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番外編

79.5話 お庭パーティー

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 こちらは79話でクラーケロートを捕まえた後のお話しです。本編ではパーティーがあったよって感じでサラッと流してしまいましたが、良ければお楽しみください。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




 先生の『教師一周年記念&契約更新お祝いパーティー』開催日は、晴天だった。
 場所は、先生が現在住んでいる一軒家を提供してもらい、そこのお庭でバーベキューをすることになっている。
 俺たちは、わいわいと楽しみながら、その準備に取り掛かっていた。


「つまり、その相手のことを、自分がほんまに好きか自信が持てへんってことやな?」

 俺は神妙に頷きつつ、手を動かす。
 茹でたクラーケロートをぶつ切りにして皿に移し、次は生地作りをしようと、ボールに小麦粉や出汁などを入れていった。

「友達としては大好きなんだ。でも、それが恋愛の意味で好きなのか、よく分かんないんだよね。だから会って確かめてみたいんだけど、今は距離もあるし、なかなか会えなくて」

 ベルボルトの相談に乗ったるコールに根負けした俺は(別の相談事は思いつかなかった)仕方なく、全体をぼかして自分の悩んでる件について相談してみることにした。
 ベルボルトは、野菜と肉を交互に串に刺した物を大皿に並べつつ『甘酸っぱいなぁ!』と悶えている。

「フィン。唐揚げできたぞ」
「わぁ、美味しそう!イド、ありがとう」

 山盛りのクラーケロートの唐揚げを見て、ニコラがさっと手を伸ばし、素早く口に入れた。

「あちっ!はふっ、ん!美味えな!」
「おい、つまみ食いすんなよ」

 イドが呆れたような顔をして注意する。

「フィン。買ってきたぞ」
「ありがとう。スヴェン。ディルちゃんも。氷出すから、冷やしておこう」

 俺は庭に行き、大きな桶に水と氷を魔法で出した。そこに買ってきてもらったワインやジュースの瓶を入れていく。

「フィン、炊き上がったけど、味見してくれるか?」
「うん!ヤンくんは食べてみた?」
「あぁ。美味かったぞ。でもフィンが思ってる味と同じか分からないからな」

 少し食べてみると出汁の風味で、きちんと美味しいタコ飯に仕上がっていた。
 ばっちりです。
 握って焼いて、焼きおにぎりにしてもいいよな、と思っていると、今度はルーちゃんに呼ばれた。

「フィン。テーブルのセッティングできましたよ」
「ルーちゃん、ありがとう。グラスの数とか足りたかな?」
「えぇ、大丈夫ですよ」

 今度はバーベキューの火をおこしている親方に呼ばれ、慌てて飛んでいく。
 すると次はベルボルトに呼ばれ、再び室内に戻った。
 ふぅ。忙しいな。
 でも、もうすぐ先生がリリアーナ様を連れて戻って来てしまうから、早く準備しないと。
 今日の主役と王女様に準備を手伝わせるわけにもいかないので、先生にはリリアーナ様を迎えに行ってもらっていた。
 イドたちと捕まえたクラーケロートは昨日冷凍しておいたので、今日解凍して何種類かの料理に使っている。
 みんなで料理するのは初めてだけど、調理実習みたいで、なかなか面白い。
 パーティーも人数が多い方が楽しいと思って、ルーちゃんやディルちゃんに、親方やヤンくんも誘ったら来てくれたんだ。
 学校で今日のことをイドたちと話していたら、それを聞いたリリアーナ様も参加したいと言ったので、急遽メンバーに加わってもらっている。
 本当に気さくな王女様であった。

「フィン!これはどうするんだ?」
「はいはーい!」

 スヴェンに呼ばれて俺は庭に出ようとし、ニコラがつまみ食いをしようとまた手を伸ばしているのを発見して、それをペシリと払い落とした。
 先生が食べる分がなくなっちゃうだろ!
 めっ!!


 何とか準備が整い、先生とリリアーナ様が到着したので、お庭でパーティー開始だ。
 初めに先生に一言喋ってもらおうとしたら、感動のあまりか途中で泣き出しちゃった。
 泣くほど喜んでもらえて嬉しいけど、みんな驚いてるよ。
 ルーちゃんとディルちゃんは苦笑してるけどね。

「先生!おめでとうございます!これからまた一年間よろしくお願いしますね。皆さん、グラスは持ちましたか?では、カンパーイ!」

 俺にとっては、今世で初めてのバーベキューである。
 鉄板や網などは親方が提供してくれたし、飲み物はディルちゃんが買ってくれて、食器類はルーちゃんが貸してくれた。
 食材は、クラーケロートを半分売った時のお金と、みんなからのカンパで買い、調理は俺たち生徒とヤンくんで行なった。
 そしてそして!
 俺の今日一番の楽しみはこれだ!

「フィン。それで何をするの?」

 リリアーナ様がジュースのグラスを片手に近寄って来た。
 俺はキリッとした顔で答える。

「たこ焼きです!」
「たこやき?その頭に巻いてる布は?」
「ハチマキです!」

 さぁ、行くぞ!と俺は油を引いた半円の凹みがついた鉄板に、生地を流し込んでいく。
 この日のために、親方のところにいる手先の器用な職人の人に、たこ焼き専用の鉄板を作ってもらっていたのだ。
 間に合って良かった。
 天かすと生姜やネギに似た具材を入れ、メインの茹でたクラーケロートを一個ずつ入れていく。
 良い感じに焼けてきたので、一緒に作ってもらったピックでひっくり返していった。
 前世の母親が大阪出身で、家にたこ焼き器があり、よく作っていたので慣れたものである。
 転生しても、ちゃんと感覚は覚えていたみたいで安心した。
 くるっくるっ、と器用に丸くしていく俺をリリアーナ様は楽しそうに見ていた。
 焼き上がったものを皿に乗せ、ソースをつけて鰹節もどきをかける。青のりは見つけられなかった。
 残念。
 マヨネーズはお好みで、どうぞ。

「はい。リリ、良かったらどうぞ」
「ありがとう。へぇ、見たことない食べ物ね」
「リリアーナ様。お待ちください。まずは我々が」

 リリアーナ様が口に入れようとしたら、護衛の毒見係の人に止められてしまった。
 仕方ないよね。王女様だもん。
 毒見係の人に食べてもらい、大丈夫と判断してから、リリアーナ様は一口齧った。

「あふっ、ふ、うん!不思議な味だけど、美味しいわ!」

 俺も一個食べてみる。
 外はカリッと、中はとろーりとした生地で、はふはふ言いながら食べた。
 ん~~~~っ、ちゃんとたこ焼きになってる!
 美味い!
 よし、どんどん焼いていくぞ。
 黙々と焼いていたら、火の近くにいるからか段々と汗をかいてきた。
 眼鏡が汗で滑るので途中で外した。

「フィン。前髪が邪魔だろう」

 俺の様子を見に来た先生が、前髪を綺麗に後ろに撫でつけて、髪留めで固定してくれた。
 おでこが涼しくなる。

「先生、ありがとうございます」
「どういたしまして。私にも一つ頂けるかな?」

 嬉しくなって、喜んで!と先生の皿にいっぱい乗せた。
 屋台ごっこみたいで楽しい。
 誰か、たこ焼き屋さん出店してくれないかな。
 絶対流行ると思うんだけど。

「フィン。焼いてばかりいないでお前も食えよ」

 気の利くイドが、全部なくなる前にと一皿に色んな料理を少しずつよそってくれていた。
 何て優しいんだ。

「イド兄ちゃん!ありがとう!」
「誰が兄ちゃんだ、誰が…ん?フィン、お前」

 イドは、振り返った俺の顔を見て少し驚いたように目を見開いた。
 どうしたんだ?

「何?」

 イドは何か言おうとしたが、思い直したように首を横に振った。

「いや、何でもない。ほら、ちょっと休憩して食べろよ。俺が代わりに焼いてやるから」

 皿を強引に持たされ、俺は鉄板の前から追い出された。
 イドは、俺が焼いていたのを一通り見ていたからか、鮮やかな手つきで丸いたこ焼きを作り上げていく。
 俺より上手いんじゃないだろうか。
 さすがイド。
 何でも出来る男だぜ。
 イドに、たこ焼きを皿の上に追加され、俺は熱々のそれを頬張る。
 美味い!
 ニコニコしながら他の料理もモリモリ食べ始めると、それを見ていたスヴェンがジュースの入ったグラスを持って来てくれた。
 礼を言って飲むと、キンっと冷えていて美味しかった。
 その後も、ヤンくんが焼きおにぎりを持って来てくれたり、ベルボルトが果物の入った器を持って来てくれたりと、俺はみんなから餌付けされ続けた。
 そして、何故かみんなは俺に手渡す際、何か言いたそうな顔をする。
 何かと問うても何でもないと言われ、俺は首を傾げつつ、腹がパンパンになるまで食べ続けたのだった。



 同級生たちから餌付けされて、みんなに囲まれながらニコニコ嬉しそうに食べているフィンを見て、ルーカスは笑いを堪えるのに必死だった。

「あれ、絶対気づいてないよな」
「まぁ、そうだろうな」

 ルーカスの言葉を、隣に座り一緒にワインを飲んでいたディルクが肯定した。
 長い前髪と眼鏡で顔を隠していた(隠しきれていたかは別だ)フィンの素顔が晒されている。
 邪魔だろうと前髪を上げさせたユーリに悪気はなく、フィンも自分が変装と称して顔を隠していたことを忘れていた。
 そんなに完璧な変装を求めていなかったせいもある。
 パッチリとした瞳に、長い睫毛。
 もっちりとした肌に、くるくると変化する表情。
 頬をパンパンにして、もきゅもきゅと必死に食べている姿は、一番小柄な体格のせいもあってか小動物のように可愛らしく、見ているだけで癒された。
 『眼鏡外したのか?』と指摘しそうになり、イドたちはそれを直前で飲み込んだ。
 フィンが慌てて前髪を下ろし、眼鏡をかけて再び顔を隠してしまうだろうと予想できたからだ。
 可愛らしい顔をしているのに勿体ない。
 お喋りなベルボルトや遠慮のないニコラまでもが、フィンがその事実に気づくまで、素知らぬ顔をしている。
 友人たちの、ちょっとした悪戯心にフィンが気づくのは、近くの台に置いた自分の眼鏡を見つけた後のことだった。
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