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しおりを挟む数カ国と十数部族を配下に置く皇帝であるお父様に射すくめられるたセリアージュ王子は、先程までの威勢は何処へやら。
完全にお父様の威圧に呑まれている。
この様な状態のことを、遠方の島国では何と表現していたかしら…。
確か、シェラークに睨まれたパニラ…、だったかしら?
帝国南部に在る部族の方達には、どちらも食用として好まれているみたいだけれど、ちょっと女性には受け付け難い見た目よね。
そんなものに喩えたなんて知られたらお父様にも叱られてしまうわね、余りにセリアージュ王子がわかり易いものだから、つい。
私ったら彼に興味が無さ過ぎるからって流石に余計な事を考え過ぎね、気をつけなくては。
「セリアージュ王子だったかな?
リリーシアはそれ程に君にとって足りなかったかね」
今のお父様の表情は、お父様という人を親しく知らない者から見れば、大層不敵な笑みを浮かべているように見えるでしょう。
しかし、娘である私には分かります。
お父様は心底セリアージュ王子の様子を愉しがっておられる。ああ、そんなにニヤニヤとはしたなく笑わないで下さいませ。
ほら、後ろに控えるジークムルド様が呆れていらっしゃるではないですか。
…まあ、ジークムルド様も周りからは変わらず無表情のままに見えていると思いますが。
「……ええ、失礼を申しますが、リリーシア嬢は到底我が国の妃に相応しいとは言えません」
私がそんな事を考えている間に、セリアージュ王子は持ち直したようです。
全く失礼を申していると思ってはいない口調と態度で、はっきりとそう口にされました。
その内容は私に対しての事ですのに、思わず遠い目をしてしまいそうになります。
「ほう、それは例えばどのような所がかね?」
セリアージュ王子の反応は予想通りだったのでしょう。
彼の態度にも眉ひとつ、口角の1ミリも動かさずにお父様が更に訊ねます。
それにセリアージュ王子も、堂々と返答に口を開きました。
「先ず、彼女は我が国に来てからのこの一年余りを妃教育に充てるでもなく常に茶会を催し、そうでなければ城外へと遊びに出る日々を繰り返していました。
自らの身分が如何程と思っているのか、王族である私にすら頭も垂れず礼も弁えず、平然と話しかけてくる。
挙げ句私と親しくしていると言う理由で他人を平気で貶め傷つける始末!!
この様な者の何処が妃に相応しいとは言うのか。
この様に娘を育てるなどと、親の顔が見てみたいものです!」
そう言い切ったセリアージュ王子は、何も知らずに見れば確かに堂々たる王族なのかもしれない。
彼の中ではそれが真実であり、正義なのだろう。
その真実がどの様なものか、知らないままであれば。
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