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第117話 もっとも暗い時間

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 私は二人が……大狼になったルカと、オズワルドが戦うさまを、ただ茫然と見ていました。
 オズワルドが、ルカだった巨大な獣を雷撃で迎え撃ち、雷の槍が、呪文を唱えるたび20、30と現れては、大狼を直撃します。
 しかし雷で撃たれるたび、一瞬足を止めるものの、狼は躊躇なくオズワルドに向かっていくのです。

「くそっ、魔獣ごときがっ……俺の手を煩わせるな!!」

 オズワルドが叫び、木々の間に身を隠しながら、距離をとるように炎の魔法で何度もルカを吹き飛ばします。しかし、炎を受けても、雷で撃たれても、少しもひるまない闇の獣に、私から見てもオズワルドは追い詰められているようでした。

 そう思った刹那、オズワルドを追撃する狼の足が、2,3歩たたらを踏むと、狼は体を支えることができずに倒れこんだのです。

「ルカっ!」

 苦しそうに唸り声をあげるルカに、思わず駆け寄ろうとした瞬間、誰かが私の右腕を強くひき、私は体勢を崩し地面に手をつきました。振り返れば、オズワルドが恐ろしい形相で私の腕をつかんでいます。

「お前だけいればそれでいいんだ!
 さっさと来いっ!」

「いやっ!」

 私を引きずるようにするオズワルドを振り払おうとした瞬間、大きな影が、私たちの間に飛び込みました。
 舌打ちし、すんでのところでオズワルドは身をかわすと、大きく私から距離を取りました。

「ルカ……」

 私とオズワルドの間に飛び込んできた狼は、低く身を伏せ、私を守るように唸り声をあげました。
 見れば、その毛皮はボロボロでした。オズワルドの攻撃が効いていないわけじゃなかったんですね……。

「ははっ、いいザマだな……呪詛で弱っているくせに、鬱陶しい。
 とどめを刺してやるっ……!」

 そうか、急にふらふらしてるのは、呪いのせい……!
 私が解呪の祝詞をルカに向かって唱えると、少し楽になったのか、狼は体を起こし立ち上がります。

 しかし、同時にオズワルドが呪文を唱え終えると、両手をあげたのが見えました。
 なんだか嫌な感じがする、と思った刹那。

 身を裂くような冷気が吹き付け、私は思わず身を縮めました。次の瞬間には、アルドを突き刺したよりも大きな無数の巨大な氷のつららが、ルカの毛皮にいくつも突き刺さっていました。狼はよろめき、倒れまいと踏ん張っているものの、とどめとばかりに、オズワルドが炎の矢を放とうとしているのが見えました。

 このままじゃ、ルカが死んじゃいます。
 その考えが頭をよぎった瞬間、私は思わず呪文とともに叫びました。

「炎よ、私の敵を撃て!」

 
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