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第二章

72話 先生が先生になりました

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 あの後、無事にドラゴンたちも落ち着き、みんなで帰路につくことができた。
 他の救難信号が出ていた場所も、救助部隊の活躍により、大きな被害が出ることもなく、生徒たちは無事救出された。
 もちろん階級テストは中止。
 テスト結果については、途中までの成績と後日に違う形で再テストを行い、その総合結果で評価する予定らしいが、色々あって教師陣は対応に追われている為、少し先の話になるとルーちゃんが教えてくれた。


「そういえば、先生は何でいるんですか?」

 通常の学校生活が戻ってきていた。
 俺は、再びイドに切り分けてもらったCランチの肉をむぐむぐ食べながら、隣に座って一緒にランチを食べている先生に問いかけた。

「今更か?」
「今更やなぁ」
「今更だな」
「今更かよ、おっそ」

 同じテーブルにいたイド、ベルボルト、スヴェン、ニコラが呆れたように突っ込む。

「フィンはのんびりしているから」

 だから仕方ないですね、とルーちゃんは食後のお茶を優雅に飲みながら言った。
 だが、俺には分かる。
 ルーちゃんも内心では、『はぁ?お前今頃何言ってんだ』と呆れていることを。
 くそぅ。今のは俺の聞き方も悪かった。

「ルーカス先生に誘われて、先生が課外授業の臨時職員として来たことは知ってます!そうではなく。それが終わって二週間も経つのに、何でまだこの国に留まって、更には学校の学食で一緒にご飯食べてるのかなって思ったんです」

 再度聞き直した俺に、そういうことは食べる前に聞けよ、とニコラが呟いたが、無視だ無視。
 先生は俺の言葉を聞いて、片眉を器用にひょいと上げた。

「早く帰って欲しいのか?」
「っ!!」

 そんなわけない!
 そういう意味ではなくと俺が焦っていると、周りから即座に『フィンは酷いなぁ、ユーリ先生可哀想』と、ニヤニヤ笑いながら揶揄われた。
 うるさいぞお前ら。
 特にイドは笑い過ぎだ。
 先生も俺の焦る姿を見て、可笑しそうに笑った。

「ははっ。すまない。冗談だよ」
「先生酷い。早く帰って欲しいなんて、僕は思ってないもん」
「あぁ、分かってる。それに、フィンにそんなことを言われた日には、私は泣いてしまうかもしれん」

 そう言いながらも、俺がそんなことを言うとは微塵も思ってなさそうな顔で微笑まれた。
 くっ。これだからイケメンは。
 その笑顔で許してやらんこともない。

「実はな。この学校の教師が数名突然辞めることになっただろう?教師の数が足りなくなったので急募していると聞き、応募してみたら採用されたんだ」
「そうなの!?」

 臨時教師で期間限定だがな、と言いつつ、先生はとても嬉しそうだ。
 それもそのはず。
 昔、教師になりたかったけど、採用されなかったって言ってたもんな。
 今日は採用の手続きの為に学校を訪れていて、せっかく来たのだからとランチを食べて帰ることにしたそうだ。
 
 数名突然辞めることになった教師たちは、現在は牢屋の中である。
 今回の事件の原因を作ったのが、実は何とこの学校の教師だったのだ。
 魔笛などの呪具を複数持ち込み、生徒たちを唆して使わせたらしい。
 そのターゲットとなったのは、王族や貴族出身で、成績が低迷しており、プライドだけは高い生徒たちだった。
 その中でも、階級テストで手助けをすると言えば喜んで頷いた者たちを選び、甘い言葉を囁いた。

『君は選ばれた人だ。他の者たちは見る目がない。これを使えば、君の真の力が発揮されるはずだよ』

 そんなことを言って言葉巧みに持ち上げ、呪具とは教えず素晴らしい魔道具だと言って渡したそうだ。
 俺が聞いたら『何言ってんだ、このおっさん』とでも思っただろうが、使った生徒はその言葉を信じたのだろう。
 結果、呪具に心身共に蝕まれ、長期療養生活となってしまった。
 俺は知らなかったのだが、去年の階級テストで不正行為の痕跡があったり、その後に教師が一人行方不明になったりと色々あったらしく、ルーちゃんや他の教師が、今年のテストを警戒して密かに監視していたんだって。
 まぁ実際は、去年不正行為に協力した人物と今回事件を起こした人物は別人だったらしいけど。

『どう考えても、生徒だけで不正行為をするのは難しい。だから、協力者がいるんじゃないかと思ってな』

 その予想は当たり、不自然な行動をしている教師(複数)を発見し、証拠を掴んだそうな。
 すごい。
 今回の事件を起こした教師たちは、現国王に対して不満を持つ、前国王を神と崇めている信者たちだった。
 元々は、行方不明になった教師が不正行為に関与しているのを、その犯人である教師たちが突き止め報告した。
 しかし、それを王族側が揉み消したらしい。
 不正行為をした生徒が王族の血縁関係者だったのだ。
 その事実を受け、この国が腐り始めていると危惧した信者たちが『不届き者には制裁を』と今回の計画を立て、学校を巻き込んだ暴動を起こしたというわけだ。
 何も関係ない人を巻き込むことなど言語道断だし、それこそ手を回し自ら不正行為をした犯人たちこそ、罪に問われるべきだ。

『私たちが悪い行いをしたと前王が判断なされば、天罰が下るはずです。その時は、喜んでその罰を受けましょうぞ』

 自らの行いが正しいと信じている犯人たちは、捕まっても堂々とそう言い切ったらしい。
 開き直りではなく、本当にそう信じている信者たちを、俺は怖いと思った。

 そして、今回の事件を知った国王は、この学校のあり方や制度について今一度見直す事を、残った教師たちに約束してくれたそうだ。

『この学校は、いわば聖域。身分という格差に囚われることなく、すべての生徒が自身の力のみで友と切磋琢磨し、成長していく場でなければならない』

 国王は不正行為については直接関わっていなかったらしい。
 不正行為をしようとした側も協力した側にも、それ相応の罰が与えられることが決定した。


『父上からの伝言よ。大きな怪我をさせることなく甥を止めてくれて感謝する、ですって。フィン。私からも感謝の言葉を。ジモン兄を止めてくれて本当にありがとう。あなたも無事に帰ってきてくれて嬉しいわ!』

 学校に戻ってきて再会した後、そう言ってリリアーナ様は、何故か俺に抱きついてきた。
 咄嗟に離れようとしたのだが、その腕が震えていることに気づき、俺はしばらく彼女の好きなようにさせた。
 唆されたとはいえ、従兄が呪具を使い、下手をすれば死人が出たかもしれない事件だ。
 本人も呪具の影響で、今は心身共に危ない状態らしい。
 そして回復すれば、今度は贖罪の日々が待っている。
 だが、それが自分の選択した結果だと受け止め、頑張って生きてほしい。
 幸い、この国の国王陛下は愛情深い人のようだし、真面目に頑張れば、挽回するチャンスだってきっとあるはずだ。

 気持ちが落ち着いたのか、リリアーナ様は照れ臭そうに俺を離してくれた後、いつものようにニコッと笑ってくれた。

『ねぇ、フィン。私たちは、もう友達よね。これからはリリって呼んでくれない?私はあなたともっと親しくなりたいわ』

 それは果たしてどういう意味なのか。
 強気に振る舞っているが弱っているであろうリリアーナ様に否とは言えず、とりあえず名前の件だけについては、頬を引き攣らせながら承諾した俺であった。
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