超人ゾンビ

魚木ゴメス

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「なに笑ってるの?」

 Tの体の上で悦子がいてくる。

 天幕てんまくつきのキングサイズのベッドで全裸で抱き合う悦子とTの間に挟まれた二つの巨大な乳房、その両乳首からは絶えず母乳が垂れ流されている。

 シーツは母乳でグショグショだ。

 空気中に漂う母乳の粒子りゅうし多過おおすぎるため、寝室にはむせ返るような乳のにおいが満ちている。

「ん~、ちょっとな」

 昨日のトヨ、魔獄との3Pを思い出しただけだ。

 蚊藤殺害後、悦子は病院に運ばれ、精密検査を受けた。

 数日間の療養を経て、警察の事情聴取も終わった悦子には行くあてがなかった。

 蚊藤の母乳奴隷だった悦子は、スズメの涙ほどの手当てしかもらっていなかった。

 とりあえず、その日の宿を探そうと力ない足どりで歩いていると、見知らぬ青年に立ち塞がれた。

「オレだよ、ママ」

 その声には聞き覚えがあった。

 まぎれもなくそれはTの声だった。

「あ、あなた……坊や、なの……? でも、その顔は……?」

「カムフラージュだよ。ほら」

 青年は右手で顔を上から下へ一撫ひとなでした。

「……!」

 そこには美しく邪気じゃきのないTの顔があった。

 一体……? 

「おっと、そう驚かないで。悪いけどさっきの顔に戻すよ」

 もう一度、顔を一撫でした。

 声だけTの、さっきの知らない顔に戻った。

「警察でいろいろ大変だったろ。ママには行くとこがないってわかってたから、迎えに来たよ」

 その言葉を聞いて不覚にも涙が出た。

「ふぐっ、ううっ」

「泣かないで、ママ。いや、泣いていいよ。好きなだけ泣きなよ。でもオレが泣かしてるように見えたら注目浴びてマズいかも」

 悦子はTの胸に顔を押しつけて泣いた。

「ほんとは胸にぐりぐり顔を埋めて泣くのはオレの役目なんだぜ?」

 耳元でそうささやかれて、今度は体の内側が急速に熱を帯びてくるのがわかった。

「悦子! おまえはオレのものだ! どこにも逃がさないぜ? おまえをママと呼ぶか悦子と呼ぶかはそのときの気分でオレの自由だ。わかったな?」

 しびれるような歓喜に、悦子は全身を包まれた。

「マァマァ~、ぼく早くママのおっぱい飲みたいでちゅう」

 急速に乳が張ってきた。

「オラッ、さっさと歩け乳ブタッ!」

 ゾクゾクするような恍惚感に襲われた。

 人格の豹変を繰り返すTに言葉でなぶられながらも、ぴったりとしがみつくようにTに寄り添って少し行った先に、パーキングメーターで停まっているレクサスがあった。

「オラッ、さっさと乗れっ!」

 運転中もTは悦子を言葉で翻弄ほんろうし続けた。

「メチャクチャにしてやるからな、覚悟しとけよこの乳ブタッ」

 あああ……

「マァマァ~、ぼくのこと、いっぱいいっぱい可愛がってね?」

 あうう……

 三十分後、着いたのは杉並区にある高級マンションだった。

 リモコンでシャッターゲートを上げ、地下駐車場に入って行く。

 車から降りたとき、悦子の座っていたシートを見たTが言った。

「こりゃあ、紙オムツしとくべきだったかぁ?」
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