超人ゾンビ

魚木ゴメス

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「ミマヨ、こいつが着てきた物全部持ってこい。あとキャリーバックあるか?」

「あるわ。ちょっと待ってて」

 盛肚の衣類の入った籠とキャリーバックを持ってミマヨが戻ってきた。

 悪臭を放つ靴下、トランクスを顔をしかめながら死にかけの盛肚に穿かせせ、シャツとスーツも着せる。

 盛肚をマンションに入って来たときの姿に戻すと、Tは立ち上がりミマヨに背中を向けた。

 後ろを向いたTの彫刻のような肉体が見る見るうちに変化を始めた。

 っているのかTには陰毛がなかった。

 産毛うぶげもほとんど目立たなかった。

 唯一はっきり主張するウェーブのかかった豊かな頭髪、それがあっという間に頭皮に溶け込むように消えていった。

「……!」

 二十秒もかからずにその肉体はつるつるのマネキンのようになった。

 これ以上ないくらい大きく目を見開いてミマヨが見つめる中、Tの背中に亀裂が生じた。

 蛹から蝶が羽化するように、前屈になった全身つるつるのTの中からもう一人のTが出てきた。

「……! ……!」

 透明なTの脱け殻を脱ぎ捨てたTがこっちを振り向いた。

「タラー。こんなんできちゃいましたー」

 口をあんぐり開けているミマヨに片目を瞑っておどけてみせる。

 手際よく着ぐるみを着せるようにTの脱け殻の中に盛肚を入れた。

 サイズにかなり余裕があった。

 脱け殻の背中の切れ目を重ね合わせ、上からアイロンのように掌で何度か擦ると継ぎ目が全くわからなくなった。

「これで万一盛肚から血が流れ出ても、脱け殻の外に洩れることはない。三十分しか持たんけど」

 Tはミマヨに向けてにっと笑った。

「これからこいつを圧縮して、おまえのキャリーバックに入れて外に出る。圧縮するところは見ないほうがいい。グロいから。ちょっとそっち向いてろ」

「わかった」

 一分ほど、骨を砕いたり肉を押し潰すような音がしていた。

「よし。もういいぞ」

 キャリーバックの外観からは、そこに盛肚が入っているとは思えなかった。

「ちょっと持ってみろ」

 ミマヨの力では絶対に持ち上がらない重さだった。

 盛肚が中に入っているのは間違いなかった。

「そういえば盛肚って一人で来るのか? それとも運転手かなんかと来るのか?」

「一人よ。いつもタクシーで来てるわ」

「帰りも同じか」

「同じよ。あたしがいつもマンションの外まで出て見送ってるから、確かよ」

「なるほどね。そりゃあいいや。それは都合がいい。じゃあ今日もそうするか」

「え、でも……」

 言いよどむミマヨの顔に今日何度目かわからない驚愕の表情が浮かんだ。

 モーフィング動画のように裸のTの姿がスーツを着た盛肚に変わったのだ。

 顔だけでなく体格まで同じになった。

 何なの? この人は一体なんなの? でも、素敵ぃーっ! 

「じゃタクシー呼んでくれ。おまえも早く仕度しろ。下でオレを見送るまでだけどな」
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