまったのだ。
 生徒以外の見学も可能だったので、俺も観に行きたかったのだが、うまく休みが取れず、仕事があって行けなかった。

『ラインハルト様だって凄かったんだよ!三位決定戦で、去年優勝した先輩に圧勝したんだから!』

 エルマーも負けじと主張してくる。
 初めはツンツンしていた二人は、俺が羨ましそうに話を聞くので、少しずつ態度が軟化していき、最後には女子会みたいなノリで双子の話で盛り上がった。
 話題の中心である双子は、隣のテーブルで恥ずかしそうにしながらも、俺が楽しそうに喋っていたからか、最後まで好きにさせてくれた。

「二人ともごめんね。せっかくのデートだったのに、僕の我儘を優先させちゃって」
「本当にとんだ我儘だったな。まぁ、最初に邪魔したのはオスカーたちだったが」

 やっぱりシメておけば良かったかなと、ラインハルトはボソリと呟いた。
 思い出したら、また腹が立ってきたようだ。

「オスカーたちと友達になれて、僕は嬉しかったよ」
「ならなくてよかったのに」

 ラインハルトは、すごく悲しそうな顔をした。

「アルフレートの奴も、ずいぶんとフィンに懐いていたな」

 ゴットフリートも、がっかりした顔で呟いた。
 何故だ。
 仲悪いよりはいいと思うんだけど。
 そう考えながら歩いているうちに、最近やっと見慣れてきた屋根が見えてきた。

「ゴット、ライン。あそこだよ」


 こじんまりとした一軒家の扉の鍵を開けて、俺は中に入る。

「ただいまー」
「お帰りなさいませ。フィン様」
「わっ!エリクいたの?」

 癖で帰宅の挨拶をしたが、誰もいないと思っていたので、少々驚いた。

「はい。本日はこちらでお過ごしとお聞きしておりましたので」

 三日前に仕事で遠征から帰った俺は、一週間の休みをもらっていた。
 昨日は久しぶりに王都にある屋敷に泊まったが、今日は違うと分かり、簡単な掃除や食料の補充をしに来てくれていたらしい。
 入浴の準備も整っていると言われた。
 至れり尽くせりで有難いが、過保護過ぎて少々恥ずかしくなる。

「ありがとう、エリク。あとは自分で出来るから大丈夫だよ」
「承知致しました。では、私は屋敷に戻らせていただきます。ゴットフリート様、ラインハルト様も、ごゆっくりお過ごし下さいませ。それでは失礼致します」

 有能な俺の従者は、俺の気持ちをきちんと汲み取って、早々に退散してくれた。

「ゴットもラインもどうぞ入って」
「あぁ」
「うん」

 二人は、興味深そうにキョロキョロと室内を見回しながら、俺の後についてくる。
 ここは、俺が現在住んでいる場所だ。
 荷物持ちをしてくれたゴットフリートとラインハルトに礼を言って、買ってきた出来合いのおかずを皿に並べていき、三人で簡単な夕食にする。

「ここに一人で住んでるのか?」
「うん。ほぼ寝に帰ってるようなものだけどね」
「いつからだ?」
「んー?もう三ヶ月くらいになるかな」
「何でここに住むことになったんだ?」
「まぁ、色々あって。屋敷から職場まで微妙に遠いんだよね。思ってた以上に忙しい職場で体力的にも辛くて。だから、本当は騎士団にある隊舎の方に入居しようと思ってたんだけど、それは父上が駄目だって言うから」

 その時に少し父上と揉めた。
 最終的に、騎士団の基地に比較的近い場所で一人暮らしならと、許可してもらったのだ。
 賃貸のアパートにでもしようかと思っていたのだが、父上がこの家を提示してきた。
 父上の所有している物件の一つで、今は誰も住んでいないから、ここにしなさいと言われた。
 これ以上、父上と気まずくなりたくないと思い、俺は承諾して、今は父上に家賃を払い、この家を借りて住んでいるというわけだ。
 オプションなのか本人たちの意思なのか、定期的にエリクとトリスタンが世話しに来るというオマケまでついた。
 話を聞いた双子は可笑しそうに笑った。
 
「相変わらず過保護だな」

 本当にな。
 びっくりするくらい過保護である。
 俺は箱入り娘か。

「大事にされてる自覚はあるよ」
「それなのに、俺たちが泊まるのは良かったのか?」

 ラインハルトから揶揄うように言われ、俺は赤くなった。

「…いい。こ、恋人だし、婚約者だもん。それに、ヴィルも泊まったこと、あるし」

 その言葉に、双子の瞳に嫉妬の炎が灯ったような気がした。
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