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第76話 ヴァイオリノを弾くルカ①
しおりを挟むアルドが帰ってから、私はルカにたくさん聞きたいことがあったのです。
それは、あの夢渡りの彼女が誰なのかとか、ルカにかかった呪い、間接呪詛の詳しいこととか、そもそも、ルカは誰が呪われた影響で狼の呪いにかかってしまっているのかとか、そういう諸々のことがききたかったのです、が。
当のルカは、死の呪いにかかっているなんてことは全然気にしていない様子で、戸棚から何かを出しているところでした。
「それ、楽器ケースですか?」
「正解だ」
かたんとルカがケースのキーを開けます。出てきたのは、年季の入ったヴァイオリノでした。
「弾けるのですか?」
と私がきけば、
「まあそこそこに」
と楽器を取り出し、弓に松脂を塗りながらルカが答えました。
それから、少し遠慮がちに、ルカが弓を構えて弦に滑らせると、美しい音色が響きます。ルカの長い指が、弦をすべっていくのはとても綺麗でした。
「わあ、すごいですね!」
ルカは楽しそうにこちらを向きました。
「さて、何を弾いてほしい?」
「そうしたら何か流行歌でも」
ルカが弓を引くと弦が音を奏でました。少し悲し気な、重たい甘い音色のメロディが響きます。
ああ、この曲は知っています!
神殿の巫女たちがこっそり歌っていました。ほんとはダメなんですけど。世俗的な歌ですからね。そういうのは神殿ではなんとなく咎められる空気なんですよね~。
「……あなたを置いて去るならば、千のかなしみが心を乱す」
私が歌うと、ルカは少し微笑みました。
「いい声をしてるな」
「えへへ、それほどでも……」
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